インドネシアで進むサステナブルデザインへの取り組み 持続可能な社会の実現に向けて

インドネシアで進むサステナブルデザインへの取り組み 持続可能な社会の実現に向けて

9月のパリのインテリアデザイン関連の展示会、Maison & Objetに今年初めて出展したインドネシアデザインのブース。サステナブルデザインへの取り組みが多く展示されていた

 モノづくりやビジネスにおいてサステナブルデザインが前提条件となった今、その取り組みは先進工業国だけのものではなくなった。

 インドネシアのデザイナーたちの試みは、再生可能な素材やリサイクル素材を使っているだけではなく、地元の職人や地域のコミュニティーの活性化も視野に入れている点が印象的だった。

日常となった「異常気象」

 9月から10月にかけて繰り返し日本を襲った台風は、各地に甚大な被害をもたらした。もはや、私たちは100年に1度、1000年に1度の暴風や豪雨が日常のものになったと認識し、人的被害を最小にするための方策を考え、備える必要がある。

 異常気象は日本だけのものではない。2003年8月にヨーロッパを襲った熱波では、ロシアまで含めると7万人以上が亡くなったと言われているが、今年もチェコ、ポーランド、ドイツ、スペインなどで6月に38度を超え、6月28日にはフランスで観測史上最高の45.9度まで気温が上昇した。ヨーロッパで過去500年の中で最も暑かった夏の上位5カ年が、昨年までの15年間に集中している。ベトナム、中国、インド、パキスタンなどでもここ数年記録的な猛暑や豪雨の被害が相次いでおり、もはや全地球レベルで気候が変わって来ていると考えざるを得ない。

 気候変動の影響は農作物に顕著に現れる。読者の皆さまは最近各県から新銘柄のブランド米が続々と発表されていることに気付いていらっしゃると思う。その主な原因は気候変動によるものだ。従来の銘柄米の育成条件は現在の気候に合わなくなって来ており、より高い気温下で育成可能な米が開発されている。以前は米の栽培に適さないと言われていた北海道が今では米の一大産地になっているのも温暖化によるものだ。ヨーロッパのぶどう畑も気候変動の影響を受けており、これから数十年先には、ワインのブランドに大きく関わっている産地表示のあり方が、根本的に変わっているかもしれない。

リサイクルデザインが成功の元に

 エットーレ・ソットサスがデザインし、世界中でヒットしたポータブルタイプライター「ヴァレンタイン」で有名な、イタリア・オリベッティ社の副会長であったアウレリオ・ペッチェイを中心に、資源・人口・軍拡・経済・環境破壊などの全地球的な問題に対処するために1970年に設立されたシンクタンク「ローマクラブ」は、1972年に「成長の限界」という研究報告書を発表した。

 この報告書は「人口増加や環境汚染などの現在の傾向が続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達する」と警鐘を鳴らしたもので、世界中の知識人に大きな影響を与えた。また、同じく1972年には初めて国連として環境問題全般に取り組む「国連人間会議」が開催され、このころから持続可能な社会や環境の実現を目指すサステナブルデザインの理論的な背景が構築されていった。

 サステナブルデザインへの顕著な取り組みが始まったのは1980年代後半から1990年代初頭にかけての時期だ。特に有名なのは1993年のミラノサローネでデビューしたオランダのデザインムーブメント、ドローグデザイン。牛乳瓶を用いた照明器具、古布を利用したチェアなど、コンセプチュアルな作品で既存のデザインのあり方に一石を投じ、世界中のデザイナーに大きな影響を与えた。
https://www.droog.com/

 サステナブルデザインで商業的に大きな成功を収めたのは、スイスのフライターグ。グラフィックデザイナーだったマルクスとダニエルのフライターグ兄弟が、ドローグがデビューしたのと同じ1993年に使い古しのトラックの幌、捨てられた自転車のチューブ、自動車のシートベルトを使ってメッセンジャーバッグを作り始めた。全てリサイクル素材で作られた一点もののバッグは人気を呼び、今では世界中の24の直営店及び400以上の提携販売店で売られるまでに成長した。2014年には独自に環境に優しい新素材「F-FABRIC」を開発し、この素材を用いた製品をラインナップしている。
https://www.freitag.ch/ja

SDGsの理念を体現している

 2015年に採択された国連の持続可能な開発目標で示されている通り、現在ではあらゆるモノづくりやビジネスにおいて、サステナブルデザインは避けて通れない前提条件となっている。それは先進工業国だけのものではなく、東南アジアのデザイナーたちにとっても重要なテーマだ。その一例として9月にパリで開催されたMaison & Objetに出展した、インドネシアのデザイナーたちの事例をここで紹介したい。

 一つ目の事例はPALA Nusantaraの腕時計。皮を鞣す過程で発生する人体への悪影響や環境汚染、牛を生育する過程で発生する温室効果ガスの排出を避けるために、菌糸から合成した人工皮革を使っている。

 人工皮革の発想の元になったのは、インドネシアの伝統食であるテンペ。大豆などをテンペ菌で発酵させた、日本の納豆のような食品だ。菌糸はフィラメント状に強く結びつく性質があり、菌糸で作った人工皮革はナイロンやポリエステルを用いた人工皮革に比べて強く、傷がつきにくく、原料に化石燃料を使わないため環境に優しいという。

 次の事例はThreadapeuticのテキスタイル。2015年からファッション業界や家具業界で発生する端切れ布だけを素材に用いて布を織り、服やバッグ、室内装飾用のタペストリーなどを作っている。使い古して着られなくなった着物を細く裂いて生地を織る、裂織りという日本の伝統技法を想起させるが、ファッション業界や家具業界から出る端切布に注目し、素材として再利用している点が新しい。

 インドネシアデザインブースには他にも環境に優しいデザインの製品が多く見られたが、それらは単に再生可能な素材やリサイクル素材を使っているだけではなく、地元の職人や地域のコミュニティーの活性化を生産の過程で仕組みとして盛り込んでいる点が印象的だった。まさに、SDGsの理念に沿った、持続可能な開発を目指した取り組みと言えるだろう。