乗換検索アプリが進化 終電後ルート検索や混雑予報、通販も

乗換検索アプリが進化 終電後ルート検索や混雑予報、通販も

「Yahoo!乗換案内」の異常混雑予報

 自動車のカーナビで道路の渋滞情報を参照できるのは、一般財団法人道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)が収集して編集した情報提供によって可能になっている。鉄道については、事故が起きたときこそ各鉄道会社が情報提供をしているが、混雑情報を一元化するシステムはない。ところが、乗り換え案内アプリで混雑情報とその予測を知らせる機能が実装された。ライターの小川裕夫氏が、機能を増やす乗換検索についてレポートする。

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 鉄道マニアにとって、『時刻表』はバイブルともいえる存在だ。しかし、出張の多いビジネスマンでさえ、時刻表を買わなくなっている。鉄道を単なる移動手段としか見ていない人たちは、毎月欠かさず時刻表を購入することはないだろう。

 ITの進化によって、新幹線をはじめ日本全国の列車の時刻が当たり前のように調べられるようになった。ネットによる時刻表検索や乗換案内は、年を追うごとに使い勝手が向上。いまや、どこに電車が走っているのか?までリアルタイムで把握できるようになった。

 スマホの爆発的な普及により、現在の時刻表検索や乗換案内の主戦場はパソコンからスマートフォンに移った。

 そして、時刻表検索・乗換案内系のアプリをリリースする各社は、新たに独自のサービスを盛り込むようになった。そこには、他社との差別化を図ることでユーザーを囲い込むことや新たなユーザーを獲得しようという狙いがある。

 経路探索エンジンの「NAVITIME」は、自動車の経路検索から進化を遂げたこともあり、道路交通情報システムを利用した渋滞情報マップを提供。最近では、単に経路探索のみならず放置車両重点取締区域情報を表示する放置車両重点取締区域やマイカーの燃費計算といった機能を追加している。

「NAVITIME」は自動車向けだけでなく鉄道関連のサービスにも参入し、2017年に「終電後に帰れるルート」の提供を開始。「終電後に帰れるルート」は、できるだけ公共交通機関を使い、タクシー利用は最小限にとどめるといったサービス。残業や飲み会などで帰宅が遅くなったときの利用が想定されている。

 サービスの内容や種類では群雄割拠の様相を呈している時刻表検索・乗換案内アプリだが、シェアの面から見るとヤフーの独走状態だ。

 ヤフーが提供する「Yahoo!乗換案内」は、時刻表検索・乗換案内サービスの絶対的王者として君臨している。月間の利用者数は、ほかのサービスとは比べ物にならない約4000万人を誇る。

「Yahoo!乗換案内」が、リリースされたのは1998年。今年、20周年を迎える。時刻表検索・乗換案内サービスにおいても老舗に分類される「Yahoo!乗換案内」をパソコン主流の頃から使い続けているユーザーは多い。

 主戦場がスマホに移行するのに伴い、これまでのユーザーをどうやってつなぎとめるのか? IT業界、特にスマホアプリの開発は激化しており、油断していればすぐに政権交代を迫られる。王者・ヤフーといえども、安穏とはしていられない。

「『Yahoo!乗換案内』が、パソコンからスマホアプリにシフトしたターニングポイントは2008年です。この年、iPhone3Gがリリースされて、世間にもスマホが爆発的に普及しました。そうした事情から、スマホで利用するユーザーが急増するとの予測が強くありました。スマホでの『Yahoo!乗換案内』は、長らくiOS版のみの提供でした。2012年に、ようやくAndroid版をリリースすることに漕ぎつけました。iOSよりAndroidが4年も遅れた理由は、特にこれと言ってないんですが、あえて言うならニーズがなかったからということになるでしょうか」と話すのは、ヤフーで路線サービスの開発を担当しているサービスマネージャーの高橋壮一さんだ。

 高橋さんが言及するように、ヤフーはニーズがあると判断すればサービス向上を厭わない。「Yahoo!乗換案内」では、東海道新幹線がN700系なのか700系なのかを判別できるようにも改良した。

 これは、開発スタッフに鉄道マニアがいたからではない。N700系はパソコンや携帯電話を充電するためのコンセントが普通車でも座席の各列に完備されているからだ。

 一方、700系にはコンセントのない席もある。ビジネス利用の多い東海道本線では、移動中にパソコン作業に没頭したいというリクエストが多い。そうしたリクエストを受けて、N700と700系が判別できる表示を導入した。

「『Yahoo!乗換案内』だけでも、一日100件前後のVOC(Voice Of Customer=お客様からの声)が寄せられます。VOCを参考に、開発スタッフはさまざまな改良を試みています。東海道新幹線の例のほかには、『次に来る電車が15両編成なのか10両編成なのかがわかるようにしてほしい』といったリクエストもありました。車両数によって乗車位置が変わるので、事前にそれがわかれば利用者の利便性は向上します。そうした細かな声をすくい上げて、『Yahoo!乗換案内』を使いやすくしています」(高橋さん)

 しかし、スマホの画面は小さい。そのため、表示できる情報には限界がある。また、情報を詰め込みすぎて見づらくなって利用者に情報が届かなくなったら本末転倒だ。

 どのように情報を反映させるのか? その情報を盛り込むことで、利用者は便利になるのか? といったことを検討し、開発スタッフの試行錯誤は続く。

 そして、このほど「Yahoo!乗換案内」では他社にはない独自のサービスを新しく導入した。それが、異常混雑予報だ。異常混雑予報は、電車内や駅の混雑度を10分単位で予測するというもの。

「異常混雑予報では、当日から5日後までの未来を予測できますが、これはSNSなど約4000万人分のデータを収集し、それを基にして混雑度を解析しています。5日前から混雑する路線や駅を察知できれば、『週末は○○駅が混雑するみたいだから、別のルートで行こう』とか『明日は、イベントの影響で××線が混雑するみたいだから、座って帰りたいし、早めに仕事を切り上げて退社しよう』といったように、自分の行動計画を組み替えることができます。異常混雑予報によって、電車移動の際のイライラを解消し、快適でスムーズな移動ができるようになると考えています」(高橋さん)

 電車の遅延情報などは、各鉄道会社が公式ツイッターアカウントで迅速に対応するようにもなっている。これら、公式アカウントによる事故情報・遅延情報などは、最近では事故発生から1~2分後には情報がツイートされる。そのため、ツイッター検索で情報を得ている利用者は少なくない。

 しかし、公式アカウントからは未来の情報までは得られない。あくまで”過去”に起こった事故や遅延、”現在”の運行情報のみが発信されているに過ぎない。

「Yahoo!乗換案内」では、4000万人にもおよぶ膨大なビッグデータを解析。そこから未来の情報を弾き出すことは、これまで時刻表検索や乗換案内にはなかった新しい機能だ。異常混雑予報はビッグデータをAIに学習させることで、今後はさらに情報精度を高めることを目指している。

「Yahoo!乗換案内」が異常混雑予報を実装して機能強化を図った一方、「駅すぱあと」は、違った方向に力をシフトさせている。ヴァル研究所は開発を手掛ける「駅すぱあと」は、日本初経路検索ソフト。「Yahoo!乗換案内」よりも老舗で、今年はサービス開始から30周年を迎える。

 インターネット黎明期より、「駅すぱあと」は鉄道会社と密接な関係を築いてきた。当時は、鉄道会社に訪問して話を聞き取り、それを反映させていたこともあるようだ。そうした現場訪問を通じて培った鉄道会社との信頼関係を活かし、「駅すぱあと」は2016年に「駅すぱモール」というECサイトを開設。

 同サイトでは、鉄道会社が販売しているオリジナルグッズや沿線の特産品などを販売しているほか、オリジナルヘッドマークをつけた列車の運行、一日駅長体験といった”コト”の販売まで力を入れている。

 時刻表検索・乗換案内は、単なる交通機関の情報を提供するツールではなくなった。すでに、私たちのライフスタイルをも左右する力を持ち始めている。

 時刻表検索・乗換案内アプリは、IT技術やデバイスの進化のみならず通勤スタイルの変化といった外的要因などによって、今後も新しい機能を追加していくだろう。これからも熾烈な開発競争は終わらない。

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