寝台特急の生き残り「サンライズ瀬戸・出雲」なぜ健在 誕生20年、列車の将来は

寝台特急の生き残り「サンライズ瀬戸・出雲」なぜ健在 誕生20年、列車の将来は

寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」は、途中の岡山駅で高松行きの「サンライズ瀬戸」と出雲市行きの「サンライズ出雲」に分かれる(2018年4月、杉山淳一撮影)。

東京〜高松・出雲市間を結ぶ「サンライズ瀬戸・出雲」は、日本で唯一の定期運行されている寝台特急。ほかの寝台特急が廃止されていったなか、いまも健在なのは、観光とビジネスのバランスに理由がありそうです。

20周年を迎えた「サンライズ瀬戸・出雲」

 かつて全国を網羅した“青い客車の寝台特急”は需要が衰え、車両の老朽化によって列車ごと消えてしまいました。現在、毎日運行する寝台列車は「サンライズ瀬戸・出雲」だけです。その希少価値が鉄道ファンや旅行好きに注目されています。特に「サンライズ出雲」は、縁結びの神様の出雲大社を参拝する若い女性に人気とのこと。「女子旅向け列車」として、テレビや雑誌などでも紹介されています。

 ほかの寝台特急が「絶滅」したなかで、なぜ「サンライズ瀬戸・出雲」は生き残ったのでしょうか。その理由は「設備」と「運行ダイヤ」にあると思われます。

個室中心で女性にも安心

 この列車に使用されている「サンライズエクスプレス」こと285系電車は、寝台列車専用に設計された鉄道車両です。客室は個室が中心となっており、暗証番号式の鍵がかかります。プライバシーと安全の確保、これが女性も安心して乗れる要素です。旧来の寝台特急にも個室はあったとはいえ、中心は二段ベッドの開放型寝台でした。「開放型」とはつまり、ベッドと周囲の仕切りはカーテンだけ。昔はそれでも「横になって移動できる」から、ありがたい列車でした。しかし個室の快適さ、安心感には及びません。

「サンライズ」のインテリアは大手住宅メーカーのミサワホームが設計し、従来の寝台車に比べると、木の温もりが演出されています。個室の選択肢も多く、1人用個室の「ソロ」「シングル」「シングルデラックス」、2人用個室の「シングルツイン」「サンライズツイン」があります。それぞれ、広さやベッドの幅によって料金が異なります。

多様な個室、寝台料金不要の格安「座席」も

 最も安価な1人用個室はベッドの幅が最大700mmの「ソロ」で、料金は6480円です。「シングル」はソロと同じべッド幅ですが、床面積がやや広く、天井が高く直立できます。料金はソロより1080円高い7560円です。「シングルデラックス」はベッド幅850mm。トイレはありませんが、デスクとチェアも付いてビジネスホテル並みの設備です。料金はソロの2倍以上である1万3730円になります。

 女子旅に人気の2人用個室は、2段ベッドのある「シングルツイン」です。1室の料金は1万4830円。1人で利用する場合は9430円です。下段ベッドをたたむと、いすがふたつできます。もうひとつある2人利用できる個室「サンライズツイン」はツインベッドで、料金は1室1万5120円です。女性向け雑誌では、お酒やおつまみを持ち込んで女子会を開き、そのまま眠って、朝から出雲を旅するというストーリーで紹介されています。

「サンライズ」に乗車するためには、これらの寝台料金に加え、目的地までの運賃と特急料金が必要です。ただし「サンライズ」には運賃と特急料金だけで乗れる「ノビノビ座席」というエコノミーな座席も用意されています。頭部分だけ仕切りがあるカーペット敷きで、大人ひとりが横になれる広さ。寝台料金は不要です。

 筆者(杉山淳一:鉄道ライター)が「ノビノビ座席」に乗車したとき、隣のふたつの区画でパパとママ、そのあいだに幼児2人が眠っていました。その様子が見えてしまうところがプライバシー的に難点ではありますが、翌朝はとても楽しそうにくつろいでいました。賢い使い方だと思いました。

山陽・九州方面のビジネス需要にも対応するダイヤ

「サンライズ瀬戸・出雲」の人気の理由はもうひとつ、使いやすいダイヤ設定にあります。下り列車は東京22時00分発。東海道本線、山陽本線を夜通し走り、翌朝6時27分に岡山に到着します。ここで列車を分割して、「サンライズ瀬戸」は瀬戸大橋を渡り、高松到着は7時27分。「サンライズ出雲」は中国山地を横断して米子、松江に停車。終着駅の出雲市には9時58分に着きます。

 もし、高松に7時台に着きたい場合、東京からは新幹線や航空機の始発便を使っても間に合いません。米子、松江、出雲市は新幹線の始発に乗っても昼過ぎです。飛行機は6時台、7時台の便に乗れば、9時台に到着できます。しかし、羽田空港に6時台に到着できる地域は限られます。前日の最終便に乗り1泊するためには、17時から18時台にオフィスまたは自宅を出発する必要があります。

 東京駅22時発は、オフィスで遅くまで仕事を片付け、食事をして酒を飲んでからちょうど良い時間。旅行好きも自宅で支度をしてから出発するにはちょうど良い時間です。高松では朝早い時間に着き、1日をスタートできます。出雲市到着はちょっと遅めですが、観光地巡りには適した時刻。また、途中駅の米子は9時5分、松江は9時31分に到着。10時からの会議に間に合います。

 さらに、岡山着6時27分も便利です。岡山発6時51分の新幹線「みずほ601号」に乗り継ぐと、広島7時25分着、博多8時28分着、熊本9時2分着、鹿児島中央9時46分着。乗り換え1回で九州へ行けて、朝から稼働できます。

 上り列車の「サンライズ瀬戸」は高松21時26分発、「サンライズ出雲」は出雲市18時51分発です。ふたつの列車は岡山で連結し、東京には翌朝の7時8分に着きます。出雲市発がちょっと早い気がしますが、東京着7時8分は魅力的です。通勤ラッシュ直前に到着して、そのまま出勤できます。旅行先にギリギリまで滞在できますね。

 上り「サンライズ瀬戸・出雲」で見過ごせないところは、深夜の三ノ宮と大阪停車です。三ノ宮発は0時13分、大阪発は0時34分。東京に向かう事実上の最終便です。眠れる時間は少ないとはいえ、この時間帯の移動は新幹線や航空機にはできません。夜行バスは安価ですが、出発が早く、到着はやや遅くなります。それに比べて上り「サンライズ」は速く、定時性でも有利。「ノビノビ座席」利用者に人気のある区間です。

後継車両はあるか

「サンライズ瀬戸・出雲」の今後の見通しはどうでしょうか。人気がある列車とはいえ、近年のJR各社の動向を見ると、寝台特急を含めて夜行旅客列車は、JR九州の「ななつ星in九州」、JR東日本の「TRAIN SUITE四季島」などといったクルーズトレインを除くと、減便、廃止の流れになっているように見受けられます。

 筆者はいままで「サンライズ瀬戸・出雲」に数回乗りました。オフシーズン、オンシーズンともに、少ないサンプル数ですが、いつも混んでいました。ここ数年は女性客も多い印象です。採算性については数字が公開されていませんが、利用者数からみて成功した列車だといえそうです。

 しかし、走り始めてから20年。つまり、285系電車も20年を迎えました。電車の税制上の減価償却期間は13年です。つまり製造費の回収は終わっています。電車の耐用年数は20年から30年。これは使用頻度にもよりますが、285系は通勤電車ほど酷使されていないため40年ほどは使えるかもしれません。それでもいずれ車両は老朽化し、廃車となります。

 JRは285系電車の5編成すべてについて、2014年から2016年までにリニューアル工事を実施しました。トイレの洋式化、カーペットや壁材の張り替え、パンタグラフ増設、乗降扉のステップ改良などです。「まだまだこの車両を使うぞ」という意思表示といえそうです。しかし、乗客数が減るなど収益が悪化すれば、「サンライズ瀬戸・出雲」は廃止、285系は団体臨時列車で使用するというおそれもあります。

 前向きに考えると、収益性が見込めるならば、老朽化した車体を新型車両に置き換えるという経営判断も期待できます。285系電車2編成を保有するJR東海は、特急「ひだ」「南紀」のキハ85系ディーゼルカーの置き換え用として新型ハイブリッド車両の導入を発表しました。同じく285系電車3編成を保有するJR西日本は、中期経営計画で、岡山〜出雲市間の特急「やくも」に新型車両を導入すると記しています。両社とも、収益性を見込める列車にはきちんと投資していく方針です。

料金は飛行機が相手でも優位

「サンライズ瀬戸・出雲」は昼間の特急に比べると定員が少ないため、運賃収入も少ない列車です。しかし、特急料金と寝台料金が加算されるため、乗客の単価は高めです。現在の収益性を維持しつつ、新型車両を導入するためには、運行費用を削減するか、収入を上げるかという経営判断が必要でしょう。

 運行費用の削減は新型車両による省エネルギー化や、検札省略や放送自動化による乗務員の削減などが考えられます。しかし、長距離、長時間の乗客をサポートするためには、きちんと接客対応する人員が必要です。むしろ乗務員は増やしても良いくらいです。

 収入を上げるという部分はどうでしょうか。「サンライズ瀬戸」の東京〜高松間でソロを利用した場合の運賃、特急料金、寝台料金の合計は2万1030円。「サンライズ出雲」の東京〜出雲市間でソロを利用した場合の合計は2万1710円。これらは、ほぼ同区間の航空運賃の通常料金より1万円以上も安い金額です。航空運賃は事前割引で1万円台後半まで下がりますが、それでも「サンライズ」との差額はわずかです。

 飛行機はスピードで優位。「サンライズ」は有効時間帯とくつろげる空間で優位。両者が対等な勝負をしているとすれば、現在の「サンライズ」での移動は価格に見合っているといえます。新型車両の投入でもっと快適になるなら、少しくらい値段が上がっても利用客は減らない、むしろ増えると筆者は考えます。

 ただし、現在のJRの料金体系は考え直した方が良いかもしれません。寝台料金は居住空間のサービス料金としてホテルと比較されます。近年のビジネスホテルは1泊5000円前後もありますから、6480円からの寝台料金は割高感が否めません。

「サンライズ料金」を設定し、新しいサービスを期待

 逆に、特急料金の3240円(「ノビノビ座席」は通常期で3760円)は安く見えます。これはJR全体の特急料金のルールを当てはめているからです。在来線の特急料金は距離に応じて上がりますが、601km以上は同じ料金になります。「サンライズ出雲」の東京〜出雲市間は953.6kmありますから、300km以上も据え置かれています。

 運賃と特急料金の合計がほかの交通機関に比べても低価格という事実は目立たず、寝台料金がホテルと比べられて割高と取られてしまう。ブルートレイン衰退の理由のひとつは「寝台料金が割高」というイメージにあったのではないかと筆者は考えます。

 いまや寝台特急は「サンライズ」だけになりました。もう全国共通のルールにこだわらず、「サンライズ料金」を設定した新しい列車に生まれ変わっても良いと思います。昨今の観光列車にならって、新型車両を導入し、毎日発車するツアー扱いとする。乗って移動するだけの利用客には従来料金、あるいは新車のためのわずかな値上げのみとします。

 その一方で、オプションメニューを用意。希望者には事前に予約した上で夜食や朝食を用意するなど、料金のアップに見合ったサービスを提供してみてはいかがでしょうか。食堂車はいりません。観光列車にならって、駅で積み込むスタイルとします。保温器でスープやコーヒーも用意しましょう。温かい飲み物、食べ物がひとつあるだけで、印象は大きく変わります。

 日本で唯一の寝台特急をなんとか維持するためにまずは利用し、そして「サンライズ」の今後について議論を深め、社会の関心を高めていきましょう。

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