モノの価格 (3) 大切な人に贈る指輪。その価格と日本の景気動向の関係

モノの価格 (3) 大切な人に贈る指輪。その価格と日本の景気動向の関係

画像提供:マイナビニュース

秋篠宮長女眞子様のご婚約報道に多くが驚かされた先月、式の会場となるのではないか? との見方から一時、某ホテル関連の株に注目が集まるなど、ご婚約報道の影響は株式市場にまで及びました。そうした中、さまざまな報道を見て筆者が気になったのは、報道機関やブロガーが"婚約指輪"を話題にしていることでした。

婚約指輪というと…… 1970年代、「婚約指輪は給料3か月分」の旨のキャッチフレーズが大手宝飾品販売企業によって世に放たれました。ちょうど団塊の世代、戦後すぐの1947年(昭和22年)〜1949年(昭和24年)前後に生まれた世代が適齢期を迎え、いざ、というタイミングに男性が女性に送る指輪は「給料の3か月分に相当する価値のものがふさわしい」とするものでありました。

時代背景が異なることもあり、個人的には現在では3か月分というのはなかなか難しいように思われます。また、価値観の多様化が叫ばれる今、中にはそもそも結婚指輪を贈ることを割愛するケースもあるようです。

さて、1970年代を経て、1980年代も半ばになると日本はバブル期に入ります。この時期は”3か月分”をはるかに上回る金額の婚約指輪が飛ぶように売れたようです。

また、この時期は指輪1個あたりの価格もさることながら、日本における婚約指輪を含めた宝飾品の需要が飛躍的に増加した時期でありました。それを裏付けるデータを、世界的なプラチナの啓蒙機関が四半期に一度公表している需給データに見ることができます。

先月公表された17年3月までのデータによれば、先述の「婚約指輪3か月分」の1970年代、その終盤にあたる1979年は日本ではおよそ18トンのプラチナが宝飾品向けに加工されたとされています。バブル期入りした日本において、日経平均株価が最高値を付けた1989年には35トン、株価は下落したもののバブルの余韻に浸る1994年(一世を風靡した”ジュリアナ東京”が閉店した年)には、日本における宝飾品向けのプラチナ需要は過去最高レベルの45トンを記録したとされています

ちなみに、総務省の小売物価統計調査の品目”指輪”である、平型又は甲丸(石付きを除く)、プラチナ950(950とは純度が95%であることを示す数値。残りの5%は強度向上等のため同じ貴金属のパラジウム等によるもの)、サイズ9〜11号、といういわゆる何の変哲もない普通のプラチナの指輪をモデルとすれば、指輪1個あたりの重さはおよそ4グラムと試算されます。仮に1979年の18トンすべてをこの指輪に加工した場合、およそ450万個できる計算になります。

1979年の日本の人口およそ1億1400万人のうち、指輪を何らかの理由で新たに保有する可能性があると想定される年代を20歳から69歳までと仮定すれば、その男女の合計は全体の約63%にあたるおよそ7300万人となります。この7300万人のうち、18トンから加工された450万個を一人1個保有したとすれば、その年に加工されたと仮定したプラチナの指輪の量は当該世代のおよそ6%に行き渡る規模であったことになります。

一方で、過去最大級に宝飾品向けプラチナ加工需要が増加した1994年の45トンを同じように換算すれば1,125万個(当該世代の13%分に相当)となります。これは”バブルがそれまでの日本の宝飾品向けプラチナ加工需要を2倍以上にした”こと、そして同時に、好景気を背景にそれ相応の宝飾品の需要があったことを物語っていると思われます。

ただ、このような羽振りの良い時代は長くは続かず、1990年代後半ごろから日本は急速に景気低迷期入りします。次第に宝飾品はむしろ手放す(リサイクル)する対象としても認知される存在になっていきます。巷の貴金属買取店が増え始めたのもこのころからであったように思います。

景気低迷の折、下落の一途をたどった日本国内の宝飾品向けプラチナ加工需要は2016年には10トンとなり1994年の4分の1以下まで減少、「婚約指輪は給料3か月分」が謳われた1970年代をも下回る状況となりました。

とはいえ、日本人が全くプラチナの指輪を購入しなくなったかと言えばそうではなく、国内でのプラチナの宝飾品の製造・加工は徐々に行われなくなったものの、輸入物の宝飾品が国内の宝飾品市場を支えるようになってきたとみられます。

原材料であるプラチナを輸入して国内で加工・製造するよりは、輸入額は大きくなっても既製品を輸入するほうがトータルで考えればコストが抑えられ、景気低迷期の日本に適しているということなのだと考えられます。

ただ、これで一件落着…… かと思いきや、別の難題が浮上します。

輸入を増やす以上、為替レートの変動リスク(ドルで取引される商品を輸入する際、ドル円が円安に振れた場合、輸入コストが増加するリスク)が高まることは避けることはできません。2012年終わり頃、急激に円安が進行しました。アベノミクスです。

この急激な円安によって輸入コストが上昇し、その結果国内での宝飾品の小売価格の上昇につながったとみられます(原材料であるプラチナの価格はここ数年低迷したままですが……)。

ただ、上記のとおり、日本の景気低迷が宝飾品の調達手段を日本国内での加工・製造から輸入にシフトしたと考えれば、逆に、今後もし日本の景気回復がどんどん進めば、景気がよかった頃と同じ、製品の輸入よりはコストを抑えられるとみられる「国内での加工・製造メイン」に戻るのではないか? ということです。

そうなれば日本国内の指輪を含めた宝飾品の小売価格は、(原材料であるプラチナ価格が近年のような低位安定が継続していれば尚の事)今よりも下がる可能性があるのではないかと思います。

今後、日本で生き、働く我々(筆者を含め)が、今の日本をがんばって景気拡大状態まで引っ張り上げることがきれば、将来、大切な人へ贈る宝飾品を購入する際のコストを今よりも下げることができるのかもしれません。

○執筆者プロフィール : 吉田 哲(さとる)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト。テクニカルアナリスト。大学卒業後から、コモディティ業界に入る。2007年から、コモディティアナリストとして、セミナーや投資情報提供業務を担当。2015年2月から、楽天証券経済研究所 コモディティアナリストに就任。海外・国内のコモディティ銘柄の個別分析や、株式・通貨とコモディティの関連に着目した分析が得意。楽天証券ホームページにて「週刊コモディティマーケット」を配信中。
(楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田哲)

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