日本で最も豊かな隠れ里、熊本・人吉球磨「田園シンフォニー」の旅を

日本で最も豊かな隠れ里、熊本・人吉球磨「田園シンフォニー」の旅を

画像提供:マイナビニュース

●日本遺産認定の温泉も「夏目友人帳」の聖地も人吉にある
熊本の人吉・球磨と言うと、JR九州の特急「いさぶろう・しんぺい」から臨む"日本三大車窓"の絶景や「SL人吉」、2017年3月運行を開始した特急「かわせみ・やませみ」など観光列車の旅、酒好きなら球磨焼酎を思い浮かべる人が多いだろうか。

かつて司馬遼太郎に"日本でもっとも豊かな隠れ里"と称された自然豊かな田園地帯は、近年、人気アニメ「夏目友人帳」の舞台のモデルにもなった。2015年4月には文化庁から日本遺産に認定され、これまであまり知られていなかった絶景やパワースポットなど、人吉・球磨の隠れた魅力にも注目が集まっている。今回はそんな隠れ里をシンフォニーを奏でながら走る、くま川鉄道の観光列車「田園シンフォニー」の魅力とともに、沿線の見所などをたっぷり紹介しよう。

○温泉に百名城、蔵元バーも

JR九州やくま川鉄道の観光列車の発着駅がある人吉市には、明治44(1911)年に球磨地方の石材を生かして建築され、今も国内唯一、現役の石造機関庫として活躍する機関車庫やSL人吉の転車シーンを見学できる転車台が遺され、鉄道ファンには垂涎の場所だ。

JR人吉駅は今では珍しい駅弁の立ち売り、観光列車の見送りをしてくれる地元有志による「相良藩吉組」とのふれあいも楽しみのひとつ。また、隣にはくま川鉄道の人吉温泉駅、その裏手にはユニークな景観が目を惹く国指定史跡「大村横穴群」もある。だが、人吉の魅力はまだまだこんなものじゃない。

人吉市には日本遺産構成文化財認定の温泉、焼酎、パワースポットなど、実に多くの見所がある。日本三急流のひとつに数えられる球磨川では、伝統の「球磨川下り」や焼酎や醤油・味噌蔵見学などの体験観光も充実。日本百名城の「人吉城跡」は相良氏が代々居城とした城跡、球磨川と胸川を天然の外堀としたお城の石垣が今に残る。

文献によると人吉温泉は、1492年に相良氏12代為続が湯治に立ち寄るという記録が残る古湯。市内の温泉町には湯巡りができる温泉旅館や公衆浴場が約30カ所、湯の神神社や湯の元観音もある。茅葺の社寺建築として国宝に指定された「青井阿蘇神社」は、熊本屈指の人気を誇るパワースポットだ。

また、人吉市には人吉・球磨にある全28の蔵元の焼酎を試飲できる専門店、シャンパンのようなスタイリッシュな焼酎が味わえる古い蔵元を改装したバー、鮎や鰻などのご当地グルメも充実している。アニメ「夏目友人帳」の第2期の舞台となった人吉駅や胸川、田町菅原天満宮のまち歩きもファンには人気だ。できれば、ここは一泊して満喫したい(※アニメの風景は現地を参考にしたもので、実際の風景と異なることがある)。

○「田園シンフォニー」に揺られて絶景めぐり

さて、人吉に来たなら、是非とも球磨地域へ足を伸ばしたい。はぴねす・トレインの異名を持つ「田園シンフォニー」は、自然豊かな田園の中を走る観光列車、沿線地域の温かいおもてなしも楽しい。運行は土日祝に1日1本、11時1分に人吉温泉駅を出発し、湯前(ゆのまえ)駅までの約24.8kmを1時間25分かけゆっくり走る。車両には人吉球磨の四季をイメージした春、夏、秋、冬、白の5種があり、BGMのシンフォニーはベートーヴェンの交響曲第6番「田園」だ。

田園シンフォニーに乗車する場合は事前予約し、当日は少し早めに駅に入ろう。人吉温泉駅では日本で唯一"幸福"の名のつく現役の駅「おかどめ幸福駅」の記念きっぷを購入することもできる。「球磨川水系散策絵図」(500円)は球磨地域のガイドマップとして優れ、記念にもなる。

田園シンフォニーは途中、5つの駅に停車するほか、水質日本一の川辺川と球磨川の合流地点、夏場は鮎釣り師の漁場としてにぎわう「球磨川第四鉄橋」や人吉球磨日本遺産のひとつに選ばれた十島菅原神社(学問の神様)ではゆっくり運転する。車窓から景色を楽しみつつ、じっくり撮影もできる。

停車駅には楽しみもある。おかどめ幸福駅には幸福祈願鈴や幸福祈願絵馬掛、あさぎり駅では九州で唯一の通票閉塞を見ることができる他、現役を引退した車両KUMAの中でお土産引換や運転席で記念撮影などができる。終点の湯前駅は、有形登録文化遺産に認定されたくま川鉄道最古の駅舎だ。

なお、田園シンフォニーは湯前駅から折り返し運転時には普通列車になり、全ての駅に停車する。乗車券は片道大人2,500円/往復3,000円で、お土産引換券2枚やご利益ポストカード、御祈願絵馬が付いてくる。座席は全席指定で、予約は4日前までとなる。

列車に揺られた後は、沿線に泊まれる"ブルートレイン"なんてどうだろうか。続いては、そんな「ブルートレインたらぎ」とともに、人吉・球磨が一望できる絶景スポットや、神秘に満ちた隠れ里の遺産、狛犬ならぬ狛猫やかわいい猫みくじがある"猫寺"などを紹介しよう。

●ブルートレインでいい夢を! 雲海を臨み、猫寺で癒やされる
○選べる客室を備えたブルートレインで一泊

また、沿線の多良木駅の近くには宿泊可能な「ブルートレインたらぎ」がある。鉄道好きなら、復路は多良木駅で停車するのもいい。

簡易宿泊施設となったブルートレインには3種の客室タイプがある。宿泊料は大人3,080円(税込)で、料金にはふれあい交流センターえびすの湯入館料が含まれる。 近くには二重のうな丼がいただける「吉鶴」やとれたて野菜や多良木の特産品がそろう「多良木えびす物産館」もある。

多良木町には、標高約500m地点に人吉・球磨が一望できる絶景スポット「妙見野自然の森展望公園」があり、冬の霧が濃い日には雲海を見ることができる。毎年11月には全国各地からパラグライダーなどのスカイスポーツを楽しむ人たちが集まるイベント、「TARAGIえびすスカイフェスタ」が開催される。

また、田園シンフォニーの終点駅がある湯前町には、子宝祈願の潮神社と夫婦円満の賽神社がある。潮神社は女性の神様で、母乳の出が良くなるオッパイの神様で、産前産後に乳房を型どったものを作って奉納するとご利益があるという。一方、賽神社は男の神様で、両社に参拝すると夫婦円満、縁結びになると伝えられている。

○狛犬ならぬ狛猫が

湯前町にはというと、神秘に満ちた隠れ里の遺産「相良三十三観音めぐり」25番礼所の普門院観音など、日本遺産に登録された6つの観音堂がある。多良木町の22番札所「中山観音」には千年以上前にカツラの一木で彫られた美しい聖観音立像、23番札所「栖(す)山観音」は不思議な優しさに満ちた千手観音像が脇の毘沙門天など3躯ととも安置されている。三十三観音は地域で守られ、お彼岸の時期に一斉開帳される。栖山観音など、管理者へ声掛けすれば拝見できるものもあるので、興味がある人は人吉球磨日本遺産活用協議会に聞いてみよう。

そんな湯前町の隣には、球磨川の水源がある水上村(みずかみむら)がある。ここには人吉藩で起きた化け猫騒動にちなみ、その怨霊を祀るために創建されたという「生善院観音堂」がある。山門の前には狛犬ならぬ狛猫やかわいい猫みくじもあり、"猫寺"とも呼ばれている。さらに水上村では圧巻の絶景、1回500円で市房湖水に高さ80mの大噴水を10分間に渡り吹き上げることができる「市房湖大噴水」もある。

なお、球磨地域では場所によっては公共交通がない場所もある。行く場所により事前に観光案内所等で情報を確認しよう。人吉タクシーにはじゃらんで予約できる1時間3,700円〜の貸し切りタクシーサービスもあるので、プランにあわせて上手に活用していただきたい。

○筆者プロフィール: 水津陽子

フォーティR&C代表、経営コンサルタント。地域資源を生かした観光や地域ブランドづくり、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、調査研究、執筆等を行っている。著書に『日本人がだけが知らないニッポンの観光地』(日経BP社)等がある。
(水津陽子)

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