ニトリ都市型店舗 「儲からなくてもいい」で始めた新挑戦

ニトリ都市型店舗 「儲からなくてもいい」で始めた新挑戦

ニトリホールディングスの白井俊之社長 撮影/片野明

 破竹の勢いで成長してきたニトリが、百貨店不振を背景に都心に進出した。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、白井俊之社長のもとを訪ねた。

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 絶好調。快進撃。大健闘。グローバル化やIT化で経営環境がめまぐるしく変化し苦慮する企業が多い中で、しかしこの企業の決算はメディアも諸手を挙げて賞賛した。ニトリホールディングスの2017年2月期決算は売上高5129億円、前年比12.0%増。儲けを示す営業利益は857億円とこちらも17.4%増。数字を見ればまさしく絶好調。しかし何よりも目を見張るのは「30期連続して増収増益が続いている」点だ。さらに5年後は売上高1兆円、15年後は3兆円と大胆な成長目標を堂々と掲げている。

 ニトリはたしかに今最も勢いのある企業の一つだ。しかし私自身は買物をしたことが一度も無かった。車を持たない都会暮らしにとって、郊外の大型店中心に展開してきたニトリは、縁遠かった。「安かろう悪かろう」というイメージすら抱いてきた。

 だが、この凄まじい成長ぶりは、単なる「低価格」だけで達成できるはずがない。その秘密とは何なのか。最近特に力を入れているのが都心部で展開している新店舗だと聞き、私は銀座へ向かった。2015年に初めてニトリが百貨店に出店したという、その店へ。

  一歩中へ入ると、茶色やベージュを基調とした落ち着いた雰囲気に驚かされた。ゆったりした見通しの良い陳列。間接照明。私の思い込みを見事に裏切って、そこはシャレた空間だった。

 「『儲からなくてもいいからとにかくやってみよう』と似鳥昭雄会長が百貨店への出店を決めました。私たちにとって新たな挑戦でした」と白井俊之社長(61)は振り返る。ニトリにとって“空白地帯”だった都心部へ進出する最初の足がかりは銀座。当時は「まさかニトリが銀座に?」と懐疑的な声も少なくなかったという。かつての「プランタン銀座」、現「マロニエゲート2」の5~6階に構える店は週末ともなると家族連れやカップルで大賑わい。レジには行列ができている。

「都心部なので面積には限界がありますし、百貨店内ですから特別な店舗デザインが必要でした。プロジェクトチームを作って取り組みました」

  商品のラインナップを大きく変えることはできない。だとすれば、いかに都会人にアピールする店にするか。

「天井の蛍光灯を吊り下げ型や間接照明に変え、陰影を出すことで商品を立体的に見えるようにしました。また、棚を低く視界を良くして圧迫感を減らす、といった取り組みなど、商品の並べ方から色調まで細かな工夫を重ねていきました」

  オープンすると想定を超えて20代から中高年男性まで幅広い客が押しかけた。銀座店の商品構成は「中価格帯の商品」が中心だが、ニトリの基本は「お、ねだん以上」だけにお買い得感は大きい。 

 銀座での成功体験がお手本となって上野、新宿、池袋、目黒と一年ほどの間に加速度的に都心部での出店が続いた。そしていよいよ6月30日、山手線内で最大級の渋谷公園通り店がオープンしたばかりだ。

 渋谷という個性的な街でニトリは何を狙うのでしょう?

「まだ来店されたことのない方々にまずはニトリを知っていただくことが目標です」と、白井社長からは拍子抜けするほど地味な直球の返事が。

 確かに都心の生活者にとってニトリはまだ馴染みの薄い、未知の商品を扱う店だ。では、一度来た客をリピートさせる戦略とは?

「とにかく品質が良くてかつ手頃な価格の商品を揃えることですね。使ってみたら本当に良かった、それならまた行こうと、最終的には商品が語ってくれるはずですから」

【PROFILE】やました・ゆみ 五感、身体と社会の関わりをテーマに取材、執筆。日経新聞で海外ドラマ評、ネットでメディア批評コラムも執筆中。7月に『なぜ「近大発のナマズ」はウナギより美味いのか』(光文社)を刊行。他に『広島大学は世界トップ100に入れるのか』(PHP新書)等著書多数。江戸川区景観審議会委員。

※SAPIO2017年9月号

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