「新幹線の骨」も 見納め「空を飛ぶ新幹線」徹底リポート

「新幹線の骨」も 見納め「空を飛ぶ新幹線」徹底リポート

「さよなら 車体上げ・載せ実演」で宙に浮くN700A。検査で“新幹線が空を飛ぶ”のは、JR東海の浜松工場のみ(2016年9月、恵 知仁撮影)。

国内で唯一、JR東海の浜松工場でしか見られなかった、検査で「空を飛ぶ新幹線」。それが見納めになることから、「さよなら 車体上げ・載せ実演」イベントが行われました。普段とは違う新幹線の姿、そしてトリビアが多数披露されたその内容をリポートします。

浜松名物だった「空を飛ぶ新幹線」

 2016年9月18日(日)と19日(月・祝)、JR東海は浜松工場(静岡県浜松市)でイベント「さよなら 車体上げ・載せ実演」を実施。これにともない、「空を飛ぶ新幹線」の一般公開が終了しました。

 浜松工場では、JR東海に所属する新幹線車両を徹底的に検査、整備する「全般検査」を行っており、その際、車体をクレーンでつり上げて、まるで空を飛ばすように移動させています。新幹線車両の全般検査を行う施設は複数ありますが、このようにクレーンで“空を飛ぶ”のはここだけ。「空を飛ぶ新幹線」は浜松工場の“名物”になっており、例年夏に行われる同工場の一般公開「新幹線なるほど発見デー」でも、その実演が高い注目を集めています。

 しかし検査方法の変更にともない今後、見られなくなることから、「最後のお披露目」が今回の2日間、特別に行われました。この、関係者以外はもう見られなくなってしまった「空を飛ぶ新幹線」。9月18日(日)に実施された「さよなら実演」の様子をレポートします。

 また、かんたんにいうと、「車体上げ」とは車体(客室のある部分)を持ち上げて台車(車輪のある部分)と切り離す作業、「車体載せ」とは車体を台車の上に載せて接続する作業のことです。

「少なくとも3年に一度、空を飛ぶ」新幹線

「ただいまより『車体上げ・載せ作業』の実演を行います。みなさん、右のほうをご覧ください。クレーンを操作してくれるのは、浜松工場のオオイシさんとキタジマさんです。拍手をお願いします!」

 JR東海の女性社員による司会で、「さよなら実演」は始まりました。この時点で、N700A新幹線先頭車の車体は地上にあります。

「車体をふたつのクレーンでつり上げています。ふたりがそれぞれのクレーンを操作していますので、息を合わせて、少しずつ調整しながら上にあげています」

 まず、車体が垂直に持ち上がりました。そして少し横(南側。写真では向かって右側)に移動したのち、前方に用意されている台車の上に載るべく、空中を前に飛び始めます。

「それでは、車体を移動します。みさなんのほうにゆっくりと動いていきます。先ほどのつり上げ作業はふたりでクレーンを操作していましたが、前後左右の動きはスイッチを切り替えて、ひとりで行っています」

「さて、いったん車両が停止いたしました。写真を撮りながらでけっこうですので、私の話もすこしだけ聞いて下さい」

 そうしたアナウンスのあと、「少なくとも3年に一度、空を飛ぶ」ことの説明が始まりました。

特別な形で行われた「さよなら実演」 普段は見られない新幹線の姿

「この『上げ・載せ作業』とは浜松工場で行う『全般検査』とよばれる、車両を解体して隅々まで検査や修繕を行い、最後に組み立てる検査の一部で、新幹線の台車と車体を切り離す作業です。ちなみにこの全般検査は、車両の走行距離が120万qに達する前、もしくは36か月以内に1度の頻度で行います。つまり(JR東海の)どの新幹線も、少なくとも3年に一度はこの『車体上げ・載せ作業』でつり上げられてきたってことになります」

 そしてつり上げられた車体は、再び空中を移動し始めます。

「とても迫力がありますね! まさに『空を飛ぶ新幹線』です! カメラやビデオをお持ちのお客さま、このチャンスを逃さずに撮影して下さい!」

 ここで合わせて、今回の「さよなら」イベントだけの特別な見どころが紹介されました。

「車両が近くに来た際には、ぜひ車両の下側、おなかの部分にもご注目下さい。私たち社員でも、普段は車両の下を見ることはできませんし、それだけでも珍しい光景なのですが、今日は普段、お客さまがご覧になっている新幹線と違い、床下機器が取り外されています。よくご覧いただきますと新幹線の車体部分に、私たちの体でいえば骨にあたる部分が見えると思います。本当に貴重な機会です」

 駅などで見る東海道新幹線の車体は、その床下に走行に必要なものなど、さまざまな機器が取り付けられています。今回の実演ではそれらが取り外され、“車体の骨格”的な部分が見えていたのです。

 例年夏に行われる浜松工場の一般公開イベント「新幹線なるほど発見デー」では、床下機器を取り付けたまま、いわば普段の新幹線に近い状態でこの実演が行われます。しかし今回の「さよなら実演」では特別に、床下機器がない状態で実施。珍しい光景を見ることができました。

新幹線の飛行高度は?

「さて改めて、クレーンを操作しているふたりにもご注目下さい。車体をつり上げる作業は、ふたりがそれぞれのクレーンを操作していますが、車体載せ場所まで進むときには、車体の前側にいるほうが安全を確認し、後ろ側にいるほうがクレーンを操作しています。安全確認は、前方に障害物がないか確認したり、ほかの作業員が進路に入ってこようとする場合は待ってもらったりと、常に気を配っています。後ろ側のほうはクレーンを安全に動かすため操作に集中しています」

 そして、車体が用意されている台車の近くに到着。横(北側)に少しずらして、台車の上に車体を載せる作業へ入ります。

「これから車体を北側へ移動させますが、下に置いてある台車に車体がきちんと載るように戻していきます。ここで位置がずれてしまうと、車体を下げたときにうまく台車に載りません。技術と経験が必要な、とても難しい作業なのです」

 台車の上に車体がピッタリ来たところで、今度は下げる作業です。

「車体を下げる作業は、ふたつのクレーンをふたりの作業員がそれぞれ操作して行います。通常の検査ではこのあと、車体と台車との結合作業を行うため、細かい位置あわせが必要です」

 車体載せの際は細かい位置あわせのため複数名が台車周辺にスタンバイし、位置をクレーンを操作する人に伝えながら、作業を行っているといいます。

 見事、台車の上に車体が載り、「車体載せ」が終了しました。つづいて再び車体を上げ、空中をバックさせて最初の位置まで戻す実演が行われます。

「作業に使用しているクレーンについて、かんたんにご紹介します。このクレーンは1台で30tまでつり上げることができ、ご覧の通りそのクレーンを2台使って、新幹線を1両ずつつり上げています。なお、つり上げる高さは2.3mほど。つり上げられている先頭車両の長さは約27mです」

 ちなみにN700Aの重量は、車両によっても異なりますが、台車込みで1両おおよそ40t程度です。

「絶対にはがれない」と言っていいレベル

 車体が元の位置へ、再び“空を飛んで”戻っていくなか、次のような説明も行われています。

「改めて新幹線の顔をご覧ください。お気づきの方も多数おられると思いますが、今日の新幹線の先頭部分にはカバーが付いていません。この先頭部の中に目を向けていただきますと、新幹線と新幹線をつなぐための連結器を見ることができます。通常、東海道・山陽新幹線では先頭車両同士をつなぎ合わせることはありませんので、この先頭車両の連結器をご覧いただけるのも、非常に珍しいことです」

 例年の一般公開イベントにおける実演はカバー付きですが、今回の「さよなら実演」は特別にそれがない状態で実施され、この点でも貴重な姿を見ることができました。

 ちなみにもうひとつ、例年の一般公開イベントとは異なる点がありました。

「いつもは側面に『N700A』というシールが貼ってあるのですが、今日の車体には貼ってありません。いまご覧いただいている車体は工場できれいに洗われて、磨かれたあとに塗装を終えたばかりなんです。本来は、シールを貼ってから『上げ載せ作業』を行うのですが、今日は特別にシールがない状態でつり上げられています。ちなみに、シールといっても普通のシールではなく、絶対にはがれないといってもいいぐらいの特殊なシールだそうです」

 ちなみに車両の塗装は、青色から先に行うそうです。「美術の授業では薄い色から塗ると習った記憶がありますが、新幹線の塗装は逆なんですね」というコメントとともに、会場で紹介されました。

日本国内で最後のイベント

 空を飛んでいた車体が最初の位置に近づき、「車体上げ・載せ作業」の実演も終了に近づいてきました。

「来年1月以降は、本日ご覧いただいた車体と台車を切り離す作業が、天井クレーンによるつり上げ方式から、リフティングジャッキを使用した車体昇降方式に変更となります。なお当社以外の新幹線は、すでにリフティングジャッキを使用した方式になっていますので、ご来場の皆さまは、JR東海だけでなく、日本国内で空を飛ぶような新幹線の姿をご覧いただける最後のイベントにお越しいただいたことになります」

 2016年9月18日(日)と19日(月・祝)に行われた、この「さよなら 車体上げ・載せ実演」。雨模様でもありましたが、JR東海によると2日間で1万7253人が来場。最後の「空を飛ぶ新幹線」を楽しんだそうです。

【写真】空を飛ぶドクターイエロー

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