フリーゲージトレイン導入見送り、どうなる長崎新幹線 鍵は佐賀県?

フリーゲージトレイン導入見送り、どうなる長崎新幹線 鍵は佐賀県?

九州で走行試験を行っていたフリーゲージトレインの三次試験車両(2014年11月、恵 知仁撮影)。

JR九州が長崎新幹線へのフリーゲージトレイン導入を見送る方針であると報道されました。長崎新幹線は今後、どうなるのでしょうか。そもそもフリーゲージトレインは、なぜ必要だったのでしょうか。

新幹線と在来線を直通する画期的システム…だった

 長崎新幹線(九州新幹線西九州ルート)へのフリーゲージトレイン導入をJR九州が見送る方針であると、2017年6月、新聞など複数のメディアが報じました。割高と予想される運行コストなどが理由で、7月にも正式発表されるといいます。もし実際に見送られた場合、長崎新幹線は、そしてフリーゲージトレインは今後、どうなるのでしょうか。

「フリーゲージトレイン」は和製英語です。日本語で表すと「軌間可変電車」。「軌間」は2本のレールの間隔を意味します。

 新幹線の軌間は1435mm(4フィート8.5インチ)、在来線の軌間は1067mm(3フィート6インチ)です。それぞれで軌間に合った車両が使われているため、そのままでは直通できません。現在もほとんどの新幹線と在来線は乗り換えが必要です。そこで「車両側の車輪の取り付け幅を変化させ、新幹線と在来線を直通運転しよう」という方法が検討されてきました。これがフリーゲージトレインで、実現すれば、乗り換えなしで目的地まで到達できます。

 新幹線と在来線を直通する方法としては、山形新幹線「つばさ」や秋田新幹線「こまち」のような「ミニ新幹線」方式もあります。これは在来線区間の線路を新幹線と同じ軌間に改造して、新幹線車両を直通させる方式です。軌間は新幹線の、車両サイズはひとまわり小さい在来線の規格で整備します。ミニ新幹線方式は基本的に、従来からある在来線のトンネルや鉄橋をそのまま使えるため、新幹線(フル規格新幹線)の新路線を造るほどの高額なコストはかかりません。

 しかし、ミニ新幹線方式は、在来線の線路改造費が発生するうえに、工事中は列車を運休する必要があります。また、普通列車に使う車両も、改造後の線路に対応させねばなりません。ですがフリーゲージトレインを使えば、軌間の変更を車両側で対応できるため、在来線の軌間改造は不要となり、もっと低コストで新幹線との直通運転ができます。普通列車も既存車両を使えます。

 どちらの方式も、在来線区間の速度は従来と同じか、少し上がる程度です。スピードよりも直通の利点を重視した方法といえるでしょう。

 新幹線と在来線の直通運転を実現するにあたり、線路と在来線車両にお金がかかるミニ新幹線方式より、車両だけ高額なフリーゲージトレインの利点が大きいと考えられてきました。車両が準備できれば、直通運転におけるハードルが大幅に下がります。

「スーパー特急方式」も考えられていた長崎新幹線

 1994(平成6)年から、日本では軌間可変台車(台車:車輪などがある部分)の開発が始まりました。しかし、23年経った現在も、フリーゲージトレインは実用化できていません。

 日本のフリーゲージトレインは段階的に開発が進み、現在の試験車両は客室に座席も用意され、もう少しで実用化できそうに見えます。しかし、最終段階の耐久試験で問題が生じました。台車の車軸を保持する軸受けの潤滑油止めが欠損し、摩耗が見つかったのです。重量増が原因のひとつとみられており、現在は対策部品の開発と試験が行われています。

 こうした開発の遅れから、フリーゲージトレインの導入を検討していた長崎新幹線は、在来線特急と新幹線を途中で乗り継ぐリレー方式に変更して、2022年の暫定開業を目指しています。

 長崎新幹線は、国鉄時代に、山陽新幹線などと同じフル規格の新幹線として検討されました。しかし1987(昭和62)年のJR九州発足後、「スーパー特急方式」が提案されます。この方式は、新規建設区間の線路は新幹線相当の規格にしつつ、軌間は在来線のものとする方法です。新規区間は新幹線に準じた速度で走り、在来線区間に直通します。起点は九州新幹線鹿児島ルートの新鳥栖駅(佐賀県鳥栖市)とし、直通する場合はフリーゲージトレインを検討するという構想でした。

長崎新幹線がフリーゲージトレインを選択した理由

 その基本計画は2012(平成24)年6月に、北陸新幹線の金沢〜敦賀間、北海道新幹線の新函館北斗〜札幌間とあわせて、フル規格新幹線に格上げされます。しかし、長崎新幹線のうち、新鳥栖〜武雄温泉間はフル規格新幹線の工事実施計画が申請されず、武雄温泉〜長崎間のみフル規格新幹線で申請、着工されました。この背景として、佐賀県の“フル規格新幹線建設のための地元負担をしない方針”があります。

 佐賀県は福岡県と長崎県のあいだに位置しており、在来線特急からフル規格新幹線になった場合、どちらに行くとしても時間短縮効果がほとんどありません。しかし、現在の新幹線建設の枠組みでは、地元自治体が並行在来線のJRからの切り離しに同意し、距離に応じて建設費の一部を負担する必要があります。自治体の負担は、総額からJRの負担分を差し引いたうちの3分の1。佐賀県の場合は約800億円になる見込みです。この負担に対して、佐賀県は新幹線で得られる利点と釣り合わないと考えています。

 佐賀県はフル規格新幹線に同意しない、しかし、もともとスーパー特急方式で九州新幹線鹿児島ルートに乗り入れる場合はフリーゲージトレインも視野に入れていた――このような事情から、長崎新幹線ではフリーゲージトレイン方式を採用し、博多〜長崎間を直通運転しよう、となったわけです。そして長崎新幹線は2022年にリレー方式で暫定開業、2025年にフリーゲージトレインで全線開業する計画でした。

JR西日本に続き、JR九州もNO!

 冒頭で記したとおり、2017年6月、JR九州がフリーゲージトレイン導入の見送りを検討し、7月にも正式発表すると報じられました。また政府・与党も、この報道と2016年12月から現在までの試験結果を踏まえて、こちらも2017年7月にもフリーゲージトレイン導入の是非を判断するとも報じられました。長崎新幹線の、フリーゲージトレインによる2025年全線開業は見直しとなりそうです。

 フリーゲージトレイン導入に際しJR九州が消極的になる理由は、運行費用の問題です。フリーゲージトレインは台車の構造が複雑で、現在の新幹線車両より点検作業が増えます。また、車軸の耐久性の低さも露呈して、部品の交換頻度も高くなります。そのため、維持コストが通常の新幹線車両と比べ2.5倍から3倍になるおそれが出てきました。もちろん開発の遅れも問題です。リレー方式をいつまで続けるか見通しが立たず、運行に関して長期的な計画を立てられないからです。

 JR九州が2016年10月に株式を上場し、完全民営化したこともこの判断に結びついているといえるでしょう。国が主要株主であれば、国が開発するフリーゲージトレインを引き受ける義理もありました。しかし、民間の投資家が株主になったいま、経営状態は一層厳しくチェックされます。民間会社としては、従来の新幹線より製造費用も保守費用も高いうえに、実現性が不透明なものを導入するという経営判断はできません。

 JR九州は昨年12月ごろにも、フリーゲージトレインの保守費用について懸念を示していました。また、それより以前に、JR西日本もフリーゲージトレインに否定的でした。フリーゲージトレインは重量が大きく、営業最高速度の目標も250km/hです。JR西日本が運行する山陽新幹線は300km/hの列車が多いため、スピードが遅く、重量で線路に負担をかけるフリーゲージトレインについては乗り入れを認めないと表明していました。

 速度はともかく、重量についてはJR九州も同じ見解です。九州新幹線鹿児島ルートの直通には否定的。そこで、フリーゲージトレインを使った長崎新幹線は、博多〜新鳥栖間についても在来線の鹿児島本線を走らせる計画になっています。この状態では、博多〜長崎間で、現在の在来線特急と比較して約30分しか短縮できません。これでは長崎新幹線を造る意味があるか、という根本的な問題にもなってしまいます。博多駅から山陽新幹線に直通できれば、新大阪〜鹿児島中央間の「みずほ」「さくら」のように、新大阪〜長崎間の直通列車を設定できます。しかしフリーゲージトレインではそれもできません。

長崎新幹線以外にも波紋? フリーゲージトレイン

 フリーゲージトレインについては、長崎新幹線だけではなく北陸新幹線、四国新幹線でも検討されていました。しかし、現在はどちらも導入に否定的です。

 北陸新幹線では、敦賀〜新大阪間の開通のめどが立たなかった2012年に、国土交通省からフリーゲージトレインを提案されました。2014年に敦賀駅(福井県敦賀市)で台車のみの試験も行われました。しかし、北陸新幹線(金沢〜敦賀間)の開業時期が2025年から2022年に繰り上げられたため、開発が遅れたフリーゲージトレインでは間に合いません。車両の製造費用も高額なため、JR西日本は導入を決めていません。敦賀〜新大阪間のルートも決定したいま、敦賀駅は新幹線ホーム直下に在来線特急ホームを作るよう設計が変更され、同駅で乗り換える暫定的なリレー方式になりました。

 JR四国もフリーゲージトレインの導入構想がありました。四国各線の特急をフリーゲージ車両とし、現在は岡山駅で山陽新幹線と乗り換えるところ、新大阪駅まで直通しようという案でした。実際にフリーゲージトレインの走行試験も実施しています。しかし現在、四国の経済界を中心に、フル規格の四国新幹線を建設する気運が盛り上がっています。

 長崎新幹線は、フリーゲージトレインの実現にもっとも近い路線でした。しかし、JR九州の否定的な方針が明らかになりました。長崎県側は当初からフル規格新幹線で全線開業を目指しており、この報道をきっかけにフル規格新幹線の実現を働きかけていきたいようです。しかし、佐賀県は頑なに費用負担を拒む姿勢を崩していません。このままでは、長崎新幹線は恒久的にリレー方式となりそうです。

長崎新幹線、ミニ新幹線方式もありか? 鍵は佐賀県に

 リレー方式は、九州新幹線鹿児島ルートが2004(平成16)年に新八代〜鹿児島中央間で先行開業したとき、新八代駅(熊本県八代市)で在来線列車との対面乗り換えの形で実施されました。この乗り換えは、暫定開業だからこそ我慢できたといえるでしょう。

 長崎新幹線の場合、リレー方式にすると、博多〜長崎間は在来線特急「かもめ」に比べて13分しか短縮できません。しかも、新幹線になりますから、料金は高くなりそうです。これは利用者にとって受け入れられる施策かどうか、筆者(杉山淳一:鉄道ライター)には疑問です。

 佐賀県が、博多、長崎に対する時短効果を疑問に感じていることは理解できます。しかし、フル規格新幹線にすれば、大阪をはじめとした山陽新幹線沿線の各都市と直通できます。このメリットを評価してフル規格に同意してもらえないか、という声もあるようです。佐賀県の負担は約800億円ですが、実際にはこの9割について地方債を発行でき、地方債の償還には国からの地方交付税交付金が充当できます。実質的な負担額はかなり小さくなります。

 フル規格ではなくても、山形新幹線や秋田新幹線のようなミニ新幹線方式は検討に値すると筆者は考えます。フリーゲージトレインでも肥前山口〜武雄温泉間は複線化する計画になっていました。単線から複線にするなら、その増える線路を新幹線の軌間で整備する、これなら、リレー方式は解消でき、九州新幹線鹿児島ルート、山陽新幹線にも直通できます。

 いずれにしても7月以降、JR九州と政府与党の正式発表があれば、新しい動きが出ることでしょう。佐賀県の判断が鍵になりそうです。あるいは、新幹線の建設にあたり、メリットの少ない自治体にも負担を求めるという枠組みを、見直すべきときかもしれません。

【写真】九州新幹線を走るフリーゲージトレイン試験車両

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