金銀「GT-R」のヒミツ 制作者・井澤孝彦さんに聞くその技術、制作背景、反響

金銀「GT-R」のヒミツ 制作者・井澤孝彦さんに聞くその技術、制作背景、反響

井澤孝彦さんによる金銀の日産「GT-R」(画像:Kuhl Japan)。

カスタムカー界隈では広く知られる、黄金色と白銀色に輝く日産「GT-R」。その制作者である井澤孝彦さんに、制作背景や技術のこと、反響など話を聞きました。実際のところ、どのように制作しているのでしょうか。

世界が驚愕、黄金&白銀の「GT-R」

「東京オートサロン」や「大阪オートメッセ」、そして50年以上の歴史を持つ米国「SEMAショウ」など、世界の名だたるカスタムカーイベントで近年、注目を集めている日本人カスタムペインターが井澤孝彦さんです。

 筆者(加藤久美子:自動車ライター)が井澤さんの作品を初めて知ったのは、2016年11月の「SEMAショウ」でした。閉館時間となり、急ぎ足で巨大な会場を移動していたときのことです。ほかのブースはもう片付けを始めているタイミングでしたが、とあるブースににはまだ多くの来場者がいました。人々が取り囲んでいる先にあったのは金色の日産「GT-R」。自動車業界の末席に30年近く身を置く筆者ですが、それはいままで見たことがない車でした。

 近寄ってみると美しく繊細で立体的な装飾がボディ全体に施されています。「GT-R」はアメリカでも大人気のスポーツカーで、カスタムされた「GT-R」は「SEMAショウ」にも毎年多く出品されていますが、そこに展示されていた「GT-R」は明らかにほかとは別次元。圧倒的な存在感と強烈なインパクトを与えていました。

 黄金に光り輝く「GT-R」を作ったカスタムペインターである、奈良県在住の株式会社ROHAN代表 井澤孝彦さんに、お話を聞く機会を頂きましたのでご紹介します。

ボディ全体を彫り込む「エングレイビング」とは

――黄金の「GT-R」は圧巻ですね。ボディに直接、彫刻をしているのでしょうか?

 はい。「エングレイビング」という手法で、それ自体は昔からアメリカのカスタムカーにはよくありました。ただし、金属製のバンパーなど一部分で、ボディ全体にエングレイビングを行うことは誰もやっていなかったですね。ばく大な手間と時間が掛かりますし、その技術もなかったのだと思います。私が行うボディへのエングレイビングは、まずプライマー(下塗り塗料)を厚塗りしたボディパネルにマスキングを丹念に施して行きます。そしてフリーハンドできっちり左右対称となるよう下絵を描き、電動彫刻刀で掘っていきます。わずかなミスも許されませんね。コンマ1mm以下のミスをしてもすべて最初からやり直します。1台仕上げるのに塗装を含め、最低でも半年は必要です。

――この金色の塗装も素晴らしいですね。

「3Dメタルペイント」と呼ばれる塗料で、原料メーカーと私が10年以上の歳月をかけて開発し、完成させました。顔料をナノ粒子まで砕くことによって透明感や光沢が非常に美しく出ます。また、特殊樹脂を配合することで約3年間の紫外線テストもクリアしています。エングレイビングをさらに立体的に美しく見せる効果があり、金色の他に銀色の塗料もあります。

 従来のクロームシステムやメッキ加工は変色や腐食が起こりやすく、車のボディ全体への施工は困難でしたが、この3Dメタル塗料は通常の自動車用塗料と同様、塗装ブースにてほぼ同じ工程で作業を行うことが可能です。最大の特長は、大変美しい金銀の光沢を発色しながらも、色落ちや色あせが起こらないこと。また、ボディ面はもちろんウレタンやFRP、アルミやステンレスなど自動車のボディに使われるほぼすべての素材に塗装できることも大きな特長です。ちなみに、銀色の「GT-R(KUHLJAPAN PROJECT R35GT-R)」は2015年1月開催の「東京国際カスタムカーコンテスト」で総合1位となるグランプリを頂きました。金色の「GT-R」を作ったのはそのあとですね。

お値段、5900万円!

――金銀の「GT-R」は世界の富豪からも購入希望が殺到しているとうかがいましたが……?

 銀色「GT-R」を「SEMAショウ」に出展したとき(2015年11月)、ニュースか何かで見たのでしょう。マイケル・ジャクソンの息子さんがわざわざ会場まで来て「この『GT-R』が欲しい!」って(笑) 金色「GT-R」の方は中東の大富豪に人気があるようです。私はこれらのクルマを世界へのアピールとして作ったので、販売に関してはもうしばらく様子を見たいと思っています。

 現在、金色「GT-R」はドバイにある日産ディーラーに飾ってあります。当初設定した価格は金色が5900万円、銀色が3900万円です。2000万円の違いは、金色「GT-R」の方が圧倒的に時間も手間も費用もかかるからなんです。エングレイビングの量もまったく違って金色のほうが多いですし、塗装もまず銀色の状態にしてから金色の塗装を施していきます。手間や時間は倍近くかかります。

――今年(2018年)の「東京オートサロン」ではまたまたすごいカスタム「GT-R」が出展されていましたね。展示車両には「これはプリントではなく塗装です」ということも書いてありました。

 そうですね。昨今のカスタムカーにおいては、ボディ装飾ではラッピング(印刷されたシートを車のボディに貼る手軽なボディカスタム)が主流ですから、私が手掛けたクルマに対しても、「これはプリントでしょ?」と何度も聞かれます(苦笑)。青い「GT-R」に入った白いラインも含めすべて塗装です。

 ラインで魅せるカスタムカーの構想はずっとあって、どのようにラインを引いていくかなどは、ずいぶんと時間をかけて考えました。最初に1本、ボディのプレスラインを基準としたラインを決めます。それまではほかのラインをどうするか、次はどこのラインを引くか、などは一切考えません。長さを測ったり下描きしたりすることはなく、最初のラインをベースにほかのラインも決めていきます。最も美しく仕上がるよう時間をかけてデザインを考え、ラインどうしの間隔や長さも感覚で決めていきます。ちなみにこの「GT-R」は2008(平成20)年型「GT-R」がベースでKUHLRACING新作のフルエアロキットを装着し、エンジンは1000馬力超にチューニングされています。外側もすごいですけど、中身もすごいんですよ(笑)。

愛車はバラバラ?

――そもそも、井澤さんがカスタムペインターになろうと思ったきっかけはどんなことだったのでしょうか?

 アメリカのカスタムカーが好きで、高校生の頃から『ローライダーマガジン』などの雑誌をよく見ていました。そこで、カスタムペイントの神と言われる、マリオ・ゴメス氏の作品を見て強い衝撃を受けました。彼のカスタムカーからは、アメリカの歴史や文化がそのまま感じられます。「車のカスタムペイントでこんなことができるんだ!」という驚きですね。そこで自分の将来の仕事も決めました。カスタムペインターになろう。誰もやったことがない凄いカスタムカーを作ろうと。高校3年生の頃から近所にある板金塗装工場に通って作業を見せてもらったり、手伝わせてもらったりもしました。

――最後に、井澤さんの愛車は何ですか。

 1958(昭和33)年型のシボレー「インパラ」ですね。カスタムペイントの途中で、工場でバラバラになってますが(笑)

※ ※ ※

 世界の富豪から注文が殺到しているためか、愛車のカスタムペイントまで手が回っていないようですね。井澤さんが手掛けた数々の作品は、カスタムカーの域を超えて芸術の域に達する至高のオーラを放っています。デザイン、手法、素材など誰もやらない新しいカスタムペイントでこれからも世界中の車好きを驚かせ、魅了していくのでしょう。

【写真】白銀のスバル「WRX」

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