世界の内と外表す 塩田千春展「鍵のかかった部屋」

 昨年のベネチア・ビエンナーレ国際美術展で日本代表として、高い評価を得た美術家・塩田千春。帰国記念展となる「鍵のかかった部屋」が、KAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)で開催中だ。ベネチアの出品作「掌(てのひら)の鍵」とつながりながら、世界の内と外を表す新作インスタレーションに取り組んだ。
 「掌の鍵」では世界中の人々から提供された約18万個の鍵を赤い糸につるしたり、古びた舟に受けさせたりして、記憶や大切なものへの思いをダイナミックに訴えた。
 「『掌の鍵』は作品として完結した。あのときの感情はもう呼び起こせないし、同じようなものを作るのでは楽しみが減ってしまう」と塩田。新作インスタレーション「鍵のかかった部屋」では、ベネチアとのつながりを保ちながら、新しい世界観を表現した。

◆二つの世界

 作品名は、米国の小説家ポール・オースターの同名作から拝借。さらに「(扉に)鍵をかける(lock)」と「(糸に)鍵をかける(hang)」との両方の意味を込めた。
 ベネチアで使った鍵1万5千個と大量の赤い糸を利用しながら、新たに五つの古い木のドアを円形に配置。ドアは二つの世界をつなぎ、隔てる象徴だ。実際に来場者はこの中の一つをくぐって、現実の世界から作品の世界へと入ることになる。
 現在、塩田は活動拠点をドイツに置く。「本物のドアをベルリンから持ってきて、白く塗った。誰かが使っていたというだけで物語があるし、ドアを置くことで世界が分かれる。両方の空間が内にも外にもなる」
 自分自身の体験も込めたという。「20年近くをドイツで過ごしていて、『日本に行きます』と言うのか、『日本に帰ります』と言うのか、私自身迷うところがある。自分がいつもはざまにいるという感覚がある」と明かす。

◆劇場らしさ

 KAATという劇場での展示らしく、バレエのレッスンなどで使われる、スタジオに常設されている壁一面の鏡も利用した。鏡の中に、ドアの内なのか外なのか分からない世界がより深く広がっている。
 美術館での展示と違い、照明も天井からさまざまな角度で当てられる。「糸が立体的に見えてやりやすかった」という。
 10年以上の付き合いで、キュレーターとしてベネチアでの展示を支えた神奈川芸術文化財団の学芸員、中野仁詞との仕事に「今回の展覧会では無理なく自分の力を発揮できた」と塩田。
 ベネチアを経験したからこその作品には、これから開かれていく新しい世界への期待が感じられた。
 10月10日まで。一般900円、学生と65歳以上500円、高校生以下無料。ダンスや音楽とコラボレーションしたイベントも行う。問い合わせはKAAT電話045(633)6500。