LA騒然、夜のビル街を飛ぶ漆黒の影! その正体、米陸軍「ナイトストーカーズ」とは?

LA騒然、夜のビル街を飛ぶ漆黒の影! その正体、米陸軍「ナイトストーカーズ」とは?

手前から「ナイトストーカーズ」のMH-60MとMH-47G。一番奥はB-25爆撃機で、イベントでの飛行の様子(画像:アメリカ陸軍)。

夜のロサンゼルス、ダウンタウンに林立するビルを縫うように飛行する、無灯火で漆黒のヘリコプターが多数、目撃され、街が騒然となりました。彼らの正体は「ナイトストーカーズ」、アメリカ軍屈指のプロフェッショナル集団です。

真夜中のLAに舞い降りた黒塗りのヘリコプター

 2019年2月4日、アメリカ屈指の大都市であるロサンゼルスのダウンタウンに、突如として多数のヘリコプターが超低空で飛来しました。しかも、機体は闇夜に紛れるように黒く塗装され、さらに灯火を一切点灯していませんでした。

 これらの謎のヘリコプターは、ビルの合間を縫いながら道路や建物脇にぴたりと着陸、地上で待機していた人員を収容したり、さらには機体から飛び出した人員が建物へと突入していったりしました。この一連のできごとを間近で目にしたロサンゼルス市民のなかには、本当に戦争やテロが発生したと思い込んでしまった人々もいたようです。

 ことの真相は、アメリカ陸軍の特殊作戦部隊であり、「ナイトストーカーズ(闇夜に忍び寄るもの)」の名を冠する「第160特殊作戦航空連隊」が実施した市街地訓練でした。

「ナイトストーカーズ」は、ケンタッキー州フォートキャンベルに司令部を置くアメリカ陸軍の特殊部隊で、その特徴はなんといっても、専用の特殊なヘリコプターを用いた敵地への隠密侵入能力です。

 そのため「ナイトストーカーズ」のパイロットには、敵に発見されないよう真夜中に暗視ゴーグルを装着し、機体を超低空で地表スレスレに飛行させる能力が要求されるのですが、これは並大抵の技量では成しえない飛行方法で、非常に高い練度が求められるものです。

 そうして敵地へと侵入すると、今度は乗っている特殊部隊員を地上や建物に降ろさなければなりません。そのため「ナイトストーカーズ」のパイロットは、山岳地帯のような厳しい地形からビルの屋上のような非常に狭い場所に至るまで、機体を正確に操って隊員たちを無事に降ろせる技量が求められます。冒頭で触れたロサンゼルスでの件は、まさにこうした能力があるからこそ成しえる業だったといえます。

過去の失敗を糧に創設されたエリートパイロット集団

「ナイトストーカーズ」では現在、兵員輸送用に主としてMH-60「ブラックホーク」、MH-47「チヌーク」という2機種のヘリコプターを運用していますが、これらの機体には、通常の軍用ヘリコプターが装備していないような高性能暗視装置やレーダー、さらに空中給油を受けるための装置や敵ミサイルの追尾を妨害する自機防御装置などが装備されていて、こうした面からもほかの部隊との違いが明確になっています。

 この「ナイトストーカーズ」、じつは1980(昭和55)年にイランで実施された、ある作戦の失敗が契機となって創設されました。発端となったのは、1979(昭和54)年に発生した「在イランアメリカ大使館人質事件」です。

 これは、イランの首都テヘランにあるアメリカ大使館が反米グループにより占拠され、多数の大使館職員が人質にされたという事件で、2012(平成24)年に公開されアカデミー賞も受賞した、映画『アルゴ』の題材にもなっています。

 この事件を解決するために、アメリカ軍はヘリコプターで特殊部隊をテヘランへと送り込み、人質を救出する「イーグルクロー作戦」を実行しました。ところが、作戦の途中で参加した機体同士が接触するなど問題が続発し、最終的に作戦は中止されてしまったのです。

 その後、アメリカ政府はこの作戦の問題点を検証するための委員会を開き、このような特殊な任務をこなせる専門部隊を創設することが提唱されました。その結果、誕生したのが「ナイトストーカーズ」です。

 創設以来、「ナイトストーカーズ」はその規模を増強しつつ、1983(昭和58)年の「グレナダ侵攻」や、2003(平成15)年に始まった「イラク戦争」など、アメリカが関わる全ての紛争に参加してきました。最近(2019年2月現在)では、切り立った山岳地帯など厳しい環境の広がるアフガニスタンにて、対テロ戦争を戦うアメリカ軍の兵士を輸送、回収するという重要な役割を果たしています。

 ちなみに、「ナイトストーカーズ」のモットーは「Night Stalkers Don't Quit(ナイトストーカーズは諦めない)」で、いかなる困難な状況であっても決して任務を諦めないという意思が、この言葉に集約されています。

時代に沿って変化する「ナイトストーカーズ」

 創設から30年を経て、「ナイトストーカーズ」にも徐々に変化が見られるようになってきました。たとえば2013(平成25)年には、それまでMH/AH-6「リトルバード/キラーエッグ」、MH-60、MH-47といったヘリコプターのみを運用してきた同部隊に、長大な航続距離と高性能なセンサーにより強力な情報収集、監視能力を有する無人機、MQ-1Cを運用する専門部隊が創設されました。これにより、従来はアメリカ空軍などに依存してきた部隊活動時の周辺の状況確認や情報収集を、「ナイトストーカーズ」が独自に実行できるようになり、より柔軟な作戦運用が可能となりました。

 また同じく2013年には、創設以来、初めて女性隊員の募集が開始されました。これは同年、アメリカ軍が直接、戦闘に従事する職種を女性にも開放したことに基づく取り組みですが、エリート集団である「ナイトストーカーズ」にとって、ひとりでも多くの優秀な人材をリクルートするために、男性だけではなく女性にもその門戸を広げるというのは、非常に理にかなった選択だったといえます。

 2001(平成13)年の「アメリカ同時多発テロ」以降は、主として対テロ戦争を戦ってきた「ナイトストーカーズ」ですが、今後は中国やロシア、さらには北朝鮮といった国家間同士の戦争にも対応することが求められてきています。冒頭で触れたような市街地における訓練が、こうした状況と関連性があるのかが気になるところです。

【写真】夜のLAに飛来した「ナイトストーカーズ」、実際の様子

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