ビール、酎ハイ、日本酒まで!"まずい"を払拭して進化を続ける「ノンアルコール」最前線

昔は取り扱いの少なかったノンアルだが、今やスーパーの棚ではノンアルコーナーが作られるほどにまで拡大した

スーパーやコンビニの棚の一角を占める「ノンアルコール飲料」。アルコール度数0.00%のビールを端緒に本格的な"ノンアル"が誕生して10年たち、今や完全に世間に定着した。

しかし今年はコロナ禍を機にさらに需要が拡大。ノンアルメインのバーも登場するなど転機を迎えている。そんな最新のノンアル事情を追う。

■発想の転換でビール再現。今や機能性が入り口に

かつては飲酒ができない状況やシチュエーションで、"仕方なく"飲んでいた感が強かったノンアルコール飲料だが今では積極的に飲むユーザーも増加。ノンアルを取り巻く状況は今、大きく変わってきている。

まずノンアルの認知を広めたのは2009年に発売された「キリンフリー」だった。06年に起きた福岡市職員による飲酒運転事故を契機に社会的ニーズが高まり、08年に開発。アルコール分0.00%という「ノンアル業界のスタンダード」を実現した。

そもそもノンアルビールはどのように作られるのか。実は「キリンフリー」の誕生までは、通常のビールのように麦汁に酵母を加えて発酵させてきた。この発酵の段階でアルコールが生成されるのだが、それを抑制することでノンアルを目指していた。

しかし、現在の主流は発酵を行なわない手法だ。香料などでビールの香りや味を再現している。キリンビールでノンアル部門を統括する林卓也さんはこう話す。

「ビールの香味は発酵による成分変化に影響されます。ただ、発酵ではどうしてもアルコールが残るため、ノンアルビールでは香りや味の調合でビールらしさを再現しました。そこで役立ったのが、一般的に果汁と香料でつくられている酎ハイの調合技術でした」

ノンアル市場は2019年は前年比101.7%と微増だったが毎年右肩上がり。キリンだけでも昨年4万?を販売。また、市場での内訳は家庭用が85%と大部分を占める。今年はコロナで業務用は苦戦しているものの、一方で家庭消費が増加。さらに市場は拡大するはずだ

この「キリンフリー」による市場拡大を見てほかの大手ビールメーカーも追随。開発を本格化し、ノンアル市場をさらに大きく動かしたのは、12年に発売されたアサヒビールの「ドライゼロ」だ。これまで販売していた「ダブルゼロ」に比べ、よりビールらしい味わいにこだわった。

「従来の製法では、ビールの原料の麦汁を発酵させずに使用していましたが、雑味や変な甘味が残る。そこで考え方を180度変えて、麦汁の使用をやめました。社内でも賛否両論ありましたが、その結果すっきりした後味を実現。飲み応えや後味は、代わりにホップの香りを足したり、食物繊維を加えることで補いました」(アサヒビール・吉岡孝太さん)

16年から4年連続でノンアルコールビール市場売上ナンバーワンのアサヒ「ドライゼロ」。累計販売数は5442万箱(633L×24本換算)

そうした試行錯誤の末、生み出された「ドライゼロ」は半数の人がビール類と勘違いするほどの出来だった。それまでのノンアルビールにあった違和感は払拭(ふっしょく)され、よりビールの味に近づいた。しかし、まだまだだと吉岡さんは続ける。

「個人的にはもっと向上できると思います。特にビール特有の穀物感。穀物の香りだけ足してもバランスが崩れて違和感になってしまう。そのバランス調整は永遠の課題だと思っています」

ライバルのキリンビールも味の向上に力を入れる。

「発売当初は正直言っておいしいというレベルではなかったが、改良を重ねた今、格段においしくなりました。ただ、まだ道半ば。

今までのビールの開発では、ビールそのものを分解してなんの成分がビールらしさなのか、わざわざ研究する必要がなかったんですが、ノンアルの開発を始めたことでビールとは何かをあらためて考えるきっかけになった。調べれば調べるほど新しい発見がある。少しずつでも着実においしさは増していくはずです」(キリン・林さん)

腹部の脂肪を減らすビールテイスト飲料、キリン「カラダフリー」。ビール愛好者に多い、肥満が気になる中年世代にオススメ

味の進歩に加えて市場拡大を後押ししたのは「健康志向」だ。ノンアルユーザーは40〜50代が多いが、健康診断で肝機能の数値が高かったなど、健康意識が入り口のひとつとなっている。今ではお酒の最後の1杯をノンアルビールに変えるという飲み方も増えているそうだ。

「現在、ノンアルビールは家庭消費される缶の割合が約9割近くになりますが、意外でした。健康志向で家庭にこれほど浸透するとは思いもしなかったです。発泡酒で糖質・プリン体ゼロがブームになりましたが、ノンアルも同様。

それだけでなく、お酒ではないので『特定保健用食品(トクホ)』や『機能性表示食品』が認められています。そのため、15年には各社で機能性ノンアルが増加しました。特に脂肪に関する機能性は人気が根強い」(アサヒ・吉岡さん)

コロナ自粛がさらにそのニーズを高めていると指摘するのは、食品産業新聞の瀬戸秀一さん。

「16〜17年は各社、味を追求していました。しかし、今年上半期のノンアル市場では26%を機能性やトクホが占めています。去年が6%だったことを考えるとコロナの影響は大きいはずです」

そして「プラスワンで何か入っているのも魅力的」(アサヒ・吉岡さん)というように、各社はほかの機能性にも期待をかけている。実際、キリンは熟成ホップの苦味成分が認知機能改善に効果があると発表している。

「熟成ホップには体脂肪を軽減する機能がありますが、ほかにもさまざまな可能性があると考えています。また、熟成ホップ以外にも研究素材は多くあるので、将来的にその時々のニーズに合った機能も付随していけたらと」(キリン・林さん)

また、食品産業新聞の瀬戸さんは今年4月に発売された「グリーンズフリー」(キリン)を「エポックメーキングだ」と評する。

「同商品のウリは『自然派ビールテイスト炭酸水』という点。味自体はビール風だけど、想定している飲む場面は無糖炭酸水と同じ日常生活のなか。ビールという概念から離れようとしている」

近年広がる無糖炭酸水市場に参入し、ノンアルビールを飲むシチュエーションを変えようとしているのだ。

■男性需要を狙う酎ハイ、日本酒の今後

一方、ノンアルビール技術の礎となったノンアル酎ハイやカクテルの今後にも期待がかかる。特にフルーツ系の酎ハイは一歩間違えるとジュースになる懸念もあるため、お酒の連想を深めることが課題だという。

「喉を通るときの甘味や酸味、そして喉が焼けるようなバースト感など、かけ算で酒感を出している」(キリン・林さん)

各社とも、特に狙っているのは男性ユーザーの掘り起こしだ。

「『スタイルバランス』のハイボールテイストは再現度も高く、男性に人気です。酎ハイやカクテルと違って、ノンアルのハイボールを飲食店で作るのは難しいと思うので、そこを強化できたら」(アサヒ・吉岡さん)

甘いノンアル酎ハイが多いなかで珍しいアサヒ「スタイルバランス 香り華やぐハイボールテイスト」も機能性表示食品

ノンアルで注目されているのは、ビールや酎ハイだけではない。月桂冠から昨年発売された「スペシャルフリー」は、それまで同社が出していたノンアル日本酒と比較して高い評価を得ている。月桂冠の村椿(むらつばき)達哉さんによると、大吟醸テイストに一新したことが大きな要因だという。

「スペシャルフリーは予想外の反響で、特に若い方から好評です。以前は日本酒に近づけることに注力していました。しかし、日本酒の飲みにくさも再現してしまった。なので、ワサビや大葉などいろいろな調味料を使ったり日本酒らしさは残しつつ、逆に飲みやすい大吟醸に方向転換しました。

ただ、大吟醸特有のフルーティさを求めると、スポーツドリンクのようになってしまう。アミノ酸を使って日本酒の甘味やコクを再現しつつ、香料や香辛料などを組み合わせることで味と香りのバランスを両立させました」

(左から)「月桂冠フリー」(14年)、15年発売の「月桂冠NEWフリー」、そして19年に生まれた「スペシャルフリー」。アルコール感がない分を甘味やキレを高めることで補っている

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このノンアル日本酒は味わいを重視しているが、まだ発展途上だという。

「日本酒はもともと料理と合わせるものですが、そこはまだ実現できていない。まずはお酒を控えたい人の希望に応えるのが第一。ですが、これを機に若い人の日本酒の入り口になることにも期待したいです」(村椿さん)

■カギは若者ニーズ。10年後には3倍へ!

味の進化や健康需要に加えて、若者のノンアル志向の高まりを指摘するのは、前出の瀬戸さん。

「海外トレンドは遅れて日本に入ってくる。海外はすでにノンアル志向で、ハイネケンやギネスなど大手メーカーも力を入れている。消費者がアルコール摂取を控えてきているんです。特に若い人は、酔っぱらう=カッコ悪いという感覚が一般化してきています」

現にイギリスでは、16年に世界初のノンアルコールスピリッツ(蒸留酒)「Seedlip」が誕生。同時期に「モクテル」と呼ばれるノンアルカクテルがブームになった。昨年にはニューヨーク初のノンアルバーがオープンし、そのニュースは日本でも話題になった。

アメリカでは「あえてお酒を飲まない」人々の総称「ソーバーキュリアス」という言葉も生まれている。そのブームを牽引(けんいん)するのが、若者世代なのだ。

世間では「若者の酒離れ」といわれているが、18年の「飲酒頻度」調査を見ると「ほとんど飲まない」「飲まない(飲めない)」は各世代で増加。割合では、意外にも30代、40代が約15%増と最も増えている

「日本でもお酒に酔うことを疑問に感じている若いお客さんも少なくありません。アルコールの高揚感がなくても、コミュニケーションは楽しめるというわけです」

そう話すのは、今年3月に日本初のノンアル&低アル専門バー「Low−Non−Bar」を東京・八重洲で出したベテランバーテンダーの宮澤英治さん。

「海外はノンアルが豊富。ただ成分上の理由などで日本では流通していません。ですが18年に日本初のノンアルコールスピリッツ『NEMA』を皮切りにバーでもノンアルが注目されました」

「Low−Non−Bar」では世界各地から集めたノンアルのお酒が並ぶ「NEMA」を使った「モヒート」は男女共に人気

今年は5月にジンテイストのノンアルコールスピリッツ「のん THE NON−ALSPIRITS」が誕生。7月には六本木に完全ノンアルバー「0%」がオープン。また8月には、酔うことではなく、昼間からビールを飲む"背徳感"を楽しむ、をコンセプトにした「昼ビ」も発売。これは下戸の広告代理店出身者が作った変わり種ノンアルだ。

そして前出の宮澤さんは観光地のノンアル需要を実感しているという。

「軽井沢の系列店舗ではノンアルの反響が大きい。あくまで旅行が目的であって、旅先でわざわざ飲酒して酔う必要がないからでしょう。また、バイクのツーリングイベントでも好評です。アウトドアとの相性はかなりの手応えを感じています」

すでにメーカーもアウトドア需要をもくろんでいる。キリンの林さんはこう話す。

「弊社でもキャンプ場でサンプリングを行なっています。『キリンフリー』発売当時のCMでもスポーツ中に飲んでいる。仕事やアウトドアでの飲用機会はもっと早く広まることを期待していました。

ノンアルビールのユーザーはビール愛好者の3分の1。つまり、まだ大半が未体験で、今の3倍の需要が見込める。今後10年以内に誰もがノンアルを普通に飲んだことがある環境を目指したいです」

いまだ進化の途上にあるノンアルは、まだまだ未知なる可能性を秘めているようだ。

取材・文/鯨井隆正

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