佐川急便も導入の週休3日制 ビジネス上の損失が大きい現実

運輸業界を中心に広がりつつある「週休3日制」 ビジネス上の損失と長時間労働危惧も

記事まとめ

  • 佐川急便の週休3日でのドライバーの募集で「週休3日」の働き方が話題になっている
  • ユニクロを運営するファーストリテイリングが転勤のない「地域正社員」を対象に導入
  • ヤフーは今年4月から家族の育児・介護をしている社員を対象に導入している

佐川急便も導入の週休3日制 ビジネス上の損失が大きい現実

佐川急便も導入の週休3日制 ビジネス上の損失が大きい現実

週休3日で長時間労働が増す恐れも

 ドライバーの人手不足に悩む運輸業界を中心に広がりつつある「週休3日制」。労働日数・時間にメリハリをつけて人材確保をしやすくする狙いや、常態化する長時間労働を是正する目的もあるとみられる。だが、果たして日本企業に定着する仕組みなのだろうか? 人事ジャーナリストの溝上憲文氏が、週休3日制のメリット、デメリットを解説する。

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「週休3日」の働き方が話題になっている。直接のきっかけは佐川急便の週休3日でのドライバーの募集だ(東京都と山梨県)。

 転職サイトに掲載された同社の募集広告のキャッチコピーは〈「週休3日」で、家族との余暇も収入アップも実現可能〉。その下には、〈水曜お休み。朝から趣味の釣りに出かけて、ゆっくり過ごす。土曜お休み。家族みんなで、日帰り温泉を満喫! 日曜お休み。今日は子どもと一緒に近隣の公園へ。〉という文字が躍っている。

「週休3日」募集の最大の狙いはドライバー不足による人材の確保だ。だが、週休3日といっても労働時間が減るわけではない。普通は1日の所定労働時間が変わらずに休みが1日増えることをイメージするが、そうではない。

 同社の週休2日のドライバーの実働時間は1日8時間、5日勤務で週40時間。週休3日の場合は、1日8時間の法定労働時間の例外を認める「変形労働時間制」を使って1日の労働時間を10時間にして同じ40時間にするものだ。

 もちろん1日の労働時間が8時間を超えても残業代がつくことはなく、週の労働時間を4日に固めただけの話だ。働き方の選択肢が増えることは結構なことだが、この仕組みでドライバーが集まるかどうかは微妙だろう。

 そもそも運送業界は残業を前提として成り立っている。社員も残業代を当てにして生活設計をしている人も多い。

 同社のドライバーの基本月給は、週休2日も3日もほぼ同じ「18万~26万円」(関東地区)。募集広告には週休3日の月収例として「26万5924円~35万5057円」(東京、残業手当20時間)と、わざわざ残業代込みの給与を紹介している。

 週休3日の月の勤務日は17日。1日1時間ちょっとの残業時間になる。実働10時間といっても間に1時間の休憩時間があるから通常の拘束時間は11時間。残業込みの月収をもらうには1日計12時間拘束される。仮に9時始業の会社であれば21時に帰宅することになる。しかもシフト制なので週の真ん中に休めるとは限らない。

 週4日連続で働き、3日の休みがあるといっても、労働実態を考えると1日は家でぐっすりと寝ていたい気分になるかもしれない。冒頭の募集広告にあるような“優雅な3日間”を過ごすことができるのか疑問ではある。

 週休3日制は佐川急便以外に、すでにユニクロを運営するファーストリテイリングが転勤のない「地域正社員」を対象に導入している。同社も変形労働時間を活用し、1日10時間、週4日勤務と佐川急便と同じ仕組みだ。

 ただし小売業なので休みは平日に取得することになっている。こちらも「『仕事と家庭を両立させたい』『オンもオフも充実させたい』そんな声にお応えして導入した」同社HP)という触れ込みだ。だが、日々子育てしている社員にとっては1日の労働時間が長くなる分、休みが1日増えることのメリットはあるのだろうか。

 ヤフーは今年4月から家族の育児・介護をしている社員を対象に導入している。

 同社の1日の労働時間は変わらず、休みが1日増える分、2割程度給与が減額される。こちらは1日5~6時間働く育児・介護の短時間勤務の週休版ともいえるもので、単純に短時間勤務か週休3日かという選択肢を増やしたにすぎないともいえる。果たして今後どれだけの数の社員が選択するのか興味深いところである。

 ではこの週休3日制の仕組みが他の業種・職種にまで広がるかといえば難しいだろう。たとえば製造業。すでに24時間フル稼働の工場では休息時間に配慮しながら昼夜3交代のシフトを組んでいる。そこで丸々1日休みを増やすとしたら、さらに休息時間を切りつめるか、増員は避けられないだろう。

 営業職も難しい。法人や個人の顧客対応の社員は相手の都合によって残業が日常茶飯事の世界だ。しかも個人ごとに担当顧客を抱えていると、定時を過ぎても対応せざるをえない場合も多い。じつは月末金曜日の午後3時の早帰りを奨励するプレミアムフライデーでは多くの企業が実施を見送った。最大の理由は顧客への対応だ。

 ある医療機器メーカーの人事部長は、

「土日は病院が休みになるので金曜日は検査機器類の納入で忙しくなる。営業職の社員が午後3時に帰れば、顧客対応ができないためにビジネスの損失が大きい。普通の日でもライバル社としのぎを削っており、定時以降は対応できませんとなると顧客を奪われてしまう」

 と指摘する。仮に週休3日制になり、顧客に「明日は休みなので来られません」と言おうものなら「あっ、そう。じゃうちに来なくてもいいよ」と言われかねない。もちろん顧客やライバル企業も週休3日ならいいが、自社だけ導入してもビジネス上の損失は免れないだろう。

 ビジネス上の損失以外に、週休3日制で危惧されるのが長時間労働だ。

 前述したように今の週休3日制は、週40時間の労働時間を4日に固めただけで、完全週休3日制ではない。その結果、1日の拘束時間は11時間(休憩1時間)になる。現在の日本の労働実態からすれば残業なしではすまされない。それこそ休みを1日増やしたことでやるべき仕事を片付けるために、毎日深夜近くまで働かざるをえなくなるかもしれない。

 下手をすれば、終わらない仕事のために今と同じように休日労働する人も出てくるだろう。今と仕事量が変わらないのに、後顧の憂いなしに3日の休日を満喫できる会社や社員はどれだけあるだろうか。

 本来の完全週休3日にしようとすれば1日8時間×4日にして、従来と同じ給与を払うべきだろう。つまり、1週間の会社の所定労働時間を32時間にすれば可能だ。これはフランスの週35時間の法定労働時間に近い。

 週8時間も労働時間を減らす経営者は少ないかもしれないが、企業の中には実現可能な企業もある。たとえば日本生命、東京海上日動をはじめとする生・損保会社では1日の所定労働時間が7時間という会社が多い。1週間の所定労働時間は35時間とフランスと同じだ。

 だが、どの会社も週休3日に踏み込むことはできないだろう。社員を1日休ませることによるビジネス上の損失が大きいからだ。また、残業を前提としている職場風土の問題もある。ちなみに電通も1日の所定労働時間は7時間だ。にもかかわらず長時間労働体質が世間から指弾された。

 結局、この国の商習慣・業界慣行や長時間労働体質を変えていかない限り、完全週休3日制は夢のまた夢なのである。

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