3度渡海の旧軍「九五式軽戦車」、2度目の里帰りなるか 戦車愛がつなぐ縁で実現間近に

3度渡海の旧軍「九五式軽戦車」、2度目の里帰りなるか 戦車愛がつなぐ縁で実現間近に

エンジンの搭載を待つオーバーホールされた九五式軽戦車(画像:NPO法人防衛技術博物館を創る会)。

現在日本国内に1両も残っていない旧日本軍の九五式軽戦車を、里帰りさせようという動きがあります。しかも交渉はまとまりつつあり、あとは資金の問題というところまでこぎつけました。生産されてからここに至るまでの、数奇な経緯を振り返ります。

戦わずして終戦迎えた九五式軽戦車の、その後

 旧日本軍が戦前一番多く使っていた戦車が「九五式軽戦車」(以下「九五式」)です。多いとは言っても生産台数は2378両で、アメリカやドイツと比べたらひと桁少ないのですが、ともあれ2000両以上も作られたにも関らず、現在日本には1両も残っていません。

 しかし、アメリカ、イギリス、ロシア、タイの博物館には保存、展示されており、アメリカのオレゴン・ミリタリー・ミュージアムには唯一オリジナルエンジンで稼働する九五式があり、タイの博物館にはトラックのエンジンで代用しながら実動する車両もあります。21世紀に入ってアメリカ、オーストラリア、ロシア、イギリスで少なくとも4両の九五式のレストアが行われています。各国の関係者が相互に情報交換し、欠落部品を融通しあったりするネットワークができるようになったのです。

 なぜ肝心の日本には1両も残っていないのでしょうか。敗戦の混乱のなかで、戦車を「技術遺産」として残そうとするような余裕はなく、兵器というのは戦争を連想させるということでタブー視されてきちんと保管、展示しようという意識がなかったのが原因のようです。古い車両とは言ってもクラシックカーとは事情が異なります。同じ「技術遺産」なのですが、こうした区別をするのは日本独特かもしれません。ちなみに同じ敗戦国ドイツには兵器を展示する立派な博物館があります。

 2004(平成16)年までは日本にも九五式はありました。この九五式はちょっと数奇な経緯を辿っています。1943(昭和18)年に製造され戦時中に西太平洋のポナペ島(現・ミクロネシア連邦ポンペイ島)にはるばる海を渡って運ばれました。当時この島には第五二師団隷下の戦車中隊と満州から派遣された戦車第二連隊の戦車中隊が駐留しており、どちらかの部隊に所属していたものと思われます。

 しかしアメリカ軍はポナペ島には来襲せずにそのまま終戦。武装を外された戦車をポナペ島の地主のひとりが自分の土地に集めて保管しました。このなかの1台が化粧直しされて再び海を渡って1981(昭和56)年日本に返還され、京都嵐山美術館(京都市)に展示されていましたが、1991(平成3)年に同館が閉館した後、白浜ゼロパーク(和歌山県白浜町)に移設されます。しかしここも2004年に閉鎖され居場所が無くなってしまいます。そうしたなか、日本戦車に目をつけていたイギリスのコレクターに買い上げられ、三たび海を渡ってヨーロッパに行ってしまいました。

戦車愛が繋いだ奇跡のグローバルネットワーク

 一旦外国のコレクターに買い取られてしまった物を再び、日本に取り戻すのは大変困難です。ところが2017年秋、東京の無可動実銃輸入販売店「シカゴレジメンタルス」の宮崎社長を通じ、奇跡のオファーがされます。購入したイギリス人コレクターより「くろがね四起」をレストアしたグループで九五式を買わないかとの打診があったのです。このグループというのが静岡県御殿場市のNPO法人「防衛技術博物館を創る会」(以下「創る会」)です。

 早速、同会代表理事の小林氏は、2018年3月にレストア作業が行われているポーランド西部ヴロツワフへ確認に出向きます。ここでイギリス人コレクターの代理人、ポーランド人の工場長、小林氏の3者が初顔合わせとなるのですが、互いに素性の探り合いで最初は折衝もギクシャクしていたそうです。そこへポーランド人工場長にあるロシア人から電話が入ります。これが何と、創る会が「くろがね四起」をレストアした際、協力を得たロシア人コレクターだったのです。同じ知己で一気に3者が打ち解けます。ロシア人も交渉をバックアップしてくれます。戦車愛がつなぐ日本とイギリス、ポーランド、ロシアの不思議なネットワークです。

試される戦車愛、お値段1億円

 イギリス人コレクターにしても10年という歳月と莫大な費用を掛けて、オリジナルエンジンまで積み込んでレストアに情熱を注ぎ込んでいます。さらに、このイギリス人には日本の戦車をイギリスのボービントン戦車博物館で他国の戦車とともにパレードさせたいという夢がありました。お金さえ積めば譲ってもらえるとはいきません(お金を集めるのも大変ですが)。しかし最終的には、日本の戦車は日本人に還したほうがよいと思ってくれたのです。

 イギリス人コレクターの夢であるボービントン戦車博物館での展示、パレードが実現し、所有権を日本人の手に取り戻すことができれば、日本に里帰りさせる大きな第一歩になります。ボービントン戦車博物館は世界有数の戦車博物館で、毎年6月に開催される「タンクフェスト」には日本から見学ツアーも出るようになりました。うまくいけば来年にはオリジナルエンジンで動く九五式を見ることができるでしょう。

 一番肝心な購入費用については1億円となっていますが、創る会が「くろがね四起」をレストアした費用は約2000万円であり、これと比較しても妥当な額と見積もられています。しかし個人や創る会で何とかなる金額ではなく、広く寄付を呼びかけています。

 再び日本人の手に戻るのか、日本人の戦車愛が試されています。

【写真】オーバーホールされたオリジナルの三菱製エンジン

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