懐かしの「JALのカバン」、それが物語る「日本人と海外旅行」の半世紀

懐かしの「JALのカバン」、それが物語る「日本人と海外旅行」の半世紀

かつてJAL国際線のファーストクラス搭乗客に配布されていたエアラインバッグ(2019年1月、中島洋平撮影)。

航空会社のロゴマークなどがプリントされた「エアラインバッグ」。かつて海外旅行が「高嶺の花」だった時代は、JALのエアラインバッグを持って街を歩くことが「ステータス」だったそうです。そもそも、どのような目的で作られていたものなのでしょうか。

正式には「オーバーナイトバッグ」、その目的は

 かつてJAL(日本航空)が協賛したテレビのクイズ番組では、優勝者に賞品として「JALで行くハワイ旅行」とともに、JALのロゴマークが配されたバッグが手渡されることもありました。

 JALをはじめ、このような航空会社のロゴマークが描かれたバッグは「エアラインバッグ」「フライトバッグ」などと呼ばれ、現在、雑貨店やインターネットの通販サイトなどで中古品が多く販売されています。「ビートルズ」が来日した1960年代にJAL機の搭乗風景などを撮った写真にも、人々がこのようなカバンを肩にかけ、飛行機に乗り込む姿が見られます。

 しかしJALでは現在、このようなエアラインバッグを生産していないとのこと。そもそも、どのような目的で作られていたのでしょうか。

 日本旅行作家協会の会長を務めた精神科医の故・斎藤茂太さんの「エアラインバッグ・コレクション」を保有するNPO法人「羽田航空宇宙科学館推進会議」によると、エアラインバッグは「国際線での機中泊に必要な身の回りの品々を入れるためのバッグ」で、正式には「オーバーナイトバッグ」と呼ぶのだそうです。

 JALは、日本の航空会社として初めて国際線の運航を開始した1950年代からエアラインバッグを製造し、国際線ファーストクラスの搭乗客に配布していたとのこと。「当時は飛行機に乗ること、海外に行くことが一般的でない時代だったこともあり、このようなグッズを作り、お客さまへご提供したのでしょう。また、JALの就航当時は海外のエアラインを参考にしており、海外各社にならってバッグも作られたのではないかと考えられます」と話します。

持つことが「ステータス」から一転、なぜ廃れた?

 1964(昭和39)年、「渡航自由化」により誰もが海外に行ける(それまで業務や留学での渡航のみ認められていた)ようになりましたが、まだまだ多くの人にとって海外旅行は“高嶺の花”でした。

 羽田航空宇宙科学館推進会議によると、国際線の乗客に提供されたエアラインバッグは憧れの的となり、「エアラインバッグを肩にかけ、銀座の街を歩くことが『ステータス』だった時期もあったほど」だそうです。

 渡航自由化を受け、JALでは1965(昭和40)年に日本初となる海外パッケージツアー「ジャルパック」の販売を開始。この参加者にもジャルパックのロゴマークをプリントしたエアラインバッグが配られました。JALのOBの伊藤さんは「旗を持った添乗員に、このカバンを肩にかけた参加者がゾロゾロついていくスタイルで、カバンは目印にもなったでしょう」と話します。

 しかし、羽田航空宇宙科学館推進会議によると、エアラインバッグは1980年代を最後に廃れたといいます。

 JALもこの時期にエアラインバッグの配布を終了。その理由は「海外旅行が一般的になり、特別感がなくなったため、バッグを用意する必要もなくなったと考えられます」とのことです。

「ありがたみ」が薄れていった海外旅行

 JALのOBである伊藤さんは、エアラインバッグが日本人にとって「ステータス」だったのは、1970(昭和45)年前後までだと推測します。

「この年、JALでボーイング747(いわゆる『ジャンボジェット』)が就航しました。輸送力はそれまでの3倍になり、当然ながら航空券の価格も下がり、学生の海外旅行なども盛んになっていきます。『ジャンボ』が主力機となった1980年代にはすでに、『ありがたみ』は薄れていたでしょう」(JALのOB、伊藤さん)

 ジャルパックのエアラインバッグを肩にかけ、連れ立って歩いていたようなパックツアーのあり方も変化していきました。「たとえば1978(昭和53)年に、飛行機とホテルだけを提供する自由行動型のパックツアー『ジャルパックゼロ』が登場したことも、海外旅行の変化、大衆化を物語っているでしょう」(伊藤さん)。いまでは、このようなツアー商品のほうが一般的だそうです。

 JALによると現在、イベントやプロモーションなどの場合以外で、ジャルパックの利用者や、航空券の購入者に配布しているグッズはないといいます。

 羽田航空宇宙科学館推進会議によると、エアラインバッグは航空ファンを中心に根強い人気があり、いまでもレプリカが販売されているものもあるとのこと。JALでも、たとえば2004(平成16)年のハワイ就航50周年記念など、レプリカのエアラインバッグを作成してプレゼントすることがあるといいます。

 ちなみに、かつてはエアラインバッグを普段使いしている航空会社スタッフもいたそうですが、JALのOBである伊藤さんが「エアラインバッグよりも便利だった」と語るのが「エレファントバッグ」。「小さく折りたためる薄いナイロンのトートバッグ、いまでいう『エコバッグ』の走りですよ。国際線の機内で免税品を買った人に配られたものですが、丈夫で使いやすかったですね」と振り返ります。

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