「考える消費」=投資に変わるだけで、社会を変えるエネルギーは生み出せる!

「政治に対して『自分が投票に行っても世の中は変わらないし、俺の一票なんてなんの力もない』と感じてしまう人が多いのと同じことが資本主義でも起きている」と語る村上誠典氏

環境問題や格差解消にも配慮した「新しい資本主義」を掲げて誕生した岸田政権。一方で「経済成長と持続可能性(サステナビリティ)は両立しない」と指摘した『人新世の「資本論」』がベストセラーになるなど、これからの資本主義のあり方に注目が集まっている。

そうしたなか「5%の考える消費」が社会を変える力を持つと訴えるのが、未来投資家・村上誠典(たかふみ)氏の『サステナブル資本主義』だ。資本主義はアップデート可能なのか? そのヒントを村上氏に聞いた。

* * *

――地球温暖化による気候変動や格差の拡大は「資本主義の原理」が生み出した問題だといわれています。サステナブルな社会は資本主義の下で、本当に実現できますか?

村上 今はサステナビリティの実現と経済成長を目指す資本主義とのベクトルが、大きくズレてしまっている状態にあります。それと同時に、多くの人たちが「このままの資本主義ではいけない」と気づいている。

現在の社会システムは基本的に資本主義が作り出したものにすぎません。投資家や企業は、常に「より儲かるほうに投資する」という資本主義のルールの下で活動し、その最適解でベクトルが決まります。

では、持続可能性と資本主義の間のズレをなくすことはできるのか? 言い換えれば「資本主義のルール」を少し変えて、資本主義の下でも成長しながらサステナブルな社会を実現することは可能なのか? 私は、そのカギを握るのが「消費者」だと考えています。

――投資家でも企業でも政治でもなく「消費者」ですか?

村上 はい。ただし、そのためには投資家>企業>労働者>消費者という、皆さんが思い込んでいる資本主義の序列を逆に考えて、消費者である私たちが「資本主義のルールを作る主体」だと気づくことが必要です。

ところが、今はまだ多くの消費者が自分たちは資本主義のヒエラルキーの末端にいると思っているので、気候変動といわれても「そんなの俺のせいじゃないし、誰か偉い人がちゃんと考えてやってよ」という感じになって、当事者意識がすごく低いのだと思いますね。

――消費者に「資本主義のルール」やベクトルを変えるほどの力があるのでしょうか?

村上 むしろ、資本主義のなかで一番、力があるのは消費者なのです。なぜなら、消費がなければそこに投資すべき「市場」も生まれないからで、私たちの消費行動が変われば必然的に市場も変わり、そこに投資する意味も生まれてきます。

新たな市場が生まれるということは社会が変わっていくということで、資本主義の構造のなかで一番大きな力を持っているのが実は消費者なんです。

ですから、例えば消費者の多くが「気候変動を招く化石燃料はもういらない。クリーンなエネルギーのほうがいい」と考え、地球環境や子供、孫の代の未来までを踏まえて、再生可能エネルギーの価格は妥当だと感じれば、その市場が拡大し、世界が一気に再生可能エネルギーにシフトする可能性が生まれます。

これと同じような社会の変化は「電気自動車(EV)」や「有機野菜」といった分野でも消費者の側から作り出すことができます。「持続可能性にとってマイナスなら安くても買わない。

サステナブルな未来につながるものなら買う」と、消費を「投資」だととらえることができれば資本主義のルールの重心がグッと変わり、サステナブルな資本主義に近づいていくのです。

――「私たちが何を買うか?」が市場を変え、資本主義や社会の方向性を変える力を持つ一種の「投資」なのだと。

村上 これまでは投資家が利益を最大化するために消費者をバカにして、地球を傷つけながらお金を増やしていました。

持続可能性や将来世代のことなど考えず「現役世代が得だ」ということを続けている状態が、今の資本主義の"麻薬"で、私たちは無意識にそうした資本主義の奴隷になりながら、実は自分たちがルールメイクできる力を持っていることを忘れていた。

もちろん、消費を「投資」ととらえるためには一定の豊かさが必要です。貧しくて収入がすごく少なければ、その収入のなかで自分が生きていくためには費用最小化という選択肢しかないので、消費は投資ではなく「費用」でしかないからです。

でも、一定の豊かさがあれば消費の選択肢は増えるじゃないですか? そのとき消費の「5%」が社会の持続可能性を実現するための「考える消費」という投資に変わるだけで、社会を変えるエネルギーを生み出すことができる。

消費を投資としてとらえるというのは、自分の消費に関わる選択が自分たちの社会の未来に影響を与えるんだと思ってもらうことなんです。

――あなたが「何を買うか」という選択には「あなたがどんな未来や社会を選ぶのか?」という意味もあるのですね。

村上 まさにそのとおりで、自分がこの消費をするという行為自体が社会を変えるっていう意味では、消費は投資であると同時に、民主主義的にいえば「投票」でもあるんですね。

ところが、今は自分を資本主義の末端にいるなんの影響力もない存在だと思い込んでいて、投票権を持っていることに気づけなかったり、自ら放棄してしまったりしている人が多いように感じます。

そのため、政治に対して「自分が投票に行っても世の中は変わらないし、俺の一票なんてなんの力もない」と感じてしまう人が多いのと同じことが資本主義でも起きている。

でも、民主主義社会の本当の主権者は国民であるように、消費者こそが資本主義のヒエラルキーの最上位で、資本主義がつくり上げた社会システムでは、むしろ政治の一票よりも消費の一票のほうが力は大きいんだよと私はこの本で訴えています。

以前よりは低下傾向にあるとはいえ、世界的に見れば十分な人口があり、一定の豊かさと高い教育水準を備えている日本という国は、この先、デジタル技術・生命科学・分子素材・経営の4分野のビジネスでイノベーションを進めると同時に、ひとりひとりが「考える消費」を通じて新たな市場を創り出すことで、サステナブル資本主義の世界のリーダーとなれる素質があると考えています。

「5%」の考える消費というのは、その力の大きさを表す、一種のマジックナンバーなのです。

●村上誠典(むらかみ・たかふみ)
1978年生まれ、兵庫県出身。シニフィアン株式会社共同代表。東京大学・宇宙科学研究所(現JAXA)を経て、ゴールドマン・サックス証券に入社。東京・海外オフィスにてM&A、資金調達、IR、コーポレートファイナンスの専門家としてグローバル企業の戦略的転換を数多く経験。2017年に「未来世代に引き継ぐ産業創出」をテーマにシニフィアンを創業。200億円の独立系グロースキャピタルを通じたスタートアップ投資や経営支援、上場/未上場の成長企業向けのアドバイザリーを行なう

■『サステナブル資本主義 5%の「考える消費」が社会を変える』
祥伝社 1760円(税込)
既存の資本主義の功罪を理解し、新しい資本主義の形を皆で求めていくことができるのか――。世界が持続可能な社会を求めるなかで、大きなハードルのひとつになっているのが、古い資本主義による支配。宇宙工学の研究者を経て外資系投資銀行に転職し、現在はスタートアップの投資・経営に関わる著者が、資本主義の問題点をえぐり、企業価値の向上と持続可能な社会に向けての課題解決をどうすれば両立できるのか? その考えと道筋を示す
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インタビュー・文/川喜田 研

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