新浪剛史の教え#7「なぜ日本人は変われないのか」

新浪剛史の教え#7「なぜ日本人は変われないのか」

©文藝春秋/石川啓次

 三菱商事、ソデックス、ローソン、サントリー……。私は社会人になってからこれまで、商社、外食、小売り、製造業と、さまざまな場所で仕事をしてきました。私がそこで何を考え、なぜ挑戦し続けることができたのか。現在までのキャリアの中から、本当に役立つエッセンスをこれからお話ししたいと思います。

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■働き方をコントロールすべき

 現在、政府を中心に働き方改革が推進されていますが、皆さんの会社では、どんな働き方が求められているでしょうか。

 経営戦略上、組織の生産性が低いというのは大変な問題です。だからこそ、生身の人間の生産性を高くするためには、休むことは大変重要なことだと考えています。私は夜中まで仕事をしている人が偉いなんてまったく思いません。そんなことを何日もやっていたら、生産性は悪くなるに決まっています。それは会社にとって大きなマイナスです。こうした働き方改革は、経営者として当然やらなければいけないことなのです。

 しかし、私自身は精神論的な話が嫌いではありません。ガッツも重要ですし、それが組織のモチベーションを高めていくことにもつながります。ただ、これまではバランス感覚として、組織のほうを重視しがちだったのではないでしょうか。

 これをもう一度見直して、働き方をコントロールすべきなのです。本当に疲れると前向きな議論や仕事はできません。そうした当たり前のことを考えていくことが必要なのです。

 ただ、その一方で、“濃く”仕事をすることも重要です。濃く仕事をして、その後は必ず休むということです。濃く仕事をすることによって人は育ちます。ただ、いつも濃くやっていたら仕事は続きません。薄いときは薄くやっていい。だからこそ、「ここぞ!」というときに濃く仕事ができることが大切になってくるのです。

■結果に対して組織で評価しているか

 単に残業をしてはいけないということではなく、今ここで集中していかなければいけないときには集中していく。それは、その人がプロフェッショナルになるうえで、そのタイミングが来たということです。やはり社員の育成という観点からすれば、濃く働いてもらうことは重要なことなのです。

 しかしなぜ日本企業では、こうした働き方が問題になってくるのでしょうか。それは、結果に対して組織で評価をするということをやってこなかったからです。みんなでやって駄目だったらしょうがない。そうした諦めや満足感が日本企業にはもともとあるのです。

 他方、アメリカの場合は目的に対してシビアです。ある目的のためには今まで優秀だったスタッフも、違う目的にとって優秀ではないとわかれば、躊躇せずに外すわけです。つまり、アメリカでは目的のためにきちんとした意思決定ができるかどうかが重要なのです。

 しかし、日本人は嫌われたくないことが先に立つんです。田植え文化ですから、嫌われることを極端に嫌がってしまう。だから、一緒に何か物事をやろうということは得意なのですが、何かを変えていかなければならないときには、非常に動きが鈍るのです。

■なぜ変わりたいけれど変われないのか

 むろん日本式にもアメリカ式にもメリット、デメリットはあります。ただ、日本はどうしても流れに任せてしまうところがあります。もしそういう感覚でも、日本で生きているなら、ある程度生きることができるんです。仮に日本の人口が今も増え続けていて、活力があって、若い世代が活き活きとやれる時代ならそれでもいい。

 しかし、グローバルに出ていくとなれば、いかに自分と違う考え方とアウフヘーベンするのかということが課題になってくるわけです。

 その点、韓国は違います。国内のマーケットが小さいために、積極的に海外に打って出なければならないからです。日本は国内だけでも快適ですから、外へ行かなくなっているんです。将来どうなるかわからない、大変だと思いながらも、何とか今を生きられるようになっています。だからこそ、 同じ過ちが繰り返されてしまうのです。

 今の日本人もメンタリティは変わっていません。変わらなければいけないことはわかっているのですが、どうしても変われないのです。

 しかし、現在の働き方改革が進み、生産性を上げることができれば、高齢者や女性の労働参加を呼び起こすことも可能になりますし、生産性の向上と労働力の供給を同時に行うことができるのです。その結果、日本経済を引き上げていくことも可能になるのです。

■誰かがやれば、必ず動き出す

 今、宅配便の配達員やバスの運転手、飲食店のアルバイトが足りないと指摘されるように、人手不足は深刻な状況に陥っています。その結果として賃金の引き上げという現象が起こっています。その意味では、デフレが終焉し、賃金が次第に上昇するという今までとは違う環境になってきているのは事実です。では、これからどうなっていくのでしょうか。

 私は、日本はやらなければならない環境に追い込まれたら、必ずどこかで問題解決する力が機能すると考えています。ただ、それまでには時間がかかるんです。でも、誰かが最初に動き出したら、みんなが一斉に動き出します。今もみんながそうだと思いながら、誰がやるのか見ているわけです。誰かがやれば、必ず動き出すのです。

聞き手:國貞 文隆(ジャーナリスト)

新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長

1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。

(新浪 剛史)

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