トヨタが世界に誇る燃料電池車が大変身! 2代目MIRAIの全貌を開発責任者に直撃

トヨタが世界に誇る燃料電池車が大変身! 2代目MIRAIの全貌を開発責任者に直撃

トヨタ自動車MS製品企画ZFチーフエンジニア田中義和氏(右)と小沢コージ。2代目はプラットフォームを刷新。乗車定員も現行の4名から5名へと増やし、使い勝手を向上させた。もちろん基幹部品も新設計

10月11日、トヨタが来年発売予定の新型MIRAIの試作車を公開した。水素を燃料とするため、走行時のCO2排出量はゼロ。"究極のエコカー"はどう進化したのか? 自動車ジャーナリストの小沢コージが、開発トップであるトヨタ自動車MS製品企画ZFチーフエンジニア・田中義和氏に聞いた。

■「考えるな、感じろ」新二枚目デザイン!

――見るなりビックリです。これがあの超個性の塊だったMIRAIとは! なんかレクサスクーペみたいにカッコよくなってるじゃないスか。

田中 ありがとうございます! そう言っていただけると心強いですわ(関西弁)。

――正直、初代MIRAIのデザインはイマイチだったと思っていますか。

田中 いや、アレはアレで僕は好きでしたし、よかったと思うんです。中身は前輪駆動ですがミッドシップ顔負けの走りをしますし、コーナリングもよかった。ですが、若干好き嫌いが分かれるところがあり、実はウチの家内からの評価もいまひとつで(苦笑)。

――やはり燃料電池車(FCV)ということで、モーターやバッテリーを載せると同時に、燃料電池スタックや水素タンクも入れなきゃいけないから中身パンパンで、船っていうか帆船みたいなデザインでした。臓物の多さでああいうふうにせざるをえなかった?

田中 せざるをえないなかでは頑張ったほうだなと。

――けど、大衆はワガママですよ。いくら燃料電池本体が高かろうが、水素タンクが大きかろうが関係ない。「カッコ悪い」のひと言で終わり。

田中 別に燃料電池ならではのデザインは悪くなかったと思うんです。オーナーさまからの評価も高かったですし。ただ、それに固執するのではなく、本当に皆さまに見ていただいていいな、乗り込んでいただいていいな、運転してみていいなと。

そして誰かにオススメしたくなるようなクルマじゃないとダメかなと。まだ水素ステーションの制約も若干ありますし。そういう部分を乗り越えてお買い求めいただけるクルマじゃないと。

――初代が出てざっくり5年、まだ累計販売台数は1万台以下。国から補助金をもらい、さらにほかのクルマよりも販売補助をもらっていると聞いてます。そこを差し引くと思ったより売れていない?

田中 そうでもないんです。当初はクルマうんぬん以前に供給量が足りなかったですし、コレは言い訳になるんですが、初代を出したとき、1年目は700台だったんですが、2年目はすぐ2000台、3年目は3000台になって、こんなことって普通ありません。

今でもグローバルで年間3000台ぐらい、日本でも1000台弱は買っていただいているんです。

――供給が追いつかない、まさにギリギリの物づくりをしていたと。でも、それは当然です。そもそも水素ガスと酸素を化合させて走るって、要するにスペースシャトルみたいなもんで。そんな燃料電池を事実上本気で売っているのはトヨタぐらいです。

ホンダの燃料電池車は市販と言いつつも、まだリース販売だし、メルセデスも同様です。実際、あんな"走る科学実験室"みたいのを量産するだけでも大変だと思います。生産量を増やすなんてマジでやれます?

田中 以前からトヨタの経営陣は言っていますが、新型はグローバルで年間3万台レベル、日本でも1万台レベル。つまり量産体制に入ります。2代目は内装にしろ、だいぶ質感も上がっています。

――つまり今回はクルマ単体としての性能アップだけではなく、量産効果というか、大量に造るってことも考慮した上での大リニューアルだと。

田中 はい。

――それから初代MIRAIに引き続き、今回チーフエンジニアを田中さんに任せたということは、やはり前回の反省があったし、その経験を生かしなさいってことですか。

田中 反省はありました。それは特に音の部分と居住性、あとは航続距離です。

――旧型はフル充填(じゅうてん)からモード燃費で650qで、実質500qは走りました。それでも足りませんか。

田中 やはり、お客さまの声を総合すると不十分です。

――要するに今回は燃料電池だの究極のエコカーだのなんてカンケーないと。スタイル、走り、航続距離、すべてで単純にMIRAIが魅力的で、カッコいいから欲しい。理屈じゃなくって、心の底からの感情で買ってほしいと!

田中 おっしゃるとおり。もっと言うと事前にスペックもチェックせずとも、「なんなのよこのクルマ、スゴいじゃん!」って言っていただきたい。それが願いです。

――ブルース・リーじゃないけど、「考えるな、感じろ」ってお話ですね(笑)。

田中 まさしく!

――具体的にはどうやって改良したんですか。航続距離が3割増えたってことですが、水素の積載量も3割増し?

田中 今は詳しくお話しできませんが、逆に燃料電池スタックの発電効率も上げているので、水素量が3割増しだともっと走れます。水素量と効率アップを含めての3割増しということです。

――なるほど。パーツはほぼ新作ということですが、モーターパワーも上がっている?

田中 上がっています。走りもよくなっています。残念ながら今回は詳しいスペックを口にできませんが、見た目を裏切らない走りを実現していると思っていただいてけっこうです。

――初代MIRAIは2本の水素タンクにしろ、燃料電池スタックにしろギッチギチに詰まっていました。どうやって新型のスタイルにたどり着けたんですか。

田中 モーターはリア駆動にして......まぁリア駆動といっても中身はEVですから長いプロペラシャフトは必要ないですし、どこに何を配置するかレイアウトをしっかり考え抜き、前回とは違った形でスペース効率を高めながらプロポーションをよくしました。

――もしやミッドシップカーと口にしてもいいレベル?

田中 ある意味そうかもしれません。今回は5名乗車もそうですし、現行は後席足元スペースも厳しかったんですが、全部クリアしています。

――とはいえ、さっき新型のリアに座りましたが、狭めな気もしました。

田中 後席は狭いといえば、狭いようにも見えますが、今フロントシートが後ろになりすぎているんでホントはもっと広いんです。

――リア席の真ん中足元に出っ張り(フロアトンネル)があり......。

田中 そこの説明はまた次回ということで(笑)。

――とことんレイアウトには苦労したわけですね。ズバリ聞きますが、価格は高くなる? 安くなる? 

田中 今回はまだプロトタイプなので、そこも言えませんが、補助金をあそこまでいただいたらダメだと思っていますので。ウチの名誉会長(豊田章一郎氏)も口にしていますが、国から補助金をいただくような仕事は半人前だと。

トヨタには産業報国、つまり「産業を興して国に報いる」というのが綱領にあるんです。ですから、お国にお金を出してもらわなければお客さまに買っていただけないようなクルマは半人前だと。

――き、厳しいス。燃料電池車なんてほとんど国交省以上に資源エネルギー庁直轄の国家事業みたいなもんなのに。

田中 ちなみにオザワさんは、いくらなら新型MIRAIを買ってくださいます? 

――シンプルに考えるとクルマとしてスタイルと走りで訴求するなら、少なくとも同サイズのブランド輸入車、メルセデス・ベンツのEクラスと比べます。となると、600万円台ですか。

田中 なるほど。直接のライバルとして考えていなかったんですが、そういう方にも選んでいただくのが新型MIRAIなのかもしれません。

取材・文/小沢コージ 撮影/本田雄士

関連記事(外部サイト)