新浪剛史の教え#9「AIとリベラルアーツ」

新浪剛史の教え#9「AIとリベラルアーツ」

©文藝春秋/石川啓次

 三菱商事、ソデックス、ローソン、サントリー……。私は社会人になってからこれまで、商社、外食、小売り、製造業と、さまざまな場所で仕事をしてきました。私がそこで何を考え、なぜ挑戦し続けることができたのか。現在までのキャリアの中から、本当に役立つエッセンスをこれからお話ししたいと思います。

◆ ◆ ◆

■AI時代に求められるもの

 AIの進化に対して、どんな職業がなくなり、何をすれば生き残ることができるのか。最近、いろんな場で議論がなされています。では、我々はAIにどう対処していけばいいのでしょうか。実は、私はAI時代に求められるものこそ、人間がよりヒューマンになることだと考えています。それは、自然と人との関係や人情、または人の気持ちを推し量る力を高めることだとも言えます。

 これからディープラーニングは間違いなく進化していくでしょう。しかし、「あの人にはオーラがある」という感覚は、コンピューターには絶対にわからないはずです。人間が本来持っている最終的な根っこの部分はAIにはわかりません。だからこそ、人間らしさがますます必要になってくると言えるのです。

 その意味で、これからは自然に触れて感動する、歴史を勉強する、音楽やアートを勉強する。そうしたリベラルアーツというようなものが、ますます重要になってくるでしょう。それらに習熟した人をリーダーとして育てていくことが必要になってくると考えています。

 それは、むしろ当然のことです。テクノロジーが発展すればするほど人間というのは逆にヒューマンなものを求めるからです。

■ひらめきを生む人はたいてい感受性の強い人

 一方でテクノロジーをやりたいという人たちもたくさん出てきています。プログラミングやデータ処理をするITリテラシーを高めることは、むろん必要なことです。でも、気を付けなければならないのは、ITに行き過ぎると非人間的になってしまうことです。だからこそ、人間的なところともっと接点を持たせるべきなのです。

 実は科学者の中でも、文学やアートを理解し、リベラルアーツを是とする人たちのほうが成功しています。科学で大事なことはひらめきです。そのひらめきを生むためには研究の積み上げも必要ですが、どこかで突然脳が覚醒するようなひらめきは、様々な視点を育むリベラルアーツがもたらしてくれます。ひらめきを生む人はたいてい感受性の強い人です。リベラルアーツを理解しているし、サイエンスもできる。ITに特化するよりも、そうした人材を今後育成していくべきなのです。

 本来であれば、大学4年間でリベラルアーツをやればいいのです。正直に言えば、大学に入る前に、本当は自分が何をやりたいのかなんて、わかるわけがないのです。大学に入ってから、場合によっては4年間徹底的にリベラルアーツを勉強する。そのあとで、自分は法律をやりたい、医学をやりたい、ビジネスをやりたいと決めればいいのです。

■特別な人を目指さない

 もっと言えば、大学を卒業して就職した後に、アメリカのように大学院に入って専門的な勉強をすればいい。そういうことができる社会に変わっていけばいいんです。要は、しっかりリベラルアーツを磨くということが大学の役割だと考えています。そうしたリベラルアーツがあるからこそ、いいお医者さんにもなれるのです。

 ですから、AIが進めば進むほど、リベラルアーツが重要になってくると思います。科学をやりながら歴史を学ぶ、音楽を学ぶ。アメリカの理系の名門大学であるマサチューセッツ工科大学(MIT)の学生を見ていたら、音楽に触れながら科学もやるような学生がたくさんいます。一見、音楽と科学は、違う世界に見えるかもしれませんが、科学は人間と向き合ってこそ、進化できるものです。だからこそ、科学者が人間力を磨いていかなければ、世の中に役立つテクノロジーも生まれないのです。

 イノベーションを起こす人の中には、本当に個性的な人がいます。スティーブ・ジョブズなんて、その最たるものでしょう。そういう突出した人たちを目指すというのは異例中の異例のこと。むしろ、そんな特別な人を目指すよりも、私たちは、もっと社会に役立つ人間になればいいんです。逆に言えば、ジョブズも社会のことを考えている人たちにうまく使われてきたんです。ジョブズのような天才児をどう社会に活かすのか。そう考えて面白いことをやろうとしてやった。だから、社会を変えられたんです。私の知っているジョブズの部下も非常にヒューマンな人だったし、そういう人がいなかったら、社会を変えられなかったと思います。

■ジョブズを支えた日本人

 天才がビジネスや社会性のある器をつくっていくというのは、周りに社会との接点をしっかり持った人がいないとできないことです。実際、私の知っているジョブズの部下は、すごく人間味のある沖縄出身の日本人でした。ポリティカルサイエンスが専攻で、ジョブズが禅や日本を好きになったのは、彼の影響なんです。

 彼はとにかく表舞台には出ないでジョブズを支え続けた人でした。ジョブズがアップルをクビになったときも、行動を共にして自分は表に決して出ないという人だった。

 そんな人間を見て感じるのは、マチュリティ(成熟度)の深さなんです。やはりこういう人がいるからこそ、できる。決して一人で事を成すことはできないんです。自分が能力を高めていくことも大事ですが、周りの人をいかに使っていくのか。それは人間性にも関わってくるのです。自分に能力があると思ったら大間違いです。能力があって、仕事ができる人に、その気になってやってもらうことが大事なのです。

■ベンチャーキャピタルをつくればいい

 ハーバードビジネススクールでも、自分より優秀な人間はたくさんいました。でも、できる人の中には、どこか人を引っぱる上での弱点がある人がいます。そんな人に組織運営はできません。しかし、持っている能力はすごい。だからこそ、「あなたの能力をうまく使いましょう」と演出する人がいないと、彼らは活かされないんです。

 自分にはできないから、できる人を活用する。この人と競争しても、この世界では絶対勝てない。そういう人たちを活用して、ベンチャーをつくればいいんです。結局、私が言っている役割とは、ベンチャーキャピタルのようなものなんです。お金を出して、人脈を紹介し、経営をサポートし、うまくセットアップしていくのがベンチャーキャピタルです。

「この人はすごい」と思う人をうまく使っていく。でも、アメリカにはものすごくできるうえに、使う人にもなれる人がいます。そんな人たちとは仲良くするしかない。それは日本なら1000万人のうち1人いるかどうかといった人材なのです。私たちにはそれは叶いません。だからこそ、できる人を活用することが大切なのです。

聞き手:國貞 文隆(ジャーナリスト)

新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長

1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。

(新浪 剛史)

関連記事(外部サイト)