ドイツが絶賛した日本人キャプテン、「物足りない」批判にも貫いた姿勢 ブンデスリーガで奇跡のゴール、遠藤航が示した「不可能を可能にする」思考

ドイツが絶賛した日本人キャプテン、「物足りない」批判にも貫いた姿勢 ブンデスリーガで奇跡のゴール、遠藤航が示した「不可能を可能にする」思考

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2季連続ブンデスリーガ「デュエル王」

 遠藤航が、1対1で大きくよろけた。

 屈強な体躯を誇る選手たちを擁するブンデスリーガで、昨シーズンと今シーズンの2年連続で「デュエル王」(試合における1対1の勝利回数が448回でリーグ1位)に君臨した日本人選手に正面からぶつかってきたのは、ギリシャ代表のDF、コンスタンティノス・マヴロパノス。

 遠藤はその衝撃を受け、180度体の方向を変えると、再び駆け出した。

 ブンデスリーガ、最終節。シュツットガルト対ケルン。

 ケルンにとってはヨーロッパリーグの出場権が、シュツットガルトは来季1部残留がかかった大一番。

 遠藤航がキャプテンを務めるのはシュツットガルトで、今シーズン大いに苦しんだ。

 昇格1年目で9位と躍進、攻守にわたるアグレッシブなサッカーで注目を集めた昨シーズンを経て、「上位進出を」と野心をもって挑んだ21−22シーズン。開幕戦に遠藤のゴールでスタートするも、コロナ陽性者、けが人が相次ぎ、今年に入ってからは「1部残留」へと目標を下方修正していた。

 下位2クラブ(17・18位)は自動降格、16位のクラブは2部の3位クラブと入れ替え戦を戦う――。5月に入ってからのシュツットガルトは、そのいずれかに該当することが濃厚だった。

 残り2試合で16位。

 17位のビーレフェルトとは1試合の勝敗で順位が入れ替わり、2連勝したとしても15位ヘルタが勝ち点1(2試合のうち1試合でも引き分け以上の結果を出す)を獲得してしまえば入れ替え戦。

 加えて、その2試合のうち1つはリーグ10連覇を達成した絶対的王者・バイエルン・ミュンヘンとのアウェイ戦だった。

「入れ替え戦はやむなしか」

 そう思われる状況の中、バイエルン戦なんとか後半に追い付き2対2で引き分けると、15位ヘルタが敗戦。最終節にシュツットガルトが勝ち、ヘルタが敗れれば勝ち点で並び、得失点差で上回るシュツットガルトが逆転、自動残留の芽はかろうじて残された。

運命の日、最後の「大逆転」劇

 運命の日。ドイツ中で同じ時間に試合が始まると、シュツットガルトは前半12分と早々に先制点を上げる。

 一方のヘルタも2位・ドルトムントを相手に16分に先制。両クラブとも前半を1対0で折り返す。

 このまま行けば、ヘルタの自動残留、シュツットガルトは入れ替え戦を戦う。

 後半、ケルンの猛攻にあったシュツットガルトは59分に痛恨の失点を喫する。ゴールキーパーのキャッチミスをケルンFWモデストが押し込み1対1。前節のバイエルン戦で好セーブを連発したGKミュラーのプレーは、チームの勢いを削いでもおかしくなかった。

 そしてシュツットガルトの時計は、そのままのスコアでアディショナルタイムの91分まで進む。

 このとき、ヘルタもまた逆転されていた。シュツットガルトの失点の9分後にPKを献上すると、試合終了まで残り6分となった84分に2点目を失った。

 それでもこのまま行けば、ヘルタの自動残留である。

 シュツットガルト。4分のアディショナルタイムも1分半が進み、残り2分ちょっと。シュツットガルトは猛攻に出ていた。

 ヘルタが逆転をされたことを知ったシュツットガルトのベンチメンバーが大きなゼスチャーでチームを鼓舞する。

 あるいは、ホームの最終戦に集まったサポーターたちがそれを知らせるように異様な空気を作り出す。

 そして運命の瞬間は、突如として現れる。シュツットガルトが得たコーナーキックのチャンス。時間を考えれば、あと1回チャンスがあるか、ないか。小さな可能性でもものにしようとシュツットガルトはGKのミュラーまでも前線に上げていた。

 蹴られたボールに、DFの伊藤洋輝が合わせ後方へと流す。

 そこに体ごと飛び込んだのは、キャプテン・遠藤航。

 遠藤は、ゴール右上に突き刺さったボールをしっかりとその目で追い、勢いのままピッチに倒れ込む。

 残留を決める、劇的なゴール。スタジアムが揺れ、ベンチメンバー、スタッフ、誰もが狂乱する。

 すぐさま立ち上がり、ベンチ側のゴール裏まで走り出そうとした遠藤の目の前に現われたのがマヴロパノスである。194センチの大型DFは、その行く手を阻み、抱きつこうとものすごい勢いで飛びついた。

 遠藤は大きくよろけた。

 しかし、2季連続のデュエル王は、倒れることなく踵を返しサポーターのもとへ走り、咆哮した。マヴロパノスは、その遠藤のコンタクトに体勢を崩し、一回転して後を追い、彼もまた叫んだ。

 あまりにも劇的な残留劇。数分後に鳴らされた終了のホイッスルと同時に、スタジアムに駆け付けた6万人を超えるサポーターがピッチに乱入するほどだった。

 この1試合は、大きな話題となり、遠藤航は一躍、シュツットガルトの伝説となる。

「試合から帰ると、隣の家が庭でバーベキューをしていて。ありがとうって感謝で迎えてくれました」

 家の前の道路には「LEG ENDO」の文字がチョークで書かれていた。伝説の「LEGEND」と「ENDO」を掛け合わせた造語。

「近所の子どもたちが書いてくれたみたいで」

「うれしいっすね」

 遠藤ははにかんだ。

冷徹に、情熱的に「不可能」に挑む

 遠藤が持つ、特筆すべきストロングポイントは「不可能を可能にする」メンタリティだ。「無理だろう」と周りが言っていたとしても、自身でそれを判断できる。そして、可能性を感じたのであれば、たとえ「不可能」だと言われても、情熱と冷徹さをもって勝負をしにいける。

 25歳での欧州挑戦は「遅い」と言われた。

 日本代表、五輪代表(オーバーエイジ)、そしてクラブで試合に出続けるなんて「無謀だ」と心配された。

 そして何より、体格に劣る日本人が海外で「1対1」で勝ち続けることは誰も想像しなかった。

 事実として、「不可能」だと思われたことを好転させてきた遠藤にとって、この伝説の一戦は、ハイライトのひとつだったと言える。

 ただ、その道のりは決して楽なものではなかった。

 こと今シーズンについてはけが人が続出したこともあり、日本代表ですっかり定着したアンカーではなく、インサイドハーフでの起用が増えた。簡単にいえば、より得点に直結する攻撃のタスクを求められるポジションである。

 遠藤は振り返る。

「インサイドハーフをやるにあたって、自分がアンカーをやっていたときにどういうプレーをしてくれると助かるか、みたいなことを考えながらプレーをしていました。

一般的にいえば、攻撃にしっかりと絡んでいくポジションではあると思うんですけど、(守備的な)自分をそこにおいたということはどういう意図があるのか。少なくともただ攻撃をするだけではなくて、守備での貢献も求められている。

どちらか一方ではなく、どちらでもしっかりと結果を出したい。そう思って、自分なりの最適解を探していました」(遠藤航)

 例えば、アンカーの両サイドのスペースを埋めに戻る。その上で、ゴール前に顔を出す、前線へのスプリントを怠らない。

 慣れない初めてのポジションであっても、決してそれが「できない」「不可能だ」とは捉えなかった。

 結果的に、コロナ陽性で欠場をした1試合を除き全試合に先発。4ゴール2アシストに加え、出場時間は2902時間でリーグ7位(GKを除く)、走行距離も352.6キロでリーグ7位、そしてデュエルは1位と、リーグトップレベルの数字を残した。

リーダーは言葉で伝えるべきか、否か

 就任したキャプテンに対する苦労もあった。

 降格の可能性が高まった4月から5月の頭にかけて、遠藤のキャプテンシーについて、いくつかのメディアが「物足りなさ」を指摘した。

 例えばビルト紙は「彼は競技面でのパフォーマンスに関しては確かにキャプテンだろう」「ただ、言葉の壁もあり、リーダーとしては大人しすぎる。エンドウはチームが寝ていたヘルタ戦での序盤はチームメイトたちを掻き立て、叱らなければならない。しかし、そのような姿を見せることはない。フレンドリーな日本人としての性質にないため、相手チームに向けて言葉を発することもない。審判の疑わしい判定にも腹を立てず、受け入れてしまう」と書き、「遠藤航のリーダーシップに疑問の声…シュトゥットガルトOB『みんなを引っ張れなければならないが…』」といった声も紹介された。

(https://www.goal.com/jp/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9/bundesliga-herta-vs-stuttgart-20220427/blte5a3270c3be2ba16)

 きっと遠藤の耳にも届いていただろう。

 シーズン中に欠かさず配信してきた、遠藤自身がプレーした試合について解説をお願いいするコンテンツ(「月刊・遠藤航」)の中で、「キャプテンの重責」について何度か尋ねたことがある。しかし、遠藤がその役回りについて思い悩むような言葉を発することはなかった。ただ、一度を除いて……。

 その一度は、クラブOBたちがチームに危機感を抱くよりずっと前の2021年末のこと。練習を終えて、取材に応じた遠藤が言った。

「いま、チームに必要なのは練習からしっかりとインテンシティ高く取り組むことだと思うんですね。確かにチームはなかなか勝てていないけど、その状況って控えの選手からすればスタメンを奪うチャンスでもある。

 そういう姿勢が見えるべきだと思うんですけど……これって、僕が“もっとやれよ”って怒ればいいのかな……。でも、そのときって英語かな、伝わるのか、それ(笑)」

 シュツットガルトはブンデスリーガのなかで最も若いチームで、平均年齢22.8歳。若さは武器だが、チームのなかで「悪いときに自らを律する」ことは難しかった。

 この頃、記した「月刊・遠藤航」のNewsletterにはこうある。

「若いがゆえに、いいときはイケイケでやれるけど、ちょっとチームとして落ちてしまったときに取り返す方法を見つけられないのかもしれない」(月刊・遠藤航「海外でキャプテンをやることの難しさ」より)

 言葉で言うべきか、否か――。

「でも、チームはドイツ語が喋れない僕をキャプテンに指名した。ということは、たぶん監督やチームが求めていることってそういうことではないんだと思ったんですね。日本人ぽいと言われようとも、姿勢で示す。チームのために戦う、そのためにどういう練習をするか、自分がプレーをすることで伝えるしかない、と」

 結局、遠藤は姿勢で示すことを貫いた。

「それぞれのキャプテン像があっていい、と思っていて。僕の場合は、大声を出して指示するタイプではない。代わりに、自分のベストを尽くすことでピッチの選手たちに、彼らが何をしなければならないかを伝えたい。例えば、残り5分。誰もが体力的にきついときこそ自分が一番、走る。勝ちたい、戦えることを見せる、とか」

 苦しいときを経て、最終節の劇的なアディショナルタイム弾につなげた。ここまでの過程を見れば、あのボールが遠藤の前に訪れたのは、必然だったように思う。

 遠藤航が見せる「不可能を不可能と思わない」姿勢、私たちにも学ぶべきことが多くある。

5月18日(水)21時〜遠藤航×岡崎慎司live配信決定。詳細は→https://www.synchronous.jp/articles/-/517