韓国艦レーダー照射事案、電波から何が見える? 現代戦における電波情報の重要性とは

韓国艦レーダー照射事案、電波から何が見える? 現代戦における電波情報の重要性とは

海上自衛隊のP-1哨戒機(画像:海上自衛隊)。

韓国艦による海自P-1哨戒機へのレーダー照射問題について、防衛省が最終見解を出すとともに、探知したというレーダーの「音」を公開しました。レーダーの電波情報から、なにが見えてくるのでしょうか。

防衛省が「最終見解」を公表

 2018年12月に発生した、韓国海軍駆逐艦「広開土大王(クァンゲト・デワン)」による海上自衛隊哨戒機P-1へのレーダー照射にかかわる案件は、火器管制レーダーを照射されたと主張する日本側と、それはねつ造とする韓国側が互いに強く抗議するという状況におちいり、防衛省は2019年1月21日(月)、「これ以上実務者協議を継続しても、真実の究明に至らないと考えられることから、本件事案に関する協議を韓国側と続けていくことはもはや困難であると判断」するとし、これまでの顛末をまとめた「韓国レーダー照射事案に関する最終見解について」と題する文書および資料を発表しました。

 また同時に、12月28日に公開した、P-1において撮影された動画から削除されていた「捜索用レーダー探知音」と「火器管制用レーダー探知音」も公開。レーダーを照射された時に鳴ったという金切り声のような警報音が、防衛省のウェブサイトで確認できます。

 この「レーダー探知音」は、「ESM(電子戦支援装置)」と呼ばれる電波逆探知装置がとらえた信号を、音として乗員に知らせたものです。ESMは“戦う軍用機”のほとんどすべてに搭載されており、たとえば航空自衛隊のF-2戦闘機にも見られ、F-15戦闘機には名前こそ異なりますが「RWR(レーダー警戒受信機)」が搭載されています。映画などにおいて「ロックオンされた」と警報を鳴らす装置がこれであると聞けば、わかりやすいかもしれません。

レーダー波受信、そこからいろいろ分かるワケ

 この「逆探装置」は、自機に到達したレーダー電波を単に音として知らせるだけではなく、電波が発信された方向が分かり、さらに相手がこちらを探しているだけなのか、またはミサイル射撃など攻撃を意図しているのかも分かります。そして到達した電波の波形を、あらかじめ収集しておいた電波情報のライブラリと照合することで、そのレーダーの種別や発信源が何であるかが分かります。

 もし自衛隊が今回、照射されたレーダーの電波情報をあらかじめ持っていたならば、「広開土大王」であると自動で識別できたはずです。防衛省が公開した動画において、P-1は目視確認できるよりも遠くから、韓国海軍の船を「クァンゲト・デワン(広開土大王)」と呼んでいるように見えることからも、ESMで探知した「捜索レーダー」の情報から識別できていたのかもしれません。これは、電波発信体が艦艇ではなく、Su-27戦闘機やSu-35戦闘機といった航空機でも、同様に識別可能です。

 またF-35戦闘機のように、相手の周波数にあわせて電波妨害装置を使用したり、「チャフ」と呼ばれる髪の毛を束にしたような形状の妨害金属片のうち、最も効果的な、電波の波長に対し半分の長さ(10Ghzのレーダーならば1.5cm)のものを散布したりといった、対抗手段を自動実行してくれるものもあります。

電波情報の収集はなぜ重視される?

 現代戦は、レーダーやネットワークを駆使した電波の戦いが主流ですから、事前の電波情報の収集は非常に重要です。航空自衛隊は防空識別圏(防空の必要から、領空の外側に設定する空域)内に侵入した不明機に対して、年1000回近くスクランブル発進を行っていますが、この不明機のうちかなりの数が電子偵察機です。すなわち、意図的にスクランブルさせることで相手(この場合、航空自衛隊側)にレーダーを使わせ、電波情報を収集していると見られます。

 こうした偵察行為は「電波諜報(ELINT)」または「信号諜報(SIGINT)」と呼び、どこの国も必ず実施しています。意外かもしれませんが、自衛隊もまたYS-11EB、EP-3といった電子偵察機を保有しており、中国やロシアにぎりぎりまで接近し電波情報収集を実施していると見られ、相手方の戦闘機にスクランブルされることも珍しくありません。

 1973(昭和48)年、イスラエルとエジプトが戦った「ヨムキプール戦争」(「第四次中東戦争」とも)では、エジプト軍の高度な防空システムによって、イスラエル空軍はわずか3週間ばかりの戦闘で100機以上の戦闘機を失う、非常に大きな損害を受けてしまっています。

 特にエジプト軍の、ソ連製新型地対空ミサイルSA-6「ゲインフル」が果たした役割は大きかったといいます。これは当時、イスラエル空軍の主力戦闘機であったF-4E「クルナス」などのレーダー警戒受信機が、SA-6の「ストレートフラッシュ」火器管制レーダーを逆探知できなかったことが大きく、レーダー照射されても無警報であり、電波妨害もしかけることができませんでした。あらゆる方向から1ダース単位の地対空ミサイルが迫るなか、イスラエル空軍のパイロットは目視で警戒するしかなく、ミサイルの高い誘導性能もあって多数が撃墜されてしまったのです(エジプト側の戦果には機関砲などによる撃墜も含まれる)。

 このように、ESMやRWRといった逆探知装置は、軍用機の生存に欠かせない装備です。また単に搭載していただけでは意味がなく、情報を事前に持っていることが重要となっています。

【画像】P-1哨戒機はどのように飛行したのか、防衛省最終見解資料より

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