『君の名は。』からカツレツ店へ、四谷で思わず"時かけ散歩"

『君の名は。』からカツレツ店へ、四谷で思わず"時かけ散歩"

画像提供:マイナビニュース

●あの階段には今日も聖地巡礼者! ムーランルージュ新宿座よりも心は豚さんに
はじめまして、イラストレーターのシラサキです。今回から、マイナビニュース担当Mさんと、街歩き&グルメレポートを体験することになりました。毎日部屋にこもって、イラストを描いたりアニメを作ったりするのが僕の仕事。打ち合わせもSkypeが多くなり出不精でしたので、これはいい機会。「知らない街を歩いて、知らないお店をのぞいてみよう! 」をテーマに歩いてみたいと思います。ということで、第1回の街は「四谷」!

シラサキ「え? 四谷ですか?? 」
担当Mさん「はい、四谷がいいと思って〜」
シラサキ「でも四谷って、シラサキの生活圏ですよ」
担当Mさん「まあ……少しずつ遠くに行ってみましょう」
シラサキ「……分かりました」

○『君の名は。』で恋愛成就の神さまに!?

と言うわけで、平日のお昼前、四ツ谷駅で待ち合わせです。「四谷」と言えば、映画『君の名は。』の舞台のひとつ。最初に「聖地巡礼」の地、東京四谷総鎮守須賀神社に行ってみることにしました。

新宿通り、津の守坂入り口交差点を南に折れ、緩やかな坂道を下っていきます。大通りはいかにもビジネス街ですが、四谷は寺町。一本通りに入ると、お寺に挟まれて、古いアパートと新しいマンションが立ち並び、「ゆっくり時間が流れている街」という印象。

須賀神社に到着。石段には「聖地巡礼」のみなさんが、写真の順番待ちをしています。神社から見下ろすと、白く光る道が谷底を越え、遠くで同じ目線まで登っていきます。天気も良くさわやかな眺め。かの映画の情景が立体的で美しいのも、このロケーションを再発見したセンスが素晴らしい!

東京四谷総鎮守須賀神社は、須佐之男命(すさのおのみこと)と宇迦能御魂神(うかのみたまのみこと)の二柱の主祭神を中心に祀り、五穀豊穣・開運祝福・商売繁盛、また土木建築・悪霊退散・疫病除けの神として信仰を集めた神社。元は稲荷神社で赤坂にありましたが、寛永11年、江戸城外堀普請の際この地に移り奉ったとのこと。社宝は、天保7年に画かれた『三十六歌仙繪』。本殿で見ることができます(出典: 須賀神社公式サイト)。

参拝をすませ絵馬所を見ると、映画にちなんだイラストや恋愛成就の絵馬がたくさん掛かっています。ふむふむ。恋愛成就の神さまじゃないのに、なんだかご利益がありそうで不思議。

●information
須賀神社
住所: 東京都新宿区須賀町5番地
アクセス: 東京メトロ丸の内線「四谷三丁目駅」から徒歩7分

○間違い探し気分も楽しめる新宿今昔物語

続いては、津の守坂通り近くの新宿歴史博物館に向かいます。新宿歴史博物館は、平成元(1989)年開館した区立の博物館。入り口にがっしりとした四谷見附橋の高欄があります。

大正2(1913年)に開通した四谷見附橋。平成3(1991年)の道路拡幅まであった高欄の一部が寄贈されたとのこと。解説を読むと、この橋がかかるまでは「コの字の枡形のなごりをとどめ、麹町方面に直進することができませんでした」とあります。あれ? では元の橋はどの辺にかかっていたのだろう??

学芸員の後藤理加さんにご案内いただき、館内を見学します。旧石器時代から昭和まで6つのセクションがあり、最初に目を引くのが、「新宿」の地名の由来である、江戸時代の宿場町「内藤新宿」の復元模型。現在の新宿御苑と、新宿通りの新宿三丁目(新宿追分)と四谷四丁目(大木戸門)の当時の様子が分かり、とても楽しい模型です。「これがあそこで、このあたりが伊勢丹かな? 」と、ずっと見ていられます。

ここで、江戸時代の「蚊遣り器」を発見。お馴染みの「豚さん」の蚊遣り器ですが、これがでかい! かわいい!! 後藤さんによると、蚊取線香の原料となる除虫菊が輸入されるのは明治時代に入ってからで、それまでは木くずや葉などを燃やしていたのだそう。そのため身体が大きいという、チャーミングな「豚さん」なのです。

江戸時代の商家、昭和初期の文化住宅、東京市電5000系を見学。昭和までさかのぼってきたので、気になっていた質問を後藤さんにお聞きしてみました。

シラサキ「四谷見附橋を掛ける前までは、どこに橋がかかっていたのでしょうか? 」
後藤さん「はい、市電をまっすぐ通す時に四谷見附橋をかけたのですが、それまでの橋は四ツ谷駅の北側にあたります」

あ、なるほど! たしかに四ツ谷駅北側には今でも橋があって四谷見附跡に直進しており、麹町口のロータリーがすっぽり枡形門のあった場所になる。凸凹と入り組んだ地形を開拓して城下町にし、それにまた手を加えて、近代都市につなげているのですね。

ムーランルージュ新宿座、戦後コーナーと続き、企画展示「れきはくどうぶつえん」にも例の「豚さん」が! コンパクトで決して大きな博物館ではないのだけれど、時間を忘れて楽しめる博物館でした。

●information
新宿区立新宿歴史博物館
住所: 東京都新宿区三栄町22
アクセス: 東京メトロ丸ノ内線「四谷三丁目駅」出口4から徒歩8分

そろそろおなかが空いてきたので、しんみち通りに向かいます。しばらく歩くと急に空が広くなり、ぽっかり空いた工事現場に。「四谷駅前地区第一種市街地再開発事業平成31年竣工予定」の文字とともに立派な完成予想図が貼ってあります。大きな複合施設のようです。そして、今日のお昼は「かつれつ四谷たけだ」です。

●厚くて柔らかくてサックサク! 3世代で紡いできた「たけだ」のうまさ
○胃袋をがっちりつかまれた常連さんたち

「かつれつ四谷たけだ」はしんみち通りの入り口にある、揚げ物に特化した洋食店です。明るく清潔な店内。カウンター9席、ふたりがけテーブル席4席、計13席のコンパクトなお店で、キッチンに男性3人、フロアーに女性一人、計4人できりもりしています。黙々と働くお店の人。キッチンからは静かでていねいな音が聞こえてきます。

メニューは40種類以上。季節限定、午後限定メニューも多く、冬限定の牡蠣メニューが大人気とのこと。トッピングもあるので、お客さんの好みで多彩に楽しめます。シラサキは「特選もちぶたロースカツ定食」(税込1,380円)、マイナビニュース担当Mさんは「ポークカツレツ定食」(税込1,150円)を注文。待っている間、後ろから老紳士と女性店員さんの話し声が。よく聞き取れないけど、ふたりの声がとてもやさしい。古くからの常連さんだろうか? と想像。

いよいよお料理が運ばれてきました。「もちぶたが、もしよかったらお塩がすごくよく合うので、お塩で一回召し上がってください」と女性店員さんに勧められたので、「テキサス岩塩あらめ」を振っていただきます。とりあえず、ふたりそろって「いただきま〜す!」

シラサキ「おいしい〜! おいしい〜〜! ふははは。おいしいですね〜これは。香りがすごいな」
担当Mさん「おいしい〜! 身が厚いのにさっぱりしていますね」
シラサキ「お肉が柔らかくて、香りがさわやかで……、あれ? うまく説明できないや。黙って食べますね。おいしい〜〜! 」

ふっくら柔らかく、甘く、かるく、さわやかな香りが広がります。これはぺろりといただけます。お行儀が悪いけど、Mさんのポークカツレツもパクリ。

○「自分の好きなことをやらしてもらおう」で屋号変更

お時間をいただき、店主の竹田雅之さんにインタビューさせていただきました。

担当Mさん「四谷という立地、1日の来客数は何人くらいでしょうか?」
竹田さん「1日260〜270人くらい、冬場は牡蠣メニューの評判が良く、多い時で300人近くいらっしゃいます」

担当Mさん「入店までの待ち時間はどれくらいですか? 」
竹田さん「平日は回転もよく、お客さんのお気遣いもあって、15分くらいでしょうか。土曜日は、遠方からのお客さんも多くて、30分待ちの時もあります」

担当Mさん「お店は、いつくらいからになりますか? 」
竹田さん「屋号を『かつれつ四谷たけだ』に変えたのが6年前なんですけど、それまでは『洋食エリーゼ』というお店で、昭和45年から営業していました」

竹田さん「16年間『エリーゼ』の二代目として頑張ってきたので、そろそろ自分の好きなことをやらしてもらおうと、屋号を変えたんです。基本洋食店なんですけど、揚げ物に特化して、素材、パン粉、油と見直しを行いました。値段据え置きでいながら、もっと上質なものを出せないかという思いから"単品商売"で勝負したかったんです」

シラサキ「『エリーゼ』からのファンの方も多かったのでしょうね? 」
竹田さん「そうですね、名前を変えちゃったから……。オーナーが変わったと思った人も多かったのですが、最近ようやく浸透してきて、『エリーゼ』とは別に『たけだ』として、一から年々ファンも増え、『エリーゼ』時代の売上を超えるようになってきています」

○「たけだ」の名前は原点回帰

担当Mさん「ちなみに『エリーゼ』というお名前は? 」
竹田さん「父がクラシックが好きで、ベートーベンの『エリーゼのために』からとったそうです。元々、祖父が築地の中央卸市場で『洋食たけだ』をやっていまして、父がそこの二代目でした。昔からじいさんが、日本橋からだから、お客さんが完全についていたんです。その後、父が二号店として四谷に『エリーゼ』を出した。でも築地の外に初めて出店するので、上手くいかなかった時のことを考えて、その当時だから喫茶店に変えられるようにと『エリーゼ』とつけたとも聞いています」

担当Mさん「おじいさまが『洋食たけだ』というお名前を使っていて……」
竹田さん「そうなんです。父が50代で他界した時に僕もまだ若くて、そのまま引き継ぐことができず、赤坂店は閉店し、四谷は僕が引き継ぎ、築地は叔父が引き継ぎました。築地の『洋食たけだ』は、僕が商売をやっていく上での原点だったので、『エリーゼ』から屋号を変える時に『たけだ』の名前を残したかったんです。全盛期の時は、13席のお店に従業員が6〜7人いまして、それくらいいないとやってけないほどの手間のかけようだったんです。だから思い切って揚げ物に特化して、もうちょっと僕の目の届く範囲で、僕のできる範囲で、しぼりたかったんです」

担当Mさん「産地などに、こだわりはありますか? 」
竹田さん「こだわりというより、ほんと、爺さんの、親父の代からの、市場だったり駅前食堂だったり、働いている人がおいしいものを安く腹いっぱい食べられる、その部分を変えたくなくて。産地も1,000円だったらその中で一番最上級のものを出したいと思っています。原価高騰もあり薄利多売ですが、僕もこだわりすぎちゃうもんだから、例えばロース肉なんかだと硬いスジとか脂が多いと、原価無視してどんどん削っちゃて。お客さんには、そこに気づいていただいて、来ていただいていると思うんです」

シラサキ「『エリーゼ』時代、『たけだ』時代を通して、お客さんの感じは変わりましたか? 」
竹田さん「はい、女性のお客さんが本当に増えました。僕が高校生でバイトをしていた頃は、ほんと駅前食堂で、BGMはラジカセだし飾りっ気なくて。その当時は駅前食堂に行きづらかったと思うのですが、時代が変わって10年位前からでしょうか、女性の方がどんどん増えてきましたね」

ふと見ると、壁に2枚の写真が飾ってあります。ビルのオーナーさんが「エリーゼさんこれ飾ってよ」と持ってきてくれたのだそう。ビルの屋上から麹町方面を撮影した、近年のパノラマ写真と1970年開店当初のパノラマ写真。その後また時を重ねて、現在は上智大学の教会も変わり、ビルも増え、駅も新しくなっています。でも四谷見附跡の石垣は同じ。

●information
かつれつ四谷たけだ
住所: 東京都新宿区四谷1-4-2峯村ビル1F
アクセス: JR中央線/東京メトロ丸の内線・南北線「四ツ谷駅」から徒歩2〜3分

テクテク歩いて、神社、博物館と街の移り変わりを見てきた後に、2枚の写真。なんでしょう……この感覚。四谷の街をタイムリープした最後に、親子三代の味が重なり合って、不思議な満腹感でいっぱいです。四谷の「時をかけた」おいしさに、ご馳走さまでした。

○筆者プロフィール: シラサキカズマ

1966年広島県生まれ。筑波大学芸術学群洋画科卒業。1990年よりイラスト、キャラクターデザイン、アニメーションと幅広く活動。「シュール&ピース」なキャラとポップな世界観が特徴。代表作「ミカンせいじん」。オフィシャルサイト「mikan-seijin.com」。
(シラサキカズマ)

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