脱「ブラック企業」を掲げるユニクロ柳井正さんが喝破した「最悪な日本」とは

脱「ブラック企業」を掲げるユニクロ柳井正さんが喝破した「最悪な日本」とは

ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正社長 ©AFLO

 ユニクロの柳井正さんは、私個人としてはとても好きな経営者の一人で、歯に衣着せぬ物言いと、明哲な問題意識とでおおいに吠えておられ、暴言とは無縁の私からしますとなかなか刺激的なんですよね。そうかと思えば、物議を醸しながらもアパレル業界のオンリーワンとも言える凄まじい好業績を打ち立てて株式市場に屹立して有無を言わせぬ存在感を示しているのは、有言実行、実力に裏打ちされた発言力の強さといったところでしょうか。

■「このままでは日本は滅びる」とハッパ

 先日も、突然日経ビジネスに柳井さんが出てきて、何を言い出すかと思えば「このままでは日本は滅びる」と題して日本人にハッパをかけています。日本で稼げる人がいなくなったとか、議員も官僚も半分にしろと素敵な放言を次々と繰り出して、好業績を笠に着て詳しくない世間一般のことを大上段から切り下ろそうとする柳井さんの素敵な姿に感心します。私、大好きですこういうの。

柳井正氏の怒り 「このままでは日本は滅びる」
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00357/

 以前にも、ヒューマンライツ・ナウやSACOMとかいう面倒が服着て歩いているようなNGOの人たちに中国にあるユニクロの下請工場での潜入取材をされて、そのブラックぶりが晒されていました。そこから柳井正さんもかなり改善していると思うので、一概にこれをもって批判するのもどうかと感じますけれども「あっ、ユニクロの服を買うならクロは避けようかな」と私なんかは感じちゃいます。

まさに地獄! 潜入調査で見たユニクロ下請け工場の実態 (伊藤和子) - オピニオンサイトiRONNA
https://ironna.jp/article/948

■日本経済が長きの低迷に陥ってきたのも事実です

 で、柳井正さんのお話ももっともなんですよ。確かに中国や新興国の世界市場は成長をして、日本が伸び悩んでいるうちに、かつてのような最先端の経済大国の座から滑り落ちてしまった、というのはアジアの経済成長と共に歩んできた柳井正さんのおっしゃる通りであります。

 いまでこそ、テレビや書籍で「日本はスゴイ」というような自己憐憫の情報が乱舞してそれを喜ぶ日本人が一定数いるというのは嘆かわしいことなんですけれども、バブル崩壊以降、日本経済が長きの低迷に陥ってきたのも事実です。デフレ状態から脱しようというタイミングで大規模なグローバル経済の進展と少子高齢化という社会構造の大変化に対応できないまま、戦後の右肩上がりの制度を引きずってしまって制度疲労を起こしました。その点では、柳井さんの発言は単に「いま景気のいいグローバル企業の経営者の寝言」と割り切れない、価値のある何かがそこにあると思うんですよ。

 あれを読んで「なんだと柳井」と怒る人ほど、柳井さんの発言を聞いて自らの行いや考えを冷静に反省しても損はないと思いますし、柳井さんが喝破する「日本には稼げる人はいない」という強弁に対して、「それを言い始めたら村田製作所やファナックは、ユニクロよりよほど効率よく稼いでますよね」とか「単に人件費の安いところでモノを作ってきて土地を借りて季節商品を売りさばいているだけで日本の国富や輸出にはたいして貢献していないので、ユニクロよりも東レやトヨタ、キーエンス、日本電産など素材や自動車、部品などのほうが日本にとっては稼げる重要産業なのでは」などという業界の違いを無視した素朴な疑問を柳井さんに絶対に投げてはならないと投資家としても思います。絶対にだ。

■公共財と言っていいぐらいの存在にまで

 ユニクロの良さはやはり手ごろな値段でそこそこ良いファッションを日常的に楽しめるという、服に興味のない一般ピープルのシビアなコスト感覚にジャストフィットした、安かろう悪かろうを超えた絶妙な線の良い品質を提供しているところにあります。やっぱ季節がくるごと寄るよね、ユニクロ。

 それでいて「ユニクロでいいや」と思いつつ、ユニクロのロゴやユニクロっぽさが前面に出たコーディネートで道を歩く気にはなれないという意味で「服には興味ないけど、安物の服を着まわしていると思われたくない俺たち私たちの心情を代弁してくれるユニクロ」の凄さであります。すべては前澤友作さんが勇退したZOZOが早々に「おまかせ定期便」をやめちゃったのが悪い。

 何を隠そう、この私もユニクロで買った上下で街中をうろうろしたりしていますが、保育園のお迎えでまったく同じ緑のチェックの半そでシャツを着たパパとすれ違って「おっ、ユニクロだな」「お前もユニクロだな」というアイコンタクトが成立するぐらい一般的な存在になったのですよ、ユニクロは。凄いことですよ、これは。もはや国民服の提供母体であり、公共財と言っていいぐらいの存在にまでもっていった柳井さんの経営手腕というのは素晴らしいと思うのです。

■ほんとお茶目ですよね。大好きです

 翻って、そんな柳井正さんは過去にあろうことか我が慶應義塾OB(塾員)である玉塚元一さんを後継者に指名してしまい、まあいろいろ微妙なことになって玉塚さんを放逐するという「気の迷い」を見せてくれたというのは等身大の柳井正さんの懐の深さでしょう。たぶん、スポーツマンだし爽やかなのでいいかなと思っちゃったのかもしれませんが、なんだかんだで3年ぐらいで喧嘩したのか玉塚さんは辞めてってしまいました。

「日本は最悪です。稼げる人がいない」とか豪語しておきながら、後継指名にトチって社長に返り咲きとか、柳井正さんほんとお茶目ですよね。大好きです。

 その玉塚さんと言えば、どういうわけか流れ着いたローソンの経営者に抜擢されたかと思えば、その後「石油輸入で5兆円借り入れ」とかいうダイナミックなM資金に引っかかった報道が週刊新潮で大問題となり、これが理由かは知りませんがローソンを放逐されてしまうとかいう事件を起こしていました。一体何をしているんでしょう、この人は。

 もしも玉塚さんがその後もユニクロの社長に君臨していたら、いまごろ私はファッションセンターしまむらの服を着ていたことでしょう。企業人事とは恐ろしいことです。もちろん、新潮に玉塚さんの話を流したのは私ではありません。

突如退任「ローソン」玉塚会長にM資金めぐる疑惑 確約書に“資金をお受けいたします”の直筆
https://www.dailyshincho.jp/article/2017/04290800/

■やっぱすげぇわこの人って思いました

 蛇足ながら、その玉塚元一さんがローソンをアレになってから、何故か私のよく知る業界にやってきて、突然ハーツユナイテッドグループ(現・デジタルハーツHD)の顧問に、そして社長になってしまいました。まるで台風が突然こっちに進路を変えてきたかのようです。玉塚元一さんが社長就任した2017年6月から現在にいたるまで素敵な放物線を描く美しい下落の 株価チャート を実現していて、実はこの人は現代美術のアーティストだったんじゃないかとすら思います。

 さらに経済同友会で玉塚元一さんが「マイナンバーの情報を民間でも利活用させろ」とかいう、個人情報保護の流れを猛烈に逆流する提言をブチ込んできて、やっぱすげぇわこの人って思いました。

経済同友会・玉塚元一さんが取りまとめた『マイナンバー制度に関する提言』が物議(山本一郎) - Y!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20180809-00092554/

 そんな柳井正さんは、我らが突撃ジャーナリスト横田増生さんが上梓した『 ユニクロ帝国の光と影 』、さらには実際にユニクロで1年働きに出て書き上げた渾身のルポ『 ユニクロ潜入一年 』にはどうも怒ったらしく裁判になっていました。本はとっても面白かったけど、ムカつく気持ちは分かります。最高裁までいったのにユニクロが負けちゃったようですが、柳井正さんには同情の気持ちでいっぱいです。心からお悔やみ申し上げます。

■せっかく女性の執行役員も誕生したことですし

 やっぱりこう、企業を急成長させたカリスマ経営者というのは、どこかしらワンマンなところがあったり、性格面で良いところもむつかしいところもあるのだろうと思いますが、ご子息お二方(柳井一海さんと柳井康治さん)も揃って無事にユニクロの取締役になっておられるとかで、実に日本の伝統に忠実な世襲へ向けて着々と歩んでおられるようです。

 日本は駄目だ、最悪だと叱咤激励を繰り返す柳井正さんも、やはり実は心のどこかで日本企業かくあるべし的な長期の経営ビジョンを抱えて70歳を迎えられたのだなあという人間臭さを感じさせます。

そろって取締役に ユニクロ柳井社長のふたりの息子はどんな人?
https://bunshun.jp/articles/-/9383

 ここはひとつ、柳井正さんにはこれから衰退と不況に沈む(かもしれない)日本経済の再生を狙って、その知見と経験をベースにもっともっとモノ申してほしいんですよね。いま、日本に必要なのは柳井正さんのようなユニクロ的世界観なんですよ、きっと。間違っても柳井さんが社外取締役を務めるソフトバンクグループの総帥・孫正義さんもろとも世界的な金融不況で沈むようなことがないように祈っていますし、そのついでにみずほフィナンシャルグループも一緒に轟沈するようなことがあれば「日本は最悪だ」と言っても「最悪にしたのはお前だろ」などと文春読者にコケにされてしまいかねません。

 私個人としては、せっかく女性の執行役員も誕生したことですし、世界企業が当然背負うべき社会的責任(CSR)としてユニクロの労働分配率をもっと引き上げ、ブラック企業批判をされないようなさらなる成長企業を目指して300歳ぐらいまで柳井正さんには健康に、健全に、ユニクロを牽引していっていただきたいと願うわけでございます。長きにわたった徳川幕府の安定と繁栄を超えられるのは柳井正さんしかいない、私はそう信じています。

(山本 一郎)

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