海産物高×中国に買い負け×大手商社撤退のトリプルパンチが直撃! 回転寿司が消滅の危機!?

中国や北米をはじめとする海外でのマグロ需要の高まりと国際的な漁獲量調整、さらに近海本マグロの不漁などにより、マグロ全般が高騰中

みんな大好き、回転寿司が曲がり角を迎えている。原因はコロナや食材高騰だけではない。問題を追った先に見えてきたのは、「安いニッポン」の構図。そこから脱しようと模索する大手回転寿司の新戦略にも迫った!

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■ボタンエビは2.5倍、甘エビは3.5倍に!

食品の値上げラッシュが止まらない。

農林水産省が公表する食品価格動向調査(今年1月)によると、例えば食用油(キャノーラ油)は一昨年と比べ平均19.1%、マーガリンは10.4%、小麦粉は同4.6%の値上がり。

こうした動きを受け、外食産業でも価格見直しが相次ぐ。昨年末に牛丼チェーン大手3社が値上げに踏み切ったのは象徴的だ。  

この流れが次に波及すると目されているのが、回転寿司である。

回転寿司チェーン各社のIR情報によれば、主要各社の原価率は45〜50%。これは約3割といわれる外食産業全体の原価率と比べ、極めて高い。つまり原材料高騰の影響をもろに受けてしまう業界なのだ。

水産庁が発表している水産物の卸値データで、日本の近海水産物を見ると昨年11月時点で、アジは平年(2016〜20年)同月対比で129%、スルメイカは135%、サンマに至っては192%になっている(「東京都中央卸売市場卸売価格」より。すべて生鮮品)。

これらは主に気候変動や過剰漁獲による不漁が原因とされるが、高騰しているのは日本の近海水産物だけではない。遠洋魚や輸入水産物の価格もまた上昇しているのだ。

まずは寿司ネタの王様、マグロの価格動向について、大手水産商社の担当者が話す。

「日本の輸入クロマグロでシェアが大きい地中海産は昨年5月から相場が急騰していて、12月時点の前年同期比で、部位によって仕入れ価格は25〜35%上昇しています。また、キハダマグロは産地を問わず6割以上、値を上げました」

価格が数倍にまで暴騰している寿司ネタもある。南米を中心に世界各地の水産商材を扱う貿易会社・タンゴネロ社長の小平桃郎(おだいら・ももお)氏が明かす。

「ロシア産ボタンエビの現在の相場は昨年1年間で2.5倍に、甘エビは3.5倍まで上がっています。また、カニについてはカナダ産、アラスカ産、ロシア産がいずれも2倍以上に。

ロシア産、アラスカ産のサケイクラや同国産マスイクラ、チリ産サーモンやノルウェー産サバなども値上がり幅は30%以上、モノによっては50%以上になっています」

こうした水産物インフレはすでに消費者の財布を直撃している。昨年10月、くら寿司は都心の一部店舗で100円のネタを10円値上げし、昨年11月にはスシローもひと皿100円だったイクラを150円に変更。回転寿司の100円皿は存亡の危機にあるのだ。

■中国のスシローはひと皿170円でも大繁盛

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海産物インフレの原因は不漁だけではない。ほかの食品と同様、海外の加工現場における慢性的な人手不足や人件費の高騰、ロックダウンによる工場の稼働率低下、燃料価格の上昇、円安といったさまざまな事情が挙げられるが、それ以外に大きな要因がある。

「中国と北米を中心とした寿司ブームです。特に甘エビ、ボタンエビ、サーモン、マグロは中国の需要増により買い負けが顕著。また、エンガワとして使われるカラスガレイ、ツブ貝などはそれぞれの産地で中国がまとめて買い上げるので、日本は中国企業から購入しなければならなくなっているのです」(前出のタンゴネロ・小平氏)

中国・広州市でスシローを展開する広州寿司郎餐飲(さんいん)有限公司代表の松田一成氏に、現地での寿司ブームについて聞いた。

「昨年9月開店の1号店、11月開店の2号店共に、開店以来連日満員となっています。よく出る寿司ネタとしては、昔から定番だったマグロやサーモンに加え、つぶ貝やホタテなど貝類の人気が高いのが特徴。

さらにウニ、イクラ、エンガワも好まれています。以前は敬遠する人も多かったヒカリモノも食べる方が増えていますね」

特徴的なのは価格設定だ。

「最も安い商品でひと皿10元(約170円)と、日本の店舗より少し高めの値づけ。ただ、特別な日のごちそうというよりも、日常使いの飲食店として利用していただいている。ランチにひとりで食べに来る方もいます」(松田氏)

つまり中国は、日本人よりも高いお金を払って回転寿司を楽しんでいるのだ。

水産物需要の高まりは数字にも表れている。中国のコンサルティング企業「中商産業研究院」の試算によると、中国の水産物の輸入量は2016年には金額ベースで70億7240万ドルだったが、19年にはすでに158億3740万ドルとなっており、たった3年で2倍以上に増えているのだ。

前出の水産商社社員が言う。

「地中海産養殖クロマグロをみても、日本がお得意さまだったのは5、6年前くらいまで。今は中国で人気が高い大トロはほとんどが日本を素通りし、韓国・釜山(プサン)経由で中国市場に流れています。

また、これまでは生産量の約8割を日本が買っていたメキシコ産養殖クロマグロは今やアメリカと半々に分けている状況です」

ただ、こうした買い負けは、海外需要の盛り上がりや購買力の差によるものだけではないようだ。前出の小平氏が補足する。

「魚の舌が肥えている日本人を消費者として抱える日本の水産業者は、海外での買いつけでもとにかく厳しい。品質や規格が基準に見合う品物だけを選別することはもちろんのこと、発注は小ロット。

一方、米中の業者は細かいことは言わず、大ロットで仕入れる。品質重視はもちろん大事ですが、このままでは買い付けがより厳しくなる。こうした状況もあって、日本は海外の生産者にだんだん相手にされなくなってきているのです」

品質を求める一方で価格には転嫁しない「安いニッポン」の弊害が生まれているのだ。

回転寿司業界にとっての逆風はまだある。国内商社の撤退だ。

「近年、丸紅、三菱商事などの大手商社が、儲からない水産事業の撤退や縮小をどんどん進めています。長期契約を結んで安定した価格で水産物を川上から買いつけ、川下に供給していく商社は、市場における調整弁の役割を果たします。

その商社がいなくなると、豊漁のときは値崩れが止まらず売るだけ損になり、一方で値が上がるのは不漁のときだけというジレンマに陥る。日本の漁業にとっても大きな問題です」(前出・水産商社社員)

そんな日本を尻目に、中国では高まる水産需要を満たすため、政府の後押しの下での食分野の海洋進出も活発化している。

日本海の大和堆(やまとたい)周辺をはじめ、日本の排他的経済水域で中国漁船の違法操業が常態化しているが、似た事例は世界各地で起きているようなのだ。

「南米フォークランド諸島沖では、アルゼンチンの排他的経済水域ギリギリの海域に中国のイカ取り漁船団が大挙して操業しており、外交問題に発展しています。

一方で中国政府は、ウルグアイの首都モンテビデオ近郊の漁港に2億ドル超を投資する計画を進めている。また、アルゼンチンやチリでは現地漁労会社を買収する動きも活発化しています」(小平氏)

■"ブリヒラ""琉球スギ"......新たな魚種の開拓へ!

くら寿司で期間限定で提供されたブリヒラ。ブリとヒラマサの交雑種で、弾力のある食感と脂のうま味が特徴

水産物の取り合いがグローバル化するなか、もはや回転寿司は気軽に入れる店ではなくなってしまうのか。回転寿司評論家の米川伸生氏はこう語る。

「さらなる値上げは免れないでしょう。大手チェーンでも真ダイはすでに100円から150円になっているところが多いですが、同じく100円皿でよくある養殖ハマチもこれに続いてもおかしくない。高騰が続くタコ、甘エビも150円となる可能性が十分あります」

ただ、回転寿司業界には、原価が上がったからと簡単に値上げに踏み切れない事情もあるという。

「大手チェーンは100円皿、150円皿、200円皿、300円皿という段階的な価格設定になっているので、小幅の調整ができない。100円皿の値上げとなると一気に50%アップとなってしまうのです。

ちなみに原価高騰が続いているマグロですが、回転寿司店にとっては目玉商品なので100円皿から外すことは戦略的に難しいでしょう」(米川氏)

しかし水産業界紙「みなと新聞」の回転寿司担当記者、杉田和也氏は、値上げの「最終防衛ライン」とされるマグロも数年以内に陥落する可能性があると指摘する。

「大手回転寿司チェーンは、マグロやハマチ、真ダイなどの養殖ものの仕入れにおいては長期契約をしていることが多いので、直近の相場上昇や品薄の影響を免れている。しかし今の稚魚が育つ2、3年後となるとわからない。

特にマグロ養殖は、ほとんどが天然の稚魚や中間魚を取って蓄養しているのですが、それも国際的な漁獲制限の対象となるため増産が難しいのです」

ただ、前出のタンゴネロ・小平氏は「私見」とした上でこう述べる。

「原材料を商材として扱っている者からすると、回転寿司の100円皿はありえないほど安い。それは企業努力のたまものだと思いますが、品質や国際相場に見合った価格に値上げできない日本の現状もそろそろ限界を迎えているように感じます。回転寿司は堂々と値上げに踏み切ってよいのでは」

もちろん回転寿司業界も手をこまねいているだけではない。前出・「みなと新聞」の杉田氏によると、大手チェーンは単純な値上げとは異なる戦略を模索しているようだ。

「年始には、くら寿司が5貫880円という過去最高額の商品を発表し、スシローも昨年から高価格帯のセット商品を発売している。脱・低価格の動きは、業界の流れとして出てきているように感じます。

一方で、原価率の低いサイドメニューや、"陸上寿司"といわれる非水産系の寿司ネタの充実にも、各社それぞれこれまで以上に力を入れてくるとみられます」

さらにはこんな試みも。 

「大手の中には、ハマチの養殖を自社で行なったり、水産会社を立ち上げたりと、サプライチェーンの内製化による中間コスト削減に取り組み始めたところもあります。

また、業界では新しい魚種の開拓にも関心が高まっている。例えば、くら寿司ではブリとヒラマサをかけ合わせた"ブリヒラ"という魚を寿司ネタに導入したり、"琉球スギ"という珍しい養殖魚を限定販売したりしています」

曲がり角を迎える回転寿司業界。これまで気軽に食べられていた寿司ネタが遠のきつつあるのは寂しい限りだが、時代に応じて進化していく姿も見守っていきたい。

取材・文/奥窪優木 写真/時事通信社 iStock

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