オフィス大量淘汰時代が到来する

オフィス大量淘汰時代が到来する

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 今、東京都心部を歩くと、数多くの工事現場にクレーンが林立し、建設の槌音がこだまする光景を随所に目にすることができる。

 東京都は2020年にオリンピック・パラリンピックが開催されるのだから、関連する工事が多いのだろう、多くの人はそう感じるはずだが、実は五輪施設関連の工事は、国立競技場の新設などの大型工事はあるものの、都心部にそれほど競技施設が建ち並ぶわけではない。

 建設されている多くは巨大なオフィスビルである。

■バブル期に匹敵するオフィスの供給量

 森ビルの調査によれば、五輪が開催される2020年までの4年間に都内では88棟、面積にして約473万uの大規模ビルの供給が予定されている。大規模ビルとは森ビルの定義によれば1棟の床面積が1万u(約3000坪)以上のビルを指す。

 これから東京五輪開催までに年平均で118万uのオフィスが都内で新たに誕生することになる。

 この年間118万uという供給量は、平成バブル期と言われた平成初期の頃の供給量にほぼ匹敵する。平成バブル期と異なるのは供給棟数の違いだ。1989年から92年までの4年間のオフィス供給量は426万uで161棟が供給された。つまり、平成バブル期は1棟平均26,460u(約8,000坪)だったビルの規模が、今後4年間で建設されるビルは53,750u(約16,260坪)と約2倍の規模になるのだ。

 さらに特徴的であるのが、今後供給予定のビルの約70%が都心3区(千代田、中央、港)で建設されるということだ。またこれらの供給のうちの多くが既存ビルの「建替え」によるものだとも言われている。

■都心5区の空室率は改善し「貸手優位」が続くが……

 現在都心5区のオフィスビルの空室率は3.41%(三鬼商事調べ)。数年前と比較するとなんと3%以上の改善である。オフィスの需給バランスは極めてタイト、つまり「貸手優位」の状況が続いている。

 今後の大量供給も老朽化した既存ビルの建替えであるから、オフィス床が大量に余ることはなく、さらに東京都では、今後東京をアジアの金融センターにする構想もあり、これからは外資系企業を呼び込む必要があることから、オフィス需給のバランスは崩れないというものだ。

 しかし、マーケットを注意深く見ると、どうもあまり楽観はできないようだ。

■「押すと餡出る」効果が空室率改善の本当の理由だった

 ポイントは「今後供給される予定のビルの多くが既存ビルの建替え」であることだ。都内のビルの多くが現在、建物の老朽化問題を抱えている。建替えるにあたっては当然、今入居しているテナントに対して立退料等を支払って退去してもらうことになる。

 退去を余儀なくされたテナントはどこに行くだろうか。仕方がないので、別のビルの空室を探し出してそこに引っ越すことになる。それまで空室を抱えていたビルの稼働率は改善する。

 ここ数年で、都内の既存オフィスビルが建替えにあたって取り壊され、ビルを追い出された大量の「テナント難民」を生じさせているのだ。難民の多くが既存ビルの空室に収まったがゆえに、既存ビルの空室率が大幅に改善する。このシナリオで計算すると、実は、ここ数年における空室率の3%以上の改善は、ほぼ説明ができてしまうのだ。

 こうした「押すと餡出る」効果が、実は都心部のオフィスビルの空室率改善の「本当の理由」であることは、あまり知られていない。

■月坪4万円以上の賃料を負担できるテナントはほんの一握り

 壊されたビルの多くは、都心部の容積率(土地面積に対して建設できる建物床面積の割合)割り増しの恩恵を受けて巨大なオフィスビルに生まれ変わる。

 これからの東京は都心部には巨大ビルが林立する。ワンフロアの貸付面積も500坪程度はあたりまえ、中には1000坪を超えるような航空母艦のようなビルまで誕生する。

 都心3区であれば賃料はおおむね月額坪当たり4万円を超える条件となってくる。

 さて、これらのビルのすべてが出そろった時に、そうしたビルに入居するテナントがどのくらいいるのだろうか。

 月坪4万円以上の賃料を負担できるテナントは、外資系金融機関、コンサルティング会社、国際法律事務所、一部の上場グローバル企業などほんの一握りにすぎない。マーケットにどんなに超高級物件を並べても、提示された条件を負担できるテナントはごく少数なのだ。

 国内の有力デベロッパーは、相も変わらず、丸の内は三菱、日本橋は三井、六本木は森、新宿は住友といった縄張りを作り、ライバルの領地に攻め込むという国盗り物語に余念がないが、みな自社の開発した巨大ビルには必ず坪4万円以上の賃料を負担してくれるテナントが入居してくれるはずだと考えているようだ。

■不動産会社社長の名刺から東京本社のアドレスが消えていた

 さて国際金融センターにしていく構想は実際にはどうだろうか。私の知人で香港に事務所を開いて金融、不動産関連で活躍している会社社長と先日会ったとき、彼の名刺から東京本社のアドレスが消えていた。

「東京の事務所はどうしたのですか」と尋ねる私に知人はこう答えてくれた。

「いや、事務所はありますが、名刺に記載するのはやめました。東京のアドレスじゃ、香港やシンガポールでは相手から『まあ、遠いところから大変ですね』とお客さん扱いされるからです」

 これからは東京が国際金融センターになるのではと聞く私に彼は微笑しながら、

「牧野さん、東京はね、アジアのファーイースト(極東)なのですよ。シンガポールから7時間半もかけて来てくれる人なんか誰もいないですよ」

と語ってくれた。

 2020年、巨大航空母艦ビルは、テナントを求めて既存の大型ビルのテナントを引っこ抜く。引っこ抜かれた大型ビルは中型ビルのテナントに手を付ける。中型ビルは小型ビルのテナントへ。東京オフィスビルマーケットは「テナントドミノ倒し」のスタートである。

(牧野 知弘)

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