上から眺める航空ショー? 危険な山あいをデモ飛行する軍用機、そこまでする理由とは

上から眺める航空ショー? 危険な山あいをデモ飛行する軍用機、そこまでする理由とは

フレアを発射するF/A-18を、山の上から見下ろす(2017年10月、石津祐介撮影)。

世界には、上から見下ろせる航空ショーがあります。山あいを軍用機が飛び、アクロバット飛行までするのですが、なんとも信じがたい光景です。しかしそうした危険を冒すのには、もちろん理由があります。

航空ショー、下から見るか? 上から見るか?

 日本でも大人気の航空祭、航空自衛隊「ブルーインパルス」のアクロバット飛行が見られるとなれば、どこの基地でも非常に多くのファンを集めます。

 こうした「エアショー」は、日頃の訓練や軍事力を内外にPRするという目的もあり、世界各地で様々に行われています。もちろん、たいていの場合は地上から眺めるのが普通ですが、世界にはなんと上から航空機を見下ろすことができるエアショーがあります。

 無論、飛行機などに乗って眺めるというわけではなく、山の上から見下ろすというもので、ビューイングスポットまでは山を登ることになります。その道のりたるや、ふもとの街からおよそ2時間半。もちろん、自分の足で歩かなくてはなりません。

 たどり着いた先は、標高約2200mの山の上、周囲は見渡す限りの山岳地帯です。そしていざプログラムが始まれば、目線より下の谷あいを戦闘機などが飛び交います。少しでも操作を誤れば、山腹に激突することが容易に想像できる光景です。

 これも訓練や技量を示す一環といえばそれまでですが、ここまで危険なことをする理由はなんなのでしょうか。

山あいが日常のフィールドであるワケ

 実はこの、世界でも珍しい光景が眺められる場所はスイスです。同国ベルン州ブリエンツ郊外、アクサルプにある「エーベンフルー演習場」にて行われるスイス空軍の訓練が、毎年10月に一般公開されるのです。

 ご存知のように、スイスはアルプスを擁する山岳国家。もちろん、彼らにとっても山岳地帯での飛行は危険に違いありませんが、一方で彼らにとっては日常のフィールドでもあるのです。

 登山を終えてたどり着いた見学会場は、谷を見下ろすように山頂へと続く尾根筋で、遠くにアルプスの名峰アイガーを望む風光明媚な場所です。デモンストレーションを行う航空機やヘリは麓に位置するマイリンゲン基地から離陸し会場へと侵入します。

 会場では、多民族国家であるスイスらしくドイツ語、フランス語、イタリア語、英語でアナウンスが流れます。F/A-18「ホーネット」やF-5E「タイガー」が谷底から会場方面に高速で侵入し、フレアを射出したり、ターゲットに向かって機関砲を射撃したりします。射撃後は離脱して、一気に谷底へと急降下します。

 山岳地帯を縫うように飛び、山に激突するような勢いで谷に突っ込み、急激にターンする様は実戦さながらの迫力で、スイス空軍の高い技量がうかがえます。

 公開訓練のプログラムには、練習機のデモや軍用ヘリの機動飛行、そして本番さながらの山岳レスキューのデモなどが並び、最後にスイス空軍が世界に誇るアクロバットチーム「パトルイユ・スイス」が美しい山々をバックに曲技飛行を披露します。よくぞこの山岳地帯でアクロバット飛行ができるものだと感心します。

 ショーを見るためにはスイスまで出向く必要があり、また登山も必要となりますが、山の上で見学できる公開訓練は世界広しと言えど、ここアクサルプだけでしょう。

軍事強国であることを宿命づけられた国

 スイス空軍がこれほどの危険を払い、山岳地帯で訓練を行うのには、もちろん理由があります。

 ご存知の通り、スイスは永世中立国家を宣言しています。一方で昔から傭兵の歴史があり、現在でも徴兵制を採用し、予備役も約21万人を確保、有事の際には国民皆兵です。第二次世界大戦の時には軍事的中立の立場から、連合国や枢軸国を問わず領空侵犯を行う航空機を撃墜してきました。中立を維持するための、軍事強国というわけです。

 そのような歴史から、アルプス山脈を擁する山岳国家スイスでは、常に山岳地帯での作戦行動が必須となっています。このような山岳地帯での公開訓練を行うことで、空軍の高い技量を内外にPRし、国防への意識を高めているのではないでしょうか。

 現在、スイス空軍は約2万6000人の人員で、うち専任の軍人は約1600名となっています。スイス空軍ではかつて、老朽化したF-5E「タイガー」の後継機種としてサーブ(スウェーデン)が中心となり開発した「グリペン」の導入を検討、いったんは国民投票で否決されましたが、最近になって購入の再検討が報じられるようになりました。

 F-5Eに変わって「グリペン」を眼下に見下ろすことができるようになるのも、そう遠くないかもしれません。

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