ダイナブック普及の立役者 起業し「東芝勝ちパターン」再現

ダイナブック普及の立役者 起業し「東芝勝ちパターン」再現

「デジタルアテンダント」を設立した金子和夫氏(61)

 圧倒的な技術力を背景にテレビ、冷蔵庫などのシェアを拡大し、日本の高度経済成長を支えた「総合電機メーカー」東芝が、東証2部に降格する。先の展望も見出せない中、上場廃止どころか、廃業の危機を迎えている。

 かつて“大東芝”と呼ばれた組織は縮小し、東芝は早期退職者を募るなど人員対策を実施。2014年までは20万人を超えていた従業員数(連結ベース)は、今年3月期には15万人まで減少した。

 そうして会社を去った社員の中に、東芝で得た経験を「外」で活かそうと考え、ベンチャー起業に乗り出した人物がいる。この4月に東芝の顧問を退き、「デジタルアテンダント」を設立したのは金子和夫氏(61)だ。

 金子氏は、東芝が世界初の日本語ワープロを製品化した2年後の1980年に入社。IT部門のセールスマーケティングやシステム化の推進を担当してきた。ノートパソコンの代名詞ともなった「ダイナブック」普及の立役者の一人だ。

 海外経験も豊富で、オーストラリア駐在や韓国現地法人の社長も務め、中国では、半導体から原発まで幅広い事業をカバーするコーポレート部門の営業統轄部中国室長としても活躍。子会社の東芝エージェンシーの社長、顧問を経て東芝一筋の会社員生活を卒業した。第2の人生を考えるきっかけをこう話す。

「サラリーマン生活の終わりが見えてきた時、リタイアして隠居するにはまだ早いと感じ、やり残したことがないか考えるようになりました。

 その時に感じたのは、コンピュータは普及したが、使いこなせる人は限られているということでした。東芝時代は誰もが使いやすいITを提供したいと工夫をしてきたが、それでも何分の1は置いてきぼりになってしまった。そこをすくい上げるビジネスをしようと考えました」

 金子氏は、学習型AIを用い、音声認識でコンピュータを使えるアプリを企画・開発し、販売まで手がける。音声認識はスマホなどで使われ始めているが、目指すのは、より人の役に立つコンピュータだという。

「ハードウェアの調達については東芝のパソコン部隊の大半が所属する東芝クライアントソリューションに相談しています。安さを追求すれば別の選択肢もありますが、やはりハード機器は実績と信頼がある東芝に頼みたい。完成した商品は、当社が顧客に販売します」

 価格競争力に優れた下請けに製造を発注するつもりはないと言う。そして、秀でた能力を持つ研究者、技術者の手を借りる。このスタイルは「東芝の“勝ちパターン”を再現している」という。

「東芝のパソコン事業では、営業と技術者が頻繁に会議を行なってきた。私たち営業がユーザーの要望やニーズを技術者に伝え、技術者はそれに対してどういう技術が使えるかを説明してくれる。それによって私のような文系の人間もパソコン技術を学び、その知識を基に、改めてマーケットが必要とするものを技術者にフィードバックする。

 対等に議論を繰り返すことで、『ダイナブック』をナンバー1パソコンにしていった。当初、デスクトップが当たり前だった中で、ノートパソコンの有効性を市場に訴え、主流に押し上げていったことは、こうした“東芝流”があったからだと思います」

 その流儀を踏襲して開発した音声認識システムは、フランスから日本進出した花屋で導入が決まるなど、すでに結果が出始めているという。

「東芝が今の経営状態に陥ったのは不適切経理の問題などによるもので、技術力の問題ではありません。この“勝ちパターン”には普遍性があるので、東芝もその強みを思い出せれば、再生できると信じています」

※週刊ポスト2017年7月21・28日号

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