新浪剛史の教え#8「失敗した人のほうが面白いじゃないかという社会に」

新浪剛史の教え#8「失敗した人のほうが面白いじゃないかという社会に」

©文藝春秋/石川啓次

 三菱商事、ソデックス、ローソン、サントリー……。私は社会人になってからこれまで、商社、外食、小売り、製造業と、さまざまな場所で仕事をしてきました。私がそこで何を考え、なぜ挑戦し続けることができたのか。現在までのキャリアの中から、本当に役立つエッセンスをこれからお話ししたいと思います。

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■若い人たちがもっと主役になれるような社会に

 日本経済は今後、どうすれば本当の活力を取り戻すことができるのでしょうか。どんな国であれ、若年層の活力がない国は滅びてしまいます。それは過去の歴史を見ても明らかです。現在の日本は確かに世界的に見てもトップクラスの豊かな国です。多くの識者も日本経済の強さについて自信を取り戻すように主張しています。

 しかし、それでも何かが足りないのです。年齢の高い人なら過去の自分の経験で生きることができますが、未来を見て新しいことをやっていくほうが誰だってワクワクするはずです。そうした新しい活力が今、日本経済、そして我々の生きる社会に必要なのではないでしょうか。

 それには、若い人たちがもっと主役になれるような社会にしなければなりません。働き方改革においても、高齢者や女性が参加し、生産性を上げていくというのは、若い人たちが中心になることが、まず大前提だからです。

■GDPで日本の活力を測らない

 とくに、これからは20〜40代の人たちがバリバリ働ける場をつくっていかなければならない。日本人全体が、今そうした社会を目指す気持ちになっているかどうか。まさに分水嶺のときなのです。本当の意味での活力とは、生きている喜びから生まれます。そうした活力を若い人たちが持つというのは、GDPの数値を見て日本経済の活力を測るような方法とはまったく異なるものなのです。

 今の20代の若者たちは、上の世代と比べて変わっていると言われます。彼らは経済が成長しない中で、若年期を過ごしてきたため、節約志向が強く、車も買わない、家も買わないと言われています。バブルを経験した世代と比べて派手さもなく、消費を牽引することもない。まるで活力のない世代のように見られることがあります。

 でも、実際にはそんなことはないのです。例えば、ベンチャー企業を見れば、昔より明らかにベンチャーを志向する若者が増え、新しいことをどんどんやり始めています。例えば、アメリカのAirbnb(エアビーアンドビー)やUber(ウーバー)などシェアリングエコノミーの新しいアイデアの世界というのは、若い人たちがつくった世界です。日本でもそのような事例が増えています。

 消費でもそうです。例えば、ハンバーガーでも本当においしくて意味があるものには、高くてもお金を出しています。つまり、質と意味があるものにはお金を払う。そうじゃないものにはお金を払わないということなのです。今後、そうした消費マインドが変わっていく局面において、若い人たちがどんどん新しいアイデアを出していけば、もっと社会の活力は高まっていくはずだと私は考えています。

■面白いことを拡げることが大事

 だからこそ、今までのようにGDPの数値だけを見て経済の活力があるかどうかを判断しないほうがいいのです。むしろ、変化の兆しを逃さずに若い世代の良いところを見出すことで、「面白い」「変わってきた」と言い始めることが重要なのです。
現在は高齢化ばかりにスポットライトが当たりますが、そもそも物事にはダークサイドとブライトサイドがあります。明るいところにいる者ならば、面白いことをどんどん指摘して、拡げていくことが必要なのです。

 それには、「何事も捨てたもんじゃない」と思うことが重要です。とくに20代は、面白いベンチャーをたくさんやり始めているし、それを支援する資金も出るようになってきました。大企業をすぐに辞めて、ベンチャーに行く人も増加傾向にあります。こうした動きは、非常にいい傾向なんです。そうした社会の変化を見ていると、私も日本の将来は大丈夫だと確信することができるのです。

 これからの問題は、そうした動きをいかに政策的に醸成させていくかということです。何かを始める人たちを応援する。大企業に行かなくてもいい。そうやって若者を支援していくことができれば、これからも日本は生き残ることができるのです。

■若い人たちが自分でリスクを取り始めている

 例えば、私が注目しているベンチャーは、ロボット分野です。とくに介護ロボットなど社会的に意味のあるものこそ、ベンチャーや中小企業にやってほしいのです。

 日本のベンチャーがアメリカのそれと違うところは、お金よりも、社会的に意味があるからやるという考え方です。そう考えて、実際に取り組んでいる人たちは本当に尊敬します。昔は能力があるなら、大企業に入れば良かったけれど、今は大企業から出て行って、自分で物事を動かしていく人になったほうがいいのです。

 その意味で、今の日本は人材をうまく活用していないと感じています。大きな組織で何年も待って好きなことができるのかどうか悩んでいるのなら、自分でやってしまえばいいのです。実際、若い人たちは自分でリスクを取り始めています。私たちの世代ではできなかったことを、今の世代はやろうとしているんです。

 私たちの世代は、人材の流動化もなかったし、ベンチャーに投資されることもありませんでした。ところが今はリスクマネーがベンチャーに集まるようになった。しかもベンチャー自体が社会的に受け入れられるようになってきています。新しいことをやろうとすることを社会が受け入れるようになってきた。私は、それは良い兆候だと思います。

■失敗を尊重する社会にしよう

 現代は失敗ができる世の中になりつつあるのです。もちろんビジネスで失敗したことを自慢できるような社会になったとはまだ言えません。しかし、失敗したことが活かされるようになるだろうとは考えています。あと5年も経てば失敗事例がたくさん出てきて、失敗した人のほうが面白いじゃないかという社会になってくるはずです。

「失敗したから、あいつはけしからん」という考えは、むしろ「あいつはチャレンジしたんだよな」と、これから変わっていくでしょう。実際にこれだけ起業している人が増えていれば、失敗は必ず起こってきます。でも、社会に迷惑をかけない失敗だったらいいのではないか。

 中小企業にも今、すごく良い会社がたくさんあります。そこにもっと優秀な人材が行くようになれば、社会はもっと大きく変わっていくはずです。

聞き手:國貞 文隆(ジャーナリスト)

新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長

1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。

(新浪 剛史)

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