YMOの40年を記録、奇跡の写真集はこうして生まれた 『40 ymo 1979-2019 by Kenji Miura』を世に出せた多幸感

40年にわたって撮影してきたYMO

 ちょうどこの原稿を書き始めたときに、重版決定の知らせが入りました。

 写真家の三浦憲治さんが40年にわたって撮影してきたYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)の写真を一冊にまとめた写真集が『40 ymo 1979-2019』。この夏に70歳の古希を迎えた三浦さんが、YMOの撮影を始めたのは、だから30歳のときとなります。

 YMOの結成は1978年、その翌年の1979年にレコードの世界発売が決まり、8月にはロスアンジェルスで初めての海外公演を行ないました。三浦さんはその初の海外公演に同行取材したことを皮切りとして、世界7カ国、40日に及ぶ大規模な1980年のワールド・ツアーにも密着。以降、YMOのみならずYMOのメンバーである細野晴臣さん、坂本龍一さん、高橋幸宏さんのソロ・ショットの撮影も間断なく行っています。

 そんな、40年にわたる膨大なYMOの写真を一冊にまとめようという話はこれまで幾度かあったようです。しかし、さまざまな要因が重なってそれは実現しないままでした。

 昨年の2018年の8月、三浦憲治さんのライフワークでもある故郷広島をテーマにした写真展に伺った時に、たまたま関係者がそこに集っており、あらためてYMOの写真を一冊にまとめたいというお話をいただきました。

 とても光栄なお声がけなので即座に「はい、やります」と答えたものの、やるべき作業、必要な手順などを考えて、一瞬、気が遠くなりかけたのも事実です。それでも、1年後の2019年の8月が三浦さんとYMOの初の撮影からちょうど40年になることを考え、1年後の8月に出すことを勝手に決めました。

 その時点では出版元のあてもありません。出版の世界に長く身を置いて、昨今の出版業界の不況ぶりはよくわかっています。いわんや写真集となるとどうでしょう。アート系のものを除くと、書店の店頭に並ぶ写真集は、俳優、モデルを含めたアイドル系のもの、犬と猫、山や大自然、絶景ものばかり。そこに果たして、YMOの写真集というものが存在する余地があるのか?

 そうした不安はさておき、写真集の大まかな構成を考え、企画書を書いては直し、書いては直しの毎日。同時にYMOサイドと連絡を取り、写真集制作に関する段取りや許諾、確認の方法を擦り合わせる日々が続きました。

 ある程度内容を固め、それは、ノスタルジックなものではなく現在もなお進行形のYMOやYMOメンバーの今を伝える、今を構成しているのが40年間の時間である、それを記録した写真集にしたいというものでした。

写真はアート作品というよりも記録である

 三浦さんもかねがね、ご自分の写真はアート作品というよりも記録であるとおっしゃっていることもあり、今に至る40年間のYMOを記録すると同時に、YMOを記録し続けてきた三浦さんの40年間の記録であるという面もはっきり出したいと思うように。

 2018年晩秋、まず最初に声をかけた懇意のKADOKAWAの編集T氏は、企画を聞くや、今の時勢にこういう写真集は非常に難しいですよと言いながらも顔はどうにもニヤけており、社内の企画会議にあげることを約束してくれました。YMOファンなのでした。T氏はこの後、上層部からの「え、おじさんの写真集を出すの?」というファースト・リアクションに始まる数々の艱難辛苦を乗り越えて、ついにおじさんの写真集を今どきに出すことを実現してしまいました。

 こうして実現の可能性が高くなってきた段階で、三浦さんには数千枚(デジタルカメラ時代のものすべてを入れれば数万枚)の写真の中から、これはというもののセレクションを始めてもらいました。

 YMOサイドとあらためて協議し、写真チェックの方法、手順、期間を決めたのもこの頃です。最初は候補写真をネットにあげて、東京(細野晴臣さん、高橋幸宏さん)とニューヨーク(坂本龍一さん)からオンライン上でチェックするという案が出て、その準備も行いましたが、使いやすく、なおかつ著作権処理や情報保全が安心できるサービスがなく、ある意味原始的に、候補写真(この時点では千点程度)のデータをUSBメモリに入れてメンバーの各事務所に送付、坂本さんには来日時に渡すという方法をとらざるを得ませんでした。

 写真チェックの期間は3カ月は見てほしいと言われ、いつのまにか8月までの時間が残り少なくなってきているなという恐怖もこの頃に芽生えはじめます。

 並行して、写真集のデザインを誰にお願いしようかと思ったときに、まず頭に浮かんだのが寺井恵司さん。寺井さんは、これまでさまざまな分野でデザインを手がけていますが、YMOや高橋幸宏さん関連のCDのジャケットのデザインもやられています。そんな中の、何年か前に寺井さんがデザインされたスティーヴ・ジャンセンの写真集の上品で美しい仕上がりが強く印象に残っており、声をかけたところ、即座にお引き受けいただきました。

 寺井さんもかなりのYMOファンであり、デザインのみならず1980年代の写真の日付や場所の特定にも力を発揮していただきました。

 こうして、少しずつ写真集の制作が軌道に乗っていく中、「いま」のYMOメンバーの姿を絶対に掲載したいと、3月の『NO NUKES 2019』、5月の『Circle ‘19』の2つの音楽イベントで、三浦さんに3人の現在の姿、活動を撮影していただきました。

 途中さまざまなことが当然あり、決して平坦ではなかった出版に至る道のりでしたが、それでも楽しさでいっぱいでした。周囲の、そして関係の方々のご協力、ご尽力もあり、本来であれば不可能なことも実現し、いろいろな制約の枠組みを軽く飛び越えた渾身の一冊になったと自負しています。

 幸い出版の情報が出たときから、ファンの皆さんのご期待も強く感じられ、大きな追い風にもなりました。

 そして8月26日の発売日になったとたん、ほぼすべてのオンライン・ショップで品切れとなり、書店、レコード店の実店舗でも品薄に。これは本当に申し訳ありませんでした。冒頭に記したよう、おかげさまで重版も決定し、品薄、品切れも解消していくことと思います。

 それにつけても21世紀のいまに至るもYMOやそのメンバーの魅力はまったく褪せず、その姿を的確に捉えた三浦憲治さんの写真の素晴らしさ、味わい深さは素晴らしいことだと思います。

 この写真集を世に出せて、こんなに嬉しいことはありません。本拙稿をお読みになって、もしご興味をもたれて、書店などでお手に取っていただければ幸甚です。