「弱くても人気がある」阪神タイガースが、いまこそ見直すべき"フランチャイズ"の意義とは?

「弱くても人気がある」阪神タイガースが、いまこそ見直すべき"フランチャイズ"の意義とは?

『「地元チーム」がある幸福 スポーツと地方分権』の著者である橘木俊詔氏


今年のプロ野球も佳境を迎え、セ・リーグも横浜DeNA対阪神の
クライマックスシリーズCS)ファーストステージが今日から始まる。

ギリギリで3位に滑り込んだ阪神タイガースの関西での人気ぶりは変わらず盤石ななか、スポーツと地域の関係性を改めて問い直そうとする流れが確かにある。

『「地元チーム」がある幸福 スポーツと地方分権』(集英社新書)の著者であり、大のプロ野球ファンでもある橘木俊詔(たちばなき としあき)氏が、阪神タイガースへの想いもこめて寄稿してくれた。

 * * *

阪神タイガースは、今年もシーズンの大半をBクラスで過ごしていたが、公式戦最後の6連勝で広島カープを逆転して3位となり、CSに進出した(本コラム執筆時点ではCSの結果は分からない)。

ただ、私のような関西在住のプロ野球ファンにとって、今のタイガースにはおおいに不満がある。言いたいことが山積みなのである。

タイガースの弱点を挙げていったらキリがない。まず、ホームランバッターがいない。大山悠輔を開幕から4番で使い続けていたが、大山は中距離打者であって、ホームランを狙って打てる選手ではない。ホームランバッターを育成することは容易ではないから、先天性に恵まれた選手を獲得することが肝心で、スカウトの猛省を促したい。

そして、長打力不足を補うべく獲得した外国人選手も結果を残せなかった。加えて、エラーの多さは目に余る。チーム失策数は、リーグ1位の102を数える。

投手についても課題山積で、長年にわたって投手陣を引っ張ってきたランディ・メッセンジャーは引退を発表し、次代のエースと期待されていた藤浪晋太郎は制球難が解消されず、1勝もあげることができなかった。セ・リーグ新人最多安打記録を更新した近本光司の活躍は大きな収穫だったが、2016年の新人王・高山俊のように一年限りの花火で終わらないよう、周囲のチヤホヤに躍らされないことを祈るしかない。

一方で、本拠地・甲子園球場は相変わらず盛況だ。タイガースの今季の観客動員数は309万1335人/1試合平均4万2935人で、リーグ優勝した巨人(302万7682人/4万2643人)を上回って12球団中1位である(数字はNPB発表)。「弱くても人気がある」阪神タイガースの特色は健在なのであり、球団は、球場に足を運んでくれるファンに感謝しなくてはならない。私などは「ファンが甲子園に行くことをやめて、球団と選手の目を覚まさなくてはならない」と思っているのであるが......。

戦後一貫して私は阪神タイガースのファンであったが、タイガースは常に巨人の後塵を拝していた。巨人は常勝チームで、その象徴が1965年から73年までのV9であった。そして、当時のタイガースは2位になることが多く、そういう意味では、巨人のライバルでありえた。このような時代のタイガースファンは、「巨人にだけは勝ってほしい」と思っていた。実際、選手たちは巨人戦になるとものすごい気力で戦った。そして、巨人戦に全精力を注いだので、直後の他チームとの試合ではコロリと負けたのである。しかし、タイガースファンはそれで満足だった。

こういった心理の背景には、関西人の、東京に対するライバル意識があった。戦前から戦後にかけて、東西の経済都市として、東京と大阪は拮抗したライバル関係にあった。大阪に本社を置く大企業も多かった時代である。「東京何するものぞ」という意識がプロ野球にも投影され、阪神ファンが巨人に抱く、特殊なライバル意識となったのである。

しかし、1980年代から90年代にかけて、東京と大阪の経済格差が拡大していく。東京への一極集中が進む一方で、大阪経済の地盤沈下が目立つようになる。もはや、東京と大阪はライバルではなくなってしまったのである。

このころから、プロ野球においても、阪神・巨人戦を「伝統の一戦」と呼ぶことが少なくなった。巨人の立場からすれば、阪神はもはやライバルではないのだ。

長年のファンである私としては、弱くなった阪神が再び強くなり、メジャーリーグにおけるヤンキースとレッドソックスのような「伝統の一戦」を復活させてほしいと思っている。しかし、かつてのように「巨人だけに勝っていればいい」時代は終わった。広島もDeNA(かつての大洋)もヤクルトも、もはや万年Bクラス球団ではない。どのチームとも対等に戦わなくてはならない。言い方を変えれば、「東京vs.大阪」という図式から、「東京vs.他の地方都市」という図式に日本経済が変化してしまったのであり、プロ野球も、その流れと無縁ではいられないわけである。

実際、1980年代の終わりから、プロ野球のフランチャイズが徐々に再編されていった。それまで東京と大阪(関西)に集中していたのが、徐々に分散されたのである。南海がダイエーに球団を売却して大阪から福岡へ移り、日本ハムが東京から札幌にフランチャイズを移した。そして、近鉄とオリックスの「合併」に伴って、仙台に東北楽天ゴールデンイーグルスという新球団が誕生した。いまやプロ野球は、札幌、仙台、所沢(埼玉)、千葉、東京(2チーム)、横浜、名古屋、大阪、西宮(甲子園)、広島、福岡と、全国にフランチャイズが分散する形になっている。

拙著『「地元チーム」がある幸福 スポーツと地方分権』(集英社新書)では、このことを詳しく分析し、それがプロ野球の発展にとって「良い効果」をもたらすであろうことを指摘した。そして、プロ野球(NPB)のみならず、野球の独立リーグ、サッカーのJリーグ、バスケットボールのBリーグなど、プロスポーツチームのフランチャイズが日本全国に広く展開していることの意味を、さまざまな角度から指摘している。

再びプロ野球に話題を戻せば、こうした地方展開の傾向は、プロに人材を供給するアマチュア球界にも顕著である。かつては東京六大学や東都大学リーグが選手の主な供給源であったが、いまは地方の大学の勢力が強まっている。東北福祉大学(宮城県)、富士大学(岩手県)、八戸学院大学(青森県)、中京学院大学(岐阜県)などである。選手個々で見ても、ソフトバンクの柳田悠岐(広島経済大学)、西武の山川穂高(富士大学)、秋山翔吾(八戸学院大学)、広島の菊池涼介(中京学院大学)など、地方大学出身者がスター選手になっている。こうした事実にも、拙著で言及した。

考えてみれば、プロスポーツチームがフランチャイズ地域に密着し、その地域性によって存立するというモデルは、関西地区における阪神タイガースの在り方を、他の地方都市に普及させたものといえるかもしれない。「弱くても人気がある」タイガースの特色は、その地域性と切り離すことはできない。甲子園球場のように、その地域ならではの独特の雰囲気をかもし出す「フランチャイズ」が、いまや全国各地に誕生しつつあるのだ。
 
そこで問われるのは、地方展開の「本家」阪神タイガース球団の意識改革である。タイガースファンが「弱くても応援」してきたのは、かつては巨人=東京へのライバル意識ゆえであった。しかし、いまはもうそんな時代ではない。巨人との「伝統の一戦」だけ頑張ればそれでいい、などと考えるファンは、もはや皆無に近いだろう。阪神球団の意識は、そういった時代の変化に対応しているだろうか。

現状を見れば、着実にチームを強化している広島やDeNAこそが阪神のライバルである。球団が経営体質をもっと厳しくしない限り、チームは強くならない。プロスポーツが地方の時代であることを認識し、東京(巨人)への依存体質を改め、自立していかなくてはならないのは、実は、阪神タイガースなのではないだろうか。

●橘木俊詔(たちばなき としあき)
1943年生まれ。京都女子大学客員教授(労働経済学)。
ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。京大教授、同志社大教授を歴任。
日本の格差社会の実態を経済学の立場から分析し、『日本の経済格差』『格差社会』(ともに岩波新書)など多くの著作を発表している。スポーツ関連の著作には『プロ野球の経済学』(東洋経済新報社)『スポーツの世界は学歴社会』(齋藤隆志と共著、PHP新書)などがある。

■『「地元チーム」がある幸福 スポーツと地方分権』(集英社新書)

文/橘木俊詔

関連記事(外部サイト)