東大女子とマウンティングおじさん

東大女子とマウンティングおじさん

©共同通信社

「東大卒で若くて美人」。そんな新入社員ならバラ色の未来が待っていると思いきや、男性上司のパワハラまがいの言動でメンタルに不調をきたしてしまうケースが多い。そう指摘するのは30社以上の産業医を務める大室正志さんです。こうした「マウンティングおじさん」を華麗にスルーするために高学歴女性が知っておくべきスキルとは?

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 はじめまして。産業医の大室正志と申します。普段は契約先の企業に出向き、人事部の方々と相談しながら企業の健康リスク低減のアドバイスをしたり、社員の健康相談に乗ったりしています。

 ですので一般的な医師よりも、「働く現場」についてより細密な解像度で見つめる立場とも言えるかもしれません。

 産業医をしているとよくパワハラの相談を受けます。職場でのストレス原因1位は人間関係(平成19年労働者健康状況調査)であり、その内のほとんどが上司部下関係ですので、これは当然かもしれません。ですので“指導とパワハラの境界線”は産業医としても敏感にならざるを得ない分野です。

 もちろん誰がどうみてもパワハラであれば、しかるべき注意ができます。

 しかし現実はそんな“ベタなパワハラ”だけではありません。一言一言はパワハラとまでは言えなくとも、繰り返されることで部下にはボディブローのように効いてくる。実際の現場ではこんな事例が結構多いのです。

■若い高学歴女性が男性上司の攻撃に参ってしまうケースが急増中

 特に最近増えてきたと感じるのが、「若い高学歴女性が男性上司の“ボディブロー”に参ってしまう」ケースです。

 今回は、そんな男性上司のチクチクした一言に日々悩まされている高学歴女性に効果的と思われる対処法を提示したいのですが、実は、こんな時、よくよく話を聞いてみると、それはパワハラというよりむしろマウンティングではないか? そんな風に感じることもしばしば……。

 ──パワハラとマウンティングの違いは何か?

 すごく乱暴に解釈をすれば、パワハラは「優位性を武器に苦痛を与える行為」。マウンティングは「優位性が不安になった時にする行為」です。

 因みに私がここで言う「マウンティング」とは本来の意味である分かりやすい序列の確認行為ではなく、むしろ近年流行した「マウンティング女子」と同じ文脈で使用しています。

 従来の男性中心の組織の場合、このマウンティングは語源のまま使えてしまう場合も多い。つまり会社組織をそのままサル山になぞらえてもあまり違和感なく使えてしまう。

 一方で昨今話題になった女性同士のマウンティングはどうか。そもそも優位性を示す指標が「職位」、「年収」、「学歴」といった分かりやすく定量化できるものだけでなく、「彼氏、旦那、子供の有無」や「容姿」など、単位の違う「変数」が多いのが特徴です。方程式でも2次が3次になると途端に複雑になるように、変数が多い分、マウンティング形態は複雑です。

■自分の心の「ワサワサ」や不安を鎮めるためのマウンティング

 マウンティング女子の命名者、漫画家の瀧波ユカリさんは、これを「女は笑顔で殴り合う」と表現しています。

 それは例えばこんな具合。専業主婦のAさんと外資系勤務の独身キャリアのBさんの会話。

Aさん「海外出張なんて仕事で色々いけるなんていいな。やっぱり(独身で)“自分のやりたいようにできる人”って羨ましい。こっちは子育てで精いっぱい。ママ同士のランチで息抜きするのがせいぜいよ」

Bさん「そんなことないよ。海外って言っても仕事でバタバタだし、本社の上司にも気を遣うし。夜は慣れないカクテルパーティーとかに引っ張り出される時もあるし。そのためにドレスを持ってくのも癪だからこの前なんか、ZARAで現地調達(笑)。自分も“何も考えずに”ゆっくりランチとか憧れるなぁ」

 そこに分かりやすい「序列」はつけづらい。それでもお互いがマウンティングをし合ってしまうのは、自分の存在や選択を不安にさせる「他者」に直面し、心がワサワサしてしまったからでしょう。つまり一見すると序列確認行為に見えても、その実は、自分の「ワサワサ」を鎮めるためにマウンティングを行うのです。

 話を戻します。

 もちろんマウンティングであっても「表現形」としては、部下からみたら全てパワハラに映るのも無理はないでしょう。

 しかし目の前の行為を「純パワハラ(?)」か「マウンティング」なのかを考えることは、心の平静を保つためにも重要です。

「私のこと好き?」と1日に30回もLINEを送る人は情緒が安定していないことが多いように、1日に何度もマウンティングをしてくる上司にはむしろ相手の不安のありかを検討してみる必要があります。

■「東大卒で若くて美人」でおじさんのコンプレックス発動

 残念ながら高学歴女性は多くのおじさんにとってコンプレックス発動条件を兼ね備えた存在です。東大卒で若くて美人だったりするとそれはさらに加速します。

 ある人は舐められないようにと、「一度ぎゃふんと言わせないといけない」という謎の使命感が発動し、ある人は尊敬されようと知識を過剰に披露してしまう。

 形はどうあれ、東大女子は男性上司の心をワサワサさせてしまう「確率」が高いように思います。

 東大女子がハッキリ物を言えば、やはり生意気だ ! となり、素直に下手に出たら、実は俺のことをバカにしてるのではないか?と疑心暗鬼が頭をもたげてくる。ここまでくるともはや部下の問題ではなく、上司の「内なる心」の問題です。

 もちろんここまでのケースは稀ですが、高学歴女性の存在自体がおじさんのマウンティング対象になってしまう例はやはり少なくない。

 先日、朝の情報番組「とくダネ!」で菊川怜さんの卒業が発表されました。私はこの番組中の小倉智昭さんと菊川さんのやりとりにも、小さなマウンティングの気配を感じ取らずにはいられませんでした。

「怜ちゃん、東大なのにそんなことも知らないの?」

と笑顔で言う“上司”。

 この一言に対し、どんな対応が「正解」なのか。一度ならともかく頻度が高まればそれなりに“ボディブロー”と感じる方もいるでしょう。

■高学歴女性は「受け身」を習う必要がある

 柔道では背負い投げを教わる前に徹底的に受け身を習います。

 私は新卒社員が不幸にもメンタルに不調をきたしてしまう例を多くみてきた経験から、高学歴女性もこの「受け身」を習う必要があるのではないか。半ば本気でそう思っています。

 まだまだ日本の会社では上位階層は圧倒的に男性が多い。当然、「上司は男性」の確率は高い。

 その時、男性上司(おじさん)の一見パワハラに見える行為の多くは、不安からくるマウンティングであるのではないか?と俯瞰してみる姿勢。この辺りのスキルを得ることで少しでも「正面から受け止める」人が減って欲しいなと思っています。

 マウンティングおじさんの生態。その是非はともかく、それを「そういう生きもの」と理解することは、「心の受け身」として機能します。是非ともビジネスパーソンの一般教養になって欲しい分野です。

(大室 正志)

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