Soup Stock Tokyoに学ぶ「小さいことはいいことだ」の哲学

Soup Stock Tokyoに学ぶ「小さいことはいいことだ」の哲学

©榎本麻美/文藝春秋

「駅の小さなスペースに店を出したおかげで今のスープストックがある」と語る株式会社スマイルズの遠山正道社長。この成功から生まれた「小さいことはいいことだ」という哲学は、エキナカから飛び出して新しい業態にも積極的に応用されている。今あらためて思う「駅」という商業空間の新しい使い方とは?

◆ ◆ ◆

■駅から家庭へ 「冷凍スープ」の試み

――スープストックとしては、最近では冷凍スープも注目されています。「駅」を足がかりに今では駅から飛び出して幅広い展開をされている印象です。

遠山 百貨店の地下で冷凍スープだけを売っている店を出しているんですけど、冷凍食品だけの店って百貨店では初めてじゃないですかね。通販もやっていてこちらも伸びています。

――場所を選ばずに利用できるので、冷凍スープはありがたいですよね。

遠山 先日、サシイレストの人にあったんです。差し入れ専門家の人に。そうしたら、差し入れのベスト5にスープストックの冷凍スープが入っているというんです。その方は宝塚ファンだそうで、公演が終わると楽屋に挨拶に行くと。その時にスターの方に差し入れの冷凍スープを渡す。冷凍スープなら4〜5時間は持つから、家に持って帰って疲れたなあって時に「これ飲んで寝ようか」と重宝されるそうなんです。

――色合いもカラフルだし、奥さんへのお土産にするのもよさそうです。

遠山 私が言うのも変ですが、スープ嫌いの人って滅多にいないじゃないですか(笑)。それに冷凍スープは重量感があるからありがたみもある。好きなものを選んでもらえるし。そういう意味では、スープストックはどんどん家庭の中に入っていくという新しい展開につながっているのかもしれないです。

■最近興味があるのは「ひとりビジネス」

――現在は駅への出店はそれほど積極的に進めていないようですが、逆に“駅”という環境を使った新しいビジネスのアイデアなどはあるのでしょうか。

遠山 そうですね、やはり「小さいことはいいことだ」ということが根幹にあるんです。駅の小さなスペースにハマったことでスープストックは成長できた。だから、駅の中の小分けされたスペースって他にもいろいろ使えるんじゃないかと思うことはあります。たとえば最近興味があるのは「ひとりビジネス」。単位が小さいと、それに伴って物理的にリスクも小さくなる。背負うリスクが小さいと、その分思い切りがよくなるので企画も際立ってくる。個人個人の情熱やセンスがそのまま出てきて、その人の人生そのものが出てくるというのかな。とても魅力的な企画が生まれやすいんです。

――実際、スマイルズではこうした「ひとりビジネス」の取り組みをされてきていますね。

遠山 そうですね、社内ベンチャーで独立した者もいたり、魅力的な個人に出資もしています。例えば「森岡書店」。5坪で1冊の本だけを売っている書店です。それから、瀬戸内海の豊島にはスマイルズで働いていた夫婦がやっている「檸檬ホテル」があります。これは築90年の古民家を再利用したもので、1日1組2〜6名が和室1室で雑魚寝して、300坪の檸檬畑を自由に使うというもの。他にも、西早稲田のジンギスカン屋「羊のロッヂ」とか、社内ベンチャー第1号の新宿のバー「toilet」とか。どれも小さい単位でやっている企画で、だからこそおもしろいものができているし、どれもうまくいっているんです。

■たくさんの人が行き交う駅だからこそ、できることは何か?

――SNSの時代というのもひとりビジネスにマッチしていそうですね。

遠山 「森岡書店」にしても、SNSひとつで遠くまで知られるわけです。イギリスのガーディアン紙が取材に来たり、フランスのカルフールの役員がインタビューに来たり、中国のSNSで話題になっていたりとか。これがもし50坪もある大きい本屋だったらそうはならない。普通の本屋になっちゃいますから。小さくて際立っているからこそ、遠くまで届く。そこにひとりビジネスの魅力があるんです。

――そして、その「ひとりビジネス」は駅にふさわしい、と。

遠山 ちょっと無理矢理の想像になりますけど、駅に一坪くらいの小さなユニットがダーッと並んでいて、その中でいろいろな人がいろいろなことをやっているとかね(笑)。例えば、毎週月・火・水は漫画家や小説家がそこで原稿を書いていて、オフ会みたいにファンの人が見に来るとか。ネットを通じてオフ会の会員になっている人だけが中に入れる。駅って不特定多数の人が行き交う場所ですよね。そこに閉じた小さなブースがあって何かをやっている。ギリギリ開いてギリギリ閉じているような空間は、駅にふさわしいんじゃないかと思います。

――誰でもひとりビジネスを始められる時代に、駅という場所が存在感を持ち始めるのでしょうか。

遠山 たくさんの人が行き交う場所だからこそ、際立つ企画をやるのにはいいんじゃないでしょうか。そしてスープストックがそうだったように、小さなスペースをうまく使うこともできるから、鉄道会社にとっても損はないはずです。

■「特定行商人」っていうのはどうですか

――遠山さんだったら、駅の小さなブースで何をしたらいいと思いますか?

遠山 なんでもいいんですよ。技術があればそれを活かせばいいし、ないならないでアイデア勝負。人生相談を4000円でやりましょう、1坪の空間で家族写真を撮る「ひとり写真館」とかなんでもいい。

 あと、昔の行商人のおばさんの拡大版みたいな感じもいいかな。籠を担いで青森で名産品を仕入れて次は鳥取に行ってブースを開いて、売り切ったら鳥取で仕入れて次の町へ……。もちろん名産品だけでなくていろんな情報を伝えたり、出会いもあったりして。ときどき駅のコンコースで地方の名産品を売ったりしているじゃないですか。あれを個人個人がやるっていうのもいいですよね。アイデア勝負で話を聞いたりするのもいいけど、行商人みたいなことをしたらもっと喜んでくれる人が多くなる。

――どういう名前を付けましょうか。

遠山 「特定行商人」っていうのはどうですか。運ぶのはモノだけじゃなくてもいいという。JR公認の特定行商人がいて、ひとりひとりICカード付きのキャップを配られる。築地の仲買人がかぶっているようなやつですね(笑)。改札を出るときはそのキャップをピッとやって……。

――「特定行商人」という旅人たちが全国津々浦々をまわっている感じですね。

遠山 人気の行商人が出てきてテレビで紹介されたり、各地の県知事が「わが町に来てくれ」とアピールしたり(笑)。5〜10人くらいの行商人がタッグを組んでも面白いよね。背負っている籠をパタパタっと開くと小さなブースが出来上がって、そこでみんなが集めた特産品を売る。で、3時間くらいで売り切れたら「じゃあ次の場所に行きます」と去っていく。今週は青森、来週は鳥取と全国を渡り歩く。場合によっては、電車の中で行商が始まるとか(笑)。地方では農家の収穫を手伝って野菜をもらったりして。カッコイイじゃないですか。依頼人の依頼に応じて、地域の魅力の伝道師になってあちこちを渡り歩くって。

■地域格差がある時代だからこそ、ギャップを価値化する必要がある

――交通費はタダにしますか。

遠山 う〜ん、さすがにタダというのはあれだから、10万円くらいは払わないと。そうなれば10万円以上稼げばいい。何もしないという判断もあるけど、そういうサボっている人は翌年は更新されないようにする。

――1年間特定行商人を務めれば、いろいろなところに行っていろいろな出会いを経験して、すごく成長しそうですね。

遠山 普通のサラリーマンが「すみません、行商人になったから1年間休みます」と言ってね。それで日本中巡ってたくましくなって帰ってくる。そうすれば休ませた会社にとってもメリットがあるでしょう。

――駅の片隅に特定行商人が小さなブースを作って各地の名産物を売りさばき始める……、駅に見知らぬ場所への窓口が突然出現する感じです。

遠山 地域格差がある時代だからこそ、都心と地方のギャップを価値化する必要があると思うんです。この格差のギャップをうまく生かせるようなアイデアこそ「駅」に埋まっている気がします。ウチの「檸檬ホテル」は田舎なので家賃が異常に安い。それで景色もいいし、食材もいい。400坪の檸檬畑なんて六本木ヒルズじゃ絶対にできないですけど、それが瀬戸内海の島に行ったらできる。都心と地方の格差をマイナスに捉えるのではなくて、こうやって前向きに捉えればいろいろな可能性が出てくるはずです。

――小さいブースが全国をつなぐ。15坪の小ささがスープストックの成功に繋がったお話と通じるものがありますね。

遠山 大規模にやるのは難しいけれど、個人個人で小さな規模でやるならリスクも小さくてやろうと思えばできますよ。15坪のスープの店だとできないことでも、1坪にすればかなり際立ったことができるはず。100歳まで生きるような今の時代には、こういうリスクを畳んで小さくし、その分面白いことをやっちゃう発想と行動力が大事なんだと思います。昔は「大きいことはいいことだ」って言っていたけど、この時代は「小さいことはいいことだ」なんじゃないかな、と思います。

(鼠入 昌史)

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