鉄道車両の画一化が進む一方で古い車両が再評価の流れも

古い鉄道車両が活躍 都電荒川線の7700形、長野電鉄は10000形HiSEをリニューアル改造

記事まとめ

  • かつてクラシックな車両を鉄道友の会が表彰する「エバーグリーン賞」という制度が存在
  • 豊橋鉄道のモ3700形や一畑電気鉄道のデハ50形などが受賞したが2003年に賞は廃止された
  • 2016年には都電荒川線7000形の車両を改造した7700形が登場、古い車両に再評価の流れも

鉄道車両の画一化が進む一方で古い車両が再評価の流れも

鉄道車両の画一化が進む一方で古い車両が再評価の流れも

都電荒川線7700形は昭和をイメージしたクラシックモダン調

 地方へ行くと、古い鉄道車両が大切に今でも使用されていることが少なくない。かつて、そういったクラシックな車両を鉄道友の会が表彰する「エバーグリーン賞」という制度が存在した。どんな目的で設置され、なぜ廃止されたのか。ライターの小川裕夫氏が、同賞と、いま新たな意味を持ちつつある古い車両の意義についてレポートする。

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 かつての鉄道車両は、メーカーや運行する地域によって性能はもとより外観などバラエティに富んでいたと言われる。一方、最近の鉄道車両は個性が消失し、往年のファンから「旅をしていても、みんな同じような車両ばかりで面白味に欠ける」と評する声も耳にする。

 そうした声には、少なからず懐古主義的な思いが含まれている。しかし、以前に比べれば鉄道車両の画一化が進んでいることは確かだ。

 鉄道車両の画一化が進んだ理由は、高度経済成長期に都市圏で輸送量が増大して車両を量産化しなければならなかったこと、どこの路線でも走れる方が効率的な運用ができることなどが挙げられる。

 また、鉄道車両に盛り込まれる技術が高度化したことも車両の画一化に拍車をかけた一因でもある。

 技術が高度化すれば、当然ながら開発費や製造費は膨れ上がる。しかし、日本の人口は減少傾向にあり、地方鉄道は特に利用者減が顕著。採算面で先行きが明るいとは言えない。そうした財政的な事情もあって、鉄道車両メーカー間では技術の標準化が進んだといわれる。

 例えば、2017年に山手線に登場したE235系は、JR東日本と鉄道車両メーカーが総力を挙げて開発した。E235系の外観は、それまでの常識を覆した斬新なデザインだと言われる。特に、顔の部分はこれまでの常識を打ち破るような大胆なデザインだったので話題になった。これまでE235系は山手線にしか走っていなかったので、斬新なE235系の顔は、山手線の顔として定着した。

 ところが、9月4日にJR東日本はE235系の新造を発表。新たに製造されるE235系は、2020年度から総武線快速・横須賀線でも運行する予定とされた。また、E235系は総武線快速と直通運転をしている外房線や内房線、成田線、鹿島線にも乗り入れる。つまり、これまで山手線の電車だったE235系は、今後は山手線だけの電車ではなくなる。

 技術の高度化によって車両の画一化が進む一方、独自の車両を用いて観光需要を掘り起こそうとする動きもあった。

 昔の列車を運行することで観光客を増やした事例は多々あるが、特筆すべき事例が山口県の新山口駅と島根県の益田駅を結ぶ山口線だ。

 山口線では、1979年からSLやまぐち号の運転を開始。当時、SLは地方のローカル線から続々と引退していた。そのため、SLを懐かしむファンやSLに乗ろうとするファンが山口線にまで訪れるようになる。SL運行によって観光需要が生まれ、地域活性化にも寄与した。山口線の成功を受けて、ほかの路線でもSLやレトロな列車を運行するようになった。

 日本最大の鉄道愛好者団体・鉄道友の会は、毎年優れた鉄道車両を顕彰するためにブルーリボン賞を贈呈している。しかし、「新しい車両ばかりに賞を出すのではなく、古くても大切に使っている車両にも価値がある。だから、同じように顕彰しよう」という発案から、1984年にエバーグリーン賞が制定された。

 エバーグリーン賞は毎年のように車両が選定されるわけではないが、レトロ電車として活躍した豊橋鉄道のモ3700形や一畑電気鉄道のデハ50形などが受賞。

 しかし、2000年の津軽鉄道のストーブ列車がエバーグリーン賞の最後の受賞車両になった。鉄道友の会事務局長の鹿山晃さんはエバーグリーン賞が廃止された背景について、こう説明する。

「鉄道ファンでなくても古い車両を見ると懐かしく感じて、『乗ってみたいなぁ』とか『写真を撮ってみたいなぁ』という気持ちを抱きます。そうした気持ちは理解できますが、それはあくまでも利用者の目線です。鉄道会社側の立場になると、話は変わってきます。鉄道会社は、できるだけ新しい車両を入れたいという気持ちが強いのです。しかし、採算を考えると新車両は高くて手が出せない。だから、古い車両を使い続けるしかないのです。エバーグリーン賞の受賞は嬉しい反面、新車両を導入できないという悔しい気持ちもあります」

 そうした鉄道事業者の気持ちを斟酌した結果、2003年にエバーグリーン賞は廃止された。

 財政的に新車両を投入できないという事情は、1994年にモ3700形でエバーグリーン賞を受賞した豊橋鉄道を見ると鮮明になる。

 豊橋鉄道は、愛知県豊橋市と田原市で通常の鉄道を運行。また、豊橋市内で路面電車を運行している。

 モ3700形は路面電車の車両で、エバーグリーン賞を受賞した頃はレトロ電車としてイベント時に運行されていた。車内には豊橋在住の画家で、とよはし市電を愛する会の伊奈彦定さんが描いた絵が飾られていた。そうしたことから、モ3700形は広く市民には愛された車両だった。しかし、2008年に現役を引退。その後は豊橋市内のこども未来館に保存展示された。

 レトロ電車のモ3700形と入れ替わるように、豊橋鉄道はT1000形という低床車の最新型車両を1台導入。

 豊橋鉄道は初開業した1924年から2008年までの83年間、路面電車に新車を導入したことがなかった。それまで豊橋鉄道で使っていたのは、旧名古屋市電や都電といった他事業者から譲渡された車両ばかりだった。

 2008年に初めて新車を導入できた理由は、国・愛知県・豊橋市から路面電車事業に補助金を受けることになったからだ。

 T1000形が導入されてから10年が経過。新たな車両は、導入されていない。

 モ3700形が担ってきたレトロ電車の役割は、モ3200形に引き継がれた。モ3200形も製造から40年が経過した古い車両だ。いつ引退してもおかしくない。

「豊橋電鉄では夏の4か月間に車内でビールが飲める“ビール電車”を、冬の4か月間に車内でおでんを楽しめる“おでんしゃ”を運行しています。モ3200形は、そのイベント電車として使用しています。モ3200形の車内に伊奈さんの絵は展示していませんが、車体に伊奈さんの絵が描かれており、モ3700形同様に多くの市民に親しまれています」(豊橋鉄道総務部広報担当)

「古い車両を大事に使っている」と言えば聞こえはいいが、地方鉄道の現実を見ると「財政的に苦しいから、仕方なく古い車両を使い続けている」という面があることは否定できない。

 しかし、必ずしも"古い"がネガティブな要素にはならない風潮も出てきている。

 2015年、東京都交通局は都電荒川線に新型車両8900形を導入した一方で、翌年に7000形の車両をミニ改造しつつクラシックな色調にリニューアルした7700形を登場させた。7700形は以前の車体を流用。クラシックモダンを意識した、明らかに昭和テイストを感じさせる外観をしている。

 また、長野電鉄は小田急ロマンスカーとして運行されていた10000形HiSEをリニューアル改造して特急車両の1000系ゆけむりとして運行。また、JR東日本で成田エクスプレスとして運行し活躍していた253系も同じように改造を施し、新たに2100系スノーモンキーとして運行している。

 こうした古い車両が通勤・通学輸送にも活躍し、なおかつ集客の目玉として沿線外からも利用者を呼び寄せる。

 鉄道友の会のエバーグリーン賞がなくなってから15年。時代は巡り巡って、昔の車両が再評価される時代が訪れている。

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