アシックス「オニツカ」好調もランニングシューズ失速の明暗

アシックスが18年12月期決算で過去最大の赤字幅 「オニツカタイガー」は好調

記事まとめ

  • 東京五輪スポンサーのアシックスは、売り上げの8割以上をスポーツシューズが占める
  • "厚底シューズ"の「METARIDE」を2月28日に発売、税込みなら3万円弱という価格
  • 好調な「オニツカタイガー」と低調な「アシックスタイガー」では明暗がわかれた

アシックス「オニツカ」好調もランニングシューズ失速の明暗

アシックス「オニツカ」好調もランニングシューズ失速の明暗

反撃の狼煙を上げる新ランニングシューズ「METARIDE」

 2020年の東京五輪でゴールドスポンサーとなっているスポーツ用品大手のアシックス。売り上げの8割以上を占めるのが各種スポーツシューズだが、ナイキやアディタスといった世界の列強と比べると、いまいちブランド力に劣る。業績も堅調とは言い難い同社の経営陣は、今後どんな巻き返し策を考えているのか。経済ジャーナリストの河野圭祐氏がレポートする。

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 アシックスの2018年12月期決算は、純損益で203億円の赤字となった。同期の売り上げは3866億円だったから、売り上げに比して赤字額はかなり大きい。実際、過去最大の赤字幅だという。海外の直営店舗を含む国内外の保有資産を整理、再評価し、230億円の損失を計上した点と、米国での売り上げ大幅減が効いたようだ。

 昨年3月末、三菱商事から転じてアシックス社長に就任した廣田康人氏は、いきなり試練に直面した形だが、言い換えれば、前社長時代に先送りしてきた課題を、前期に一気に吐き出したともいえる。

 今秋はラグビーワールドカップ、来夏は東京オリンピック・パラリンピックが控えており、アシックスは五輪ではゴールドスポンサー(推定で150億円の拠出)にもなっているだけに、前期でリセットし終えて、反転攻勢の態勢を早く整えたいとの思いもあっただろう。

 そして、反撃の狼煙ともいえる商品が、去る2月28日から発売された、新ランニングシューズの「METARIDE」。前日の27日に行った発表会で廣田社長はこう語っていた。

「この『METARIDE』という革新的なシューズを紹介できるこの日を、心待ちにしていました。これまで当社が培った技術が集積されており、ランナーが、より長い距離を、よりラクに、楽しく走ることを可能にするシューズです。

 私も試し履きをし、従来のシューズとはまったく異なった感覚に捉われました。長距離も走ってみました。とても推進力があり、前へ前へと連れていってくれます。まさに走るためのシューズだと実感しました。

 このシューズは、長距離ランニングの世界に大きな革新をもたらすでしょう。世界中のランナーにこのシューズの価値を実感していただきたい。この秋以降も、『METARIDE』と同じコンセプトを持った製品をシリーズ展開していきます。このシューズはゴールではありません。革新的なシューズではありますが、あくまで1つのマイルストーン(通過点)なのです」

 発表会会場で筆者も試し履きを試みたが、つま先周辺と踵周辺のクッションの厚みが凄く、足が浮揚しているような感覚に捉われた。が、ソール裏側の土踏まず周辺部分に大きな切れ込みの穴が開いており、そこが緩衝エリアになって、歩いてみるとつま先周辺と踵周辺の浮揚感をうまく吸収している――そんな感覚だった。

 商品自体は“厚底シューズ”と呼ばれるタイプで、同様の構造を持つナイキのシューズを履いたトップアスリートたちが、特に昨年以降、驚異的なタイムをたたき出して立て続けに優勝をさらったことが大きな話題になった。

 アシックス「METARIDE」の発表会で、同社の執行役員でスポーツ工学研究所長を務める原野健一氏は、「当社の新商品は2番煎じではないかと思われるかもしれないが」と前置きしたうえで、「パフォーマンスの最大化と足の保護、怪我予防の両方のミッションを維持しながら、新しいシューズ体験を提供することができたと自負している」と胸を張っていた。

 また、発表会を3月3日開催の東京マラソン直前にぶつけてきたのも、宣伝拡散効果を狙ってのことだろう。実際、東京マラソンのEXPO会場などで「METARIDE」の試し履きや販売も行っている。

 アシックスは今年、創業70年の節目でもあったが、同社が一貫してPRする点が技術力の高さだ。いわば“技術オリエンテッド”な企業なのだが、消費者に訴求するマーケティング力やその巧みさという点では、ナイキやアディダスといった世界の巨大メーカーと、まだかなりの開きがあるように映る。

 実際、今回の「METARIDE」についてのネット上の声を見ると、

「フィット感や走りやすさは最高だが、黒と赤の色使いのシューズは子供っぽい。ナイキのようにもっとシンプルな色使いを」
「色使いやデザインがイマイチ」
「ランニングのプロだけでなく、もっとライト層も買うデザインにしたほうがいい」

 など、カラーリングやデザイン面での不満が散見された。色やデザインの好みは個人差があるので、これらの指摘が最大公約数とは言えないものの、少なくない声としてあるのも事実だ。

 また、メーカー希望小売価格が税抜きで2万7000円、税込みなら3万円弱という価格についても、「この値段では、まだまだ手が出ない」「単純に高い」といった庶民感覚の声も聞かれた。

 いずれにしても、今回の「METARIDE」が業績回復への足掛かりになったとしても、1商品では限界がある。だからこそ廣田氏も、前述したように「今秋以降、『METARIDE』と同じコンセプトを持った商品をシリーズ展開する」として、ランニング以外のスポーツ分野やウォーキングシューズ、スニーカーなどへの全面横展開を宣言したのだ。

 一方、既存のシューズブランドで明暗を分けたのが、好調な「オニツカタイガー」と低調な「アシックスタイガー」の2ブランドだ。

 両者は似て非なるもので、まず前者は、1977年まで使っていた競技用シューズを、洗練されたスタイルを求めてスポーティなファッションブランドシューズとして2002年に復刻。後者は1990年代半ばまで使っていた競技用シューズを踏襲し、ストリートファッションの要素も取り入れたスポーツライフスタイルブランドとして2015年に復刻した、というのがアシックス側の位置づけだ。

 うち、「オニツカタイガー」は東南アジアを中心に海外でかなりの人気となり、訪日外国人もよく買っている。そのためか、今年1月の組織改編では、この「オニツカタイガー」のシューズやウエアだけを切り出した部門を新設した。

 今年の売り上げ計画でも、「オニツカタイガー」は前年比の伸長率で、ほかの部門に比べて最大となる見込みだ。創業者の鬼塚喜八郎(故人)の名を冠したこのブランドは歴史が古いだけに、素材やデザイン、色使いやロゴマークなどのレトロ感もウケているようだ。

 以前、廣田社長はこう語っていたことがある。

「『オニツカタイガー』をしっかり育て、よりハイエンドなラグジュアリーブランドにしていきたいと思っています。そして、僕らが一番大切にするのはランニングシューズ分野。ランニングが一番強いジャンルでもありますし、当社の技術が一番発揮できるところでもある。ここでナンバーワンになるんだという、そこは絶対にブラさないようにしようと。

 そのうえで、僕らは“スポーツスタイル”と呼んでいますが、普段履きのスニーカーも非常にニーズが高まってきていて、ファッション性がすごく重視されるので、この分野もしっかり確立させていきたいと思います」

 明の「オニツカタイガー」に対し、現状、暗になっている「アシックスタイガー」は、欧州とオセアニア地域で特に低調だ。競技用は従来の「アシックス」、「アシックスタイガー」はスポーツカジュアル、「オニツカタイガー」が高級カジュアルといった位置づけだったが、その中で、価格競争も激しく競合商品も多い「アシックスタイガー」のジャンルは、アシックスがやや弱い、ファッション性も重視されるだけに、「アシックスタイガー」浮上に向けてのテコ入れは簡単ではない。

 ともあれ、アシックスはシューズの売り上げが8割以上を占め、売り上げに占める海外比率も75%と高く、中核のランニングシューズで海外の強者メーカーに勝ち抜いていかなければ、存在価値を失ってしまう。足元の失速、劣勢をどう跳ね返していくか──。“助走期間”は終わって、社長2年目に入る廣田氏の腕が試されることになる。

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