駅の発車メロディなぜ誕生 名門吹奏楽部からアイドルのピアノ演奏まで

駅の発車メロディなぜ誕生 名門吹奏楽部からアイドルのピアノ演奏まで

ニューシャトルの大宮駅。列車の入線時に吹奏楽団が演奏したメロディが流れる(草町義和撮影)。

鉄道駅のホームで列車の入線時や発車時に流れるメロディの多くは電子音ですが、なかには実際のオーケストラなどの生楽器演奏を収録して流している駅も。サウンドが重厚すぎるがゆえに、逆に「耳障り」とされてしまったケースもあります。

「乃木坂46」メンバーのピアノ演奏も発車メロディに

 鉄道駅のホームで列車の入線や発車の際などに流れるメロディ。その多くは電子音ですが、なかには重厚な生楽器(電気を介さずに音が出る楽器)による演奏を収録し、流しているケースもあります。

 たとえば埼玉新都市交通(ニューシャトル)の大宮駅と、となりの鉄道博物館駅上りホームでは、列車が入線する際に流れるメロディに、実際の吹奏楽団が演奏したアニメ『銀河鉄道999』映画版主題歌を使用。電子音とは違った分厚い音圧のメロディを聞くことができます。

 演奏は埼玉県立伊奈学園総合高校の吹奏楽部によるもので、ニューシャトルの羽貫駅(埼玉県伊奈町)近くに校舎があることから企画されました。この吹奏楽部は、2018年までに吹奏楽コンクール全国大会出場20回、うち金賞15回という実績を残す日本屈指の「名門」です。『銀河鉄道999』の曲が選ばれたのには、「鉄道の町」大宮を盛り上げる目的があるとのこと。

 北陸本線の鯖江駅(福井県鯖江市)では、木琴の一種であるマリンバで演奏された楽曲が、全てのホームで発車メロディとして使用されています。鯖江市は、マリンバの国内販売額第1位を誇るメーカー「こおろぎ」の創業地。市でも「マリンバの音を生かしたまちづくり」を進めており、まちの公園などでもチャイム代わりにマリンバの演奏を流しています。鯖江駅では2000(平成12)年からマリンバによる楽曲を採用し、2017年からは、地元出身の打楽器奏者である平岡愛子さんが作曲・演奏したオリジナル曲『木漏れ日』を使っています。

 東京メトロでは、千代田線の乃木坂駅でピアノの生演奏を収録した発車メロディを2016年から使用。駅近くに所属レコード会社があるアイドルグループ「乃木坂46」のヒット曲『君の名は希望』を、メンバーの生田絵梨花さんが演奏したものです。1番線と2番線で、同じ曲の別の部分が流れます。

そもそも駅メロディはなぜ生まれ、なぜ電子音が多いのか

 昭和の時代は、入線時や発車時にホームで鳴らされていたのはベルでした。ただ、一部では苦情も出ていたそうです。

 ベルに代わり、メロディが広く認知されるきっかけをつくったのはJR東日本。1980年代後半、発足間もない同社は、耳当たりの良い発車メロディをいちから制作し、放送設備を更新していくこととなりました。その際に求められたことは「不調和にならない」「小さな音でも遠くまで聞こえる」「長年使っても飽きない」など。言うのは簡単ですが、製作する側には難題です。

 その問題を解決するヒントは「お寺の鐘」にありました。鐘の音は「倍音」と呼ばれる成分が発生していて、ひとつの音に聞こえても複数の音で構成されており、ほかの音と共鳴しても不快に感じにくいのです。そこで、「倍音」を人工的に出しやすく、音どうしのコントロールも容易な電子音が使われるのです。初期に作られた発車メロディは、鐘の音の「倍音」に含まれる音だけで構成して作られました。

 一方、生楽器を使ったメロディの場合、近いホームで同時に鳴ると音どうしがぶつかり合い、不快に共鳴してしまいがちです。先に挙げた乃木坂駅の発車メロディ『君の名は希望』は、1番線と2番線でバージョンが異なり、場所の特性に応じてアレンジがなされています。原曲は途中から劇的に転調しますが、両バージョンとも転調前の同じ調の部分が使われ、メロディがぶつかって不調和にならないよう工夫されています。また、鳴っている時間も5秒程度と短く、あまり同時に鳴ることがありません。

 ニューシャトルの場合、大宮駅はホームが1面のみ、鉄道博物館駅は上下ホームが新幹線の敷地を挟んで離れているため、メロディがぶつかることがないのです。

金管楽器の「ファンファーレ発車メロディ」、1年で取りやめになったワケ

 過去には、生楽器の演奏を使った発車メロディの使用が取りやめられた例もあります。

 信越本線と篠ノ井線、しなの鉄道線が交わる篠ノ井駅(長野市)では、1990(平成2)年に発車メロディを導入。当時は長野へのオリンピック誘致活動が山場を迎えており、「オリンピックを連想させるものを」という当時の駅長の提案で、金管楽器によるファンファーレを発車メロディとして使用しました。

 1番線は長野市消防団、2・3番線は陸上自衛隊による演奏で、それぞれ別の楽曲を使用。「ファンファーレが鳴り終わりましたら、〇番線から列車が発車します」とのアナウンスののち、トランペットやトロンボーンなど金管楽器の重厚なハーモニーがホームに響き渡っていました。このメロディは、当時の若者向け深夜ラジオ番組「ラジオはアメリカン」(TBSラジオ)でも紹介され、リスナーのあいだで話題に。番組スタッフとリスナーで実際に篠ノ井駅でメロディを聞くイベントも行われたほどです。

 しかし一方で、この「ファンファーレ発車メロディ」について、駅や新聞の投書覧などに「耳障り」といった声も寄せられていたそうです。複数路線が発着する篠ノ井駅では、複数の列車がほぼ同時に発車する場合もあり、テンポも違う別のメロディが同時に大音量でぶつかることもありました。

 その後、1998(平成10)年の「長野オリンピック」開催が決定したこともあり、発車メロディはたった1年で、電子音の発車メロディ『Water Crown』に取って代わられることとなりました。いまもJR東日本の多くの駅で使われているメロディです。

※記事制作協力:風来堂、oleolesaggy
※?部内容を修正しました(1月28日10時15分)。

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