ANAとJAL、「パートナー争奪戦」は勢力図を変えられるのか?

ANAとJAL、「パートナー争奪戦」は勢力図を変えられるのか?

画像提供:マイナビニュース

●ハワイアン航空・アエロメヒコ航空のひっくり返しで変わる戦況
日本の大手2社間の「提携合戦」が喧(かまびす)しくなっている。3月31日にJALの新規投資を縛っていた「8.10ペーパー」の監視期限が終了し、潤沢な資金を持つJALがどのような投資・提携攻勢に出るのか注目されていたが、これまでの経緯を見ると大方の予想にたがわず、極めて積極的な新規提携を繰り広げている。

○4月を境に一気に広がるJALの提携

発表ベースで見ると、4月に仏のビジネスジェットDFC(ダッソー・ファルコン・サービス)との上位客輸送提携、7月にLCCのベトジェットエア(本社: ベトナム)とのコードシェア、9月にはヴィスタラ(本社: インド)とのコードシェア、トリップアドバイザーとの訪日サイト運営、ハワイアン航空(HA)との包括提携、そして10月にはSBIとのフィンテック新会社設立、アエロメヒコ航空(本社: メキシコ、AM)とのコードシェアと続いた。

これに対し2017年度のANAは、航空会社や関連業界との新規提携については目新しい発表がなく、徳島県、大分県、宮崎県など地方自治体と観光・文化・地域振興に関する連携協定を結んだ程度だ。

JALの新規投資については、破綻後の債権放棄と公的資金の投入を経てわずか2年で再上場を果たしたことを受け、国交省が2016年度を最終年度とするJAL中期計画の期間、「競争環境が不適切に歪められていないか監視」するとし、羽田空港等の混雑空港における発着枠や施設の配分にも配慮するとした国の方針によって、実質的に制限されていたものである。

「競争環境を不適切に歪める」ものではない投資や提携であれば、当局監視下の中期計画期間でも行えたはずではあるが、民主党政権下で行われたJAL再生には政治と行政が絡み合い、文言で明記はされないものの、2017年3月31日までは何もできないという状態が作り出されていた。ともあれ、このような事態が4月から一気に様相を変え、前述のように堰(せき)を切ったようなJALによる提携拡大が行われたわけだ。

○ANAよりもいい条件だったJAL

これらの中で、JAL・ANA両者の勢力図に大きな影響を与えると思われるのは、やはりHAとの包括提携とAMとのコードシェアだ。ともに、ANAと提携をしていた相手をひっくり返して自社陣営に取り込んだので、その効果は倍増する。

ANAが2016年5月にベトナム航空に117億円(当時)を出資しコードシェアパートナーをJALから転換させて以降、この種の局地戦はJALが虎視眈々と狙ってきたものであろう。LCCのベトジェットとの提携は実質的に機能しにくいだろうが、特段の資金支出を伴わずにHAやAMとの提携にこぎつけたのだから、JALにとって価値ある戦果だったと言える。

その背景には、提携相手であるHAやAMとANAの関係が「淡白」で、両社にとってはJALと組む方がより大きな提携効果を生むという現実があった。

メキシコ線ではANAが2017年2月からメキシコシティに直行便を就航させ、当初の懸念をよそにビジネス客を軸とする順調な運営を続けているが、AMにとっては自社地盤に殴り込みをかけられた形で、日本=メキシコ便でのコードシェアはなく、双方が国内乗り継ぎ便を安価で提供する運賃協定にとどまっていた。国内ネットワークは成田よりメキシコシティの方が豊富で、これはANA側にメリットの多い提携だったと言える。

今回のJALとの提携で、AMはJALコードでの日本人旅客の取り込み増加が期待でき、JALは中米での劣勢を一程度対抗可能となる。一方ANAは、AMとの運賃協定が破棄されたことでメキシコから国内各都市への輸送は、ユナイテッド航空(UA)の米国ハブ経由のジョイントベンチャー(JV)で対応することとなるが、日本=メキシコ線の競争力低下は免れないだろう。

ハワイにおいても、同様の状況がある。ANAは日米間でUAとのJVを行っているため、HAとのコードシェアは両国内の乗り継ぎ路線のみであるが、HAにすればこれをJALに乗り換えることで日本各地とハワイ各島との間で多彩な品ぞろえの商品をお互いに提供できることになる。JALにとっては、ハワイを舞台とするマイレージ会員の囲い込み力も強化され、2019年にANAがA380を投入して供給量を倍増させるまでに、JALの牙城と言われるハワイでの競争優位をより確かなものにしたいということだろう。

今後注目されるのは、近い内にJALとHAが申請を検討しているというATI(独禁法適用除外)の取り扱いだ。

●JAL連合・ANA連合・デルタ、ハワイ市場の次なる手は
○ATIは高すぎない壁ではあるものの

同じワールドアライアンス以外のパートナーとのATIは、これまで認められている事例がすぐに浮かばないほど稀なケースであることに加え、ATIが認められる基本的な要件をJALとHAが満たすかについての当局の判断がどうなるのか、予断を許さないと思われるためだ。

ATIには、それを行うことでもたらされる業界、利用者への影響が、それ以前の状態に対してより競争的環境を提供し、利用者利便を向上させ、市場の拡大をもたらすことが求められる。日本=ハワイ間の座席シェアはJAL・HA連合が45%程度、ANA・UAのJVが20%弱、デルタが30%弱(いずれも2016年夏ダイヤ時点)であり、JAL連合のATIが運賃を高止まりさせるおそれは、他の認可事例と比べて少ないとは言える。また、利用者に対しては、両社によるダイヤ・運賃の調整が両社の品揃えを多様化・便利化することは可能だろう。

他方、このATIが市場の拡大につながるのかというと、日本=ハワイ路線の旅客はほとんどが日本人かつ日本=ハワイ間の地点間需要によって占められており、JVによる効果でハワイを経由して以遠の米国地点に向かう日本人が増加することはないと見られる。台湾や中国などからのハワイ向け需要が、これによって今以上に拡大することも考えにくい。つまり、消費者便益の向上と言っても、現在150万人の両国間の旅客への限定的なものとなるのであれば、両国運輸当局がすんなり認可するとは考えにくいとも言える。

もともとHAは、ハワイ市場でのANA・UAのATIには反対の立場だったわけで、今回、ANAがJAL・HAのATIに表立って反対するわけにはいかない中では、デルタが米国運輸省にどのような立場で臨むのかも大きな要素となろう。

○ANA・JALが目指す市場は

今後のANA・JAL両社の提携競争は、非アライアンスおよびスカイチーム所属のエアラインを巡って様々な形で激化していくと思われる。両社が就航するアジア各地域以外でも、今後、日本人のデスティネーションとしての伸びが期待される東ヨーロッパや中央アジアなど、自社路線の空白地点(日本人需要の伸びは一定度期待できるものの自社でデイリー運航するには市場が成熟していない国・都市)でどのような提携形態を模索するのかは難しい問題である。

両国とも日本直行便を運航しないケースがほとんどだろうから、各国間の航空権益(以遠権等)の状況を見ながら中間経由地としてどの国・エアラインを活用するのかが悩ましいことに加え、資本提携も含めたアライアンスになれば投資制約の法的環境にも留意しなくてはならなくなる。日本から世界に広がるアライアンス動向への興味は尽きない。

○筆者プロフィール: 武藤康史
航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。
(武藤康史)

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