大前研一氏「東芝を傍観しているしかないのは残念至極である」

大前研一氏「東芝を傍観しているしかないのは残念至極である」

日本企業はM&Aになぜ失敗するのか

 東芝や日本郵政など、名だたる日本企業が海外企業のM&Aに失敗して巨額な赤字に見舞われている。東芝などは、それをきっかけに経営危機に陥らされた。経営コンサルタントの大前研一氏が、日本企業がM&Aになぜ失敗するのかについて、具体例を交えながら解説する。

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 日本企業の海外M&A(合併・買収)は、たいがいデューデリジェンス(※)が甘くなる。デューデリは、会計監査事務所、年金調査会社、特許事務所、弁護士などのチームを作り、普通は4~6週間かけて実施する。だが、その内容は非常に専門的なので、それをきちんと理解・対処できる社長は極めて少ない。

【※デューデリジェンス/事前に投資対象企業の財務状況や収益性などを精査して資産価値を査定すること】

 さらに、海外M&Aで失敗した日本企業の場合、買収相手本体ではなく、その子会社や孫会社が“爆弾”を抱えていた事例が多い。

 たとえば、アメリカの原発会社ウェスチングハウス(WH)を約6300億円で買収した東芝は、WHのデューデリはやっていたが、WH経営破綻の原因となった同社傘下(つまり東芝の孫会社)の原発建設会社ストーン・アンド・ウェブスター(S&W)のデューデリまではやっていなかった。

 企業を売却しようとする時には、デューデリで好業績に見せかけて高値で売り抜けるために、数年かけて“ドレスアップ”をするケースも少なくない。その手口は、ドレスアップ専門の経営者を送り込んで、研究開発費や広告宣伝費を削り、給料が高い優秀な社員をクビにしてコストを削減する。投資はせずに安売りなどで売上高を嵩上げし、無理矢理、利益を出す。

 その結果、短期的には業績が良くなったように見えるが、中身はボロボロになる。このドレスアップを、買収する側はデューデリで見破らねばならない。投資銀行が絡んだり、投資ファンドが保有企業を売り出したりした場合は、とくに要注意だ。

 その代表的な例は、住関連サービスのLIXILによるドイツの水栓金具最大手グローエ買収である。グローエは2004年から投資ファンドが保有しており、そのファンドがグローエをドレスアップするために会長兼CEOとして送り込んだのがデイビッド・ヘインズ氏だった。

 彼は中国企業ジョウユウを買収することでグローエの業績を嵩上げし、2014年に約4000億円の高値でLIXILに転売することに成功。結果、LIXILはジョウユウの破産に伴い最大662億円の損失を出すことになった。

 ジョウユウは、積極的な世界化のために金利の高い“影の銀行”などから借金をして利息が雪だるま式に積み上がっていたと言われている。こうした孫会社の実態はおそらくヘインズ氏からは報告されていなかったと思われる。

 当時のLIXILの藤森義明社長兼CEOは、アジア人として初めて米ゼネラル・エレクトリック(GE)の上席副社長を務めた「プロ経営者」と呼ばれる人物だが、その藤森氏でさえ、ファンドが仕掛けたカラクリを見破ることはできなかったのである。

 NTTも分割民営化後は各社が積極的に海外M&Aに取り組んだが、ことごとく失敗して巨額損失を出す羽目になった。M&Aの場合は、案件を持ち込んだ投資銀行との間で「ノン・ディスクロージャー・アグリーメント(NDA=秘密保持契約)」を結ぶため、私のような長期にわたって経営相談を受けているコンサルタントといえども、当該事項が進行している間は情報を知ることができない。

 経営コンサルタントは基本的に企業と“運命共同体”であり、その企業のために10年でも20年でも働くが、投資銀行や投資ファンドはM&A自体が目的だから、後のことには関心がないのだ。

 たとえば今回の東芝の場合、もし私が相談を受けていたら、上場にこだわらずLBO(※)を仕掛けるだろう。東芝の半導体事業は2兆円の価値があるとも言われているが、今なら東芝全体を5000億円足らずで買えるからだ。LBOをやって非上場にした上で、じっくり時間をかけて各部門を再建し、業績が回復したら一つずつ再上場する。そうすれば借金は一気に返済できるだろうし、何一つ事業を売却する必要もない。

【※LBO/Leveraged Buyoutの略。買収先企業の資産または将来のキャッシュフローを担保に金融機関などから資金を調達して行なう企業買収】

 ところが、今は投資銀行や投資ファンドが群がり、東芝を解体して儲けようとしている。もし私が頼まれたら、無償でも協力して瞬時にLBOを実行するのだが、傍観しているしかないのは残念至極である。

※週刊ポスト2017年6月16日号

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