新浪剛史の教え#1「多様性を強みに変えるために必要な『受容力』」

新浪剛史の教え#1「多様性を強みに変えるために必要な『受容力』」

©文藝春秋/石川啓次

 三菱商事、ソデックス、ローソン、サントリー……。私は社会人になってからこれまで、商社、外食、小売り、製造業と、さまざまな場所で仕事をしてきました。私がそこで何を考え、なぜ挑戦し続けることができたのか。現在までのキャリアの中から、本当に役立つエッセンスをこれからお話ししたいと思います。

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■多様性を強みに変える方法

 日本企業は今、ダイバーシティ、いわゆる多様性を取り入れた経営を重視するようになってきています。ただ、その多様性を私たちはどのように利用していけばいいのか、実は本当のところはまだわかっていないのではないかと考えています。では、多様性を強みに変えるとは一体どういうことなのか。最初にその意味について考えてみようと思います。

 まず多様性の効用とは何か。それは新しい発想を生み出すということになるのではないでしょうか。どんどん新しい力を受け入れることによって、まったく新しい爆発みたいなものを起こすということです。

 英語でサイロという言葉があります。それは縦割り組織で、それぞれが他部署を顧みない狭い視野であることを表しています。多様性とは、まさにその反対の意味で、何か新しい考え方、面白いものを皆で発想しようというのが、世間で言う多様性を受け入れるという意味なのです。

 ただ、これには大きな抵抗感が伴ってきます。場合によっては自分がやってきたことが、まったく違う発想の人から否定されているように聞こえることがあるからです。

■日本人のほうが比較的柔軟だ

 日本人の価値観からすると、生活様式が異なる人に対しては結構な抵抗感があるでしょう。いろんな国々の生活様式があって、そういうものを素直に受け入れるということ自体、日本で日常生活をしていると大きな抵抗感があります。

 それぞれの生活様式が違う中で、そこから深く知り合っていくということは意外と難しいことなのです。ごく普通のシーンで、自分たちが当たり前だと思っていることが、挨拶一つとっても違うし、やり方も違う。なんとなく取っつきにくいと最初は思うわけです。

 でも、海外から見ると、実は日本人のほうが比較的柔軟なのかもしれません。例えば、インド人たちは、日本のことを非常に尊敬してくれているし、我々もインドという国は文明の発祥地だという思いがあります。しかし、日本で実際に食事を手で食べている姿を見ると、やはり違和感があります。でも、私たちがインドに行って、一緒に手で食べてみると、意外と違和感なくできてしまう。そういう入口のところを、どう理解していくかということが簡単なことではないんです。しかし、その見返りとして、面白い発想を得ることができるのです。

■頑固なフランス人

 私の一番のダイバーシティ経験と言えば、フランスとの合弁でつくった給食会社でのことです。仕事でフランス人に会うと最初の挨拶は、非常に親しみやすいのです。でも、実際に仕事をしてみると、自己主張が強く、自分が正しいと一歩も譲らないような人たちが一杯いました。その頑固さは本当にすごい。それに比べれば、日本人は意外にも頑固ではないのです。

 彼らは自分たちの考え方が100%正しいと考えています。日本人は全般的に自分の思っていることは正しくないかもしれないという同調性がありますから、彼らの言っていることが、きっといいんだろうと思ってしまう。往々にして彼らの主張が一方的で、さすがにおかしいのではないかと思うことがあります。

 フランス人は、自分たちがつくってきた食文化が正しくて、そのやり方が正しいと思っています。フランスは、世界に冠たる食文化のトップである。それに従うのは当然だという感覚なのです。

 でも、我々は給食会社ですから、日本のお客様は普通のカレーライスを食べたり、蕎麦を食べたりするわけです。お客様からすれば、フランスの食文化が云々ではない。日本なりの地域性が必要なのです。そこをフランス人にはなかなか理解してもらえなかった。

 最後の最後はアジアの本部である香港と、全体の本部であるパリの両方へ月1回ずつ説明しに行っていました。同時に彼らにも日本に来てもらい、実際に現場を見てから判断してもらうようにしたのです。

■学ぶところは学ぶ

 でも、確かに良い面もあるんです。フランス人の食に対する強いこだわりは、日本人のそれよりも強い。そもそもフランスでは「食を給する」なんていう捉え方はないんです。「給食」という言い方は存在しない。彼らにとって食とは召し上がっていただくものであり、エンジョイするものなのです。ですから、給食や病院食であろうが、エンジョイしなきゃ駄目なんです。

 私は、それはそうだと思いました。我々と発想は違うのですが、賛同できる部分もあるわけです。だから、そこだけ受け入れればいいのです。いいものは素直に受け取る。これが受容力なのです。学ぶところは学ぶ。駄目なものは採用しない。相違点が10個あれば、そのうちの2〜3個は面白いものがあるものです。私はそれを発見しようというふうに発想を変えたのです。それが、新しい発想を得ることにつながっていきました。

■日本人だけ受容力がないと言うのはおかしい

 ただ、受容力が必要だと簡単に言うのですが、実際には相当な試練です。これは日本人だけが受け入れないというわけではなく、フランス人も受け入れないし、各国みんなが受け入れないんです。日本人だけ受容力がないと言うのではないのです。海外でもなかなか異なるものを受け入れてくれないんですから。

 しかし、受け入れてくれやすい国民性を持った国があります。それがアメリカです。なぜなら移民の国だからです。ただ、彼らと同じようにしたいと思っても、日本はアメリカとは違う。ヨーロッパへ行くと、受け入れてくれやすいと思える国もあるのですが、全般的に言えば、いわゆる異質なものというのは、なかなか受け入れがたいものなのです。

 アメリカは異質なものを受け入れてきた歴史の結果として、シリコンバレーを始めとした新しいものを生み出してきました。まさにアメリカというのは、多様性の坩堝(るつぼ)であるわけです。だからこそ、新しいものがどんどん生まれてくるのです。

■あきらめずに信じる

 アメリカを見れば、多様性はすごいと思うかもしれません。しかし、日本も中国もどこの国であれ、ほかの文化や生活様式が違う人たちが入ってきたら、違和感を持つのは当たり前です。やはり新しい価値観を持つことは、大変難しいことです。結局は、自分のビジョンや、今見えているものが広がることが面白いと体感させないと受容力は本当には身に付かないのです。

 日本企業の中でさえ、グローバル化への投資、人材育成といった問題は一筋縄ではいきません。解決するためには、一緒になって議論して、だんだん馴染ませていく。これは簡単なことではないんです。だからこそ、やり抜いて解決していく。ダメだと思っても、変えると信じることが大事なのです。多様性もそうです。異なることが、きっと面白いものを生む。あきらめずに、そう信じるのです。

聞き手:國貞 文隆(ジャーナリスト)

新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長

1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。

(新浪 剛史)

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