戦闘機パイロットはいかに強烈な「G」と戦う? ジェット戦闘機のネック その対策とは

戦闘機パイロットはいかに強烈な「G」と戦う? ジェット戦闘機のネック その対策とは

航空自衛隊「ブルーインパルス」。ジェット機による曲技飛行は、パイロットにかかるGも大きく、そうしたなかで繊細な操縦が求められる(武若雅哉撮影)。

「G」はなにも物理の授業だけのものではなく、エレベーターやクルマなどでも感じられる、身の回りにありふれたものでもあります。これが激しく大きい戦闘機の場合、どんな影響があり、どのような対策をしているのでしょうか。

そもそも「G」ってどういうもの?

 戦闘機やレーシングカー、宇宙ロケットなど、高速な乗りものと「G」は切っても切り離せないものです。そうした特別な乗りものでなくても、クルマの急発進時や旅客機の離陸時にシートへ身体が押し付けられたり、あるいはジェットコースターでコースの山の頂点にてふわっと浮いたようになったりと、Gを感じるシーンは身近なところにもあります。

 ここでいう「G」は加速度、つまり、速度変化するときに物体に働く力の大きさ(比)を表す単位です。その力の大きさの基準(ものさし)となるのは、地球上で物体が自由落下する際の加速度、すなわち「重力加速度」で、これは実際のところ極地と赤道上など地球上の地点により少しばかり異なるものなのですが、上述した「G」はすべて「単位としての重力加速度」を表しており、9.80665m/s2(「S2」は乗数。毎秒、秒速9.80665メートルずつ加速する、の意)と規定されています。

 JAL(日本航空)の「航空実用辞典」によると、旅客機が離陸する際の、後方向のGはおよそ0.3Gから0.5G程度で、垂直方向のGは1.2Gから1.3G程度(重力に加え0.2Gから0.3G)といいます。前者を簡単に言い換えるなら、「地球に引っ張られる力の0.3倍から0.5倍程度の、後ろ方向の力がかかった」ということになります。逆にジェットコースターで浮いたように感じるのは、垂直上方向にGがかかる、すなわち垂直下方向である地球の重力に対し、マイナスのGがかかるためです。

 旅客機の例のように、小数点以下でもそれなりに大きな力を感じるGですが、これが戦闘機になると、急旋回時などに3Gとか5Gなどといった数字が普通に見られるようになります。5Gともなると、地球に引き寄せられる5倍の力がかかるわけで、体重60kgならば300kgに感じる大きさです。ジェットコースターにも、最大4Gを味わえるものがあるそうですが、ほんの一瞬のことであり、戦闘機は場合によって、その状態がしばらく続くこともあります。そしてそれだけ大きな力がかかり続けるとなると、もちろん、体にも影響が出てきます。

強烈なGがかかり続けると…?

 戦闘機が旋回する場合、機首を上げ機体上部を旋回の中心に向けたほうが、旋回半径が小さくなります。そのため、緊急時などを除いて機首を下げるような動きはほとんどありません。よって通常、「戦闘機が旋回する」という場合は機首を上げての動きであり、このときパイロットには、下半身方向へGがかかります。これを「プラス方向のG」といいます。

 戦闘機が旋回し続け、パイロットにプラス方向への大きなGがかかり続けると、やがて体内の血液は下半身に集まり始めます。脳への血液供給もとどこおり、するとパイロットの視界は次第にぼやけてきます。やがて視界から色調が失われるグレイアウト、視界が失われるブラックアウトなどが起こり、さらに強いGがかかると、意識を失う「G-LOC(ジーロック)」に至ります。G-LOCそのものは、人体に悪影響をおよぼすことはないといわれていますが、戦闘機パイロットが飛行中に意識を失うことが、どれだけ危険なことなのかは考えなくてもわかります。実際、G-LOCが原因の航空機事故は、過去に何度も発生しています。

 このGがおよぼす影響は人体だけでなく、もちろん機体にも大きな負担になります。機体は材料の工夫などで対策できますが、では生身の人間であるパイロットは、どのようにしてGに耐えているのでしょうか。それは、着用している装備に秘密がありました。

 航空自衛隊の戦闘機パイロットたちは、みな一様に緑の「フライトスーツ」と呼ばれる飛行服を着用しています。その上に、上半身には、万が一不時着した場合に使用するサバイバルベスト、そして下半身にもなにやらズボン状のものが見られます。この下半身の装備が、大きなGに耐えるための「耐Gスーツ」と呼ばれるものです。

耐Gスーツの原理と機体そのものへの工夫

「耐Gスーツ」は、脳や上半身の血液の降下を抑えるために開発された装備です。原理としては、エンジンから発せられる抽出空気をスーツ内のいくつかの袋に送り込み、その圧力で下半身を締め上げ、血液の降下を抑制するというものです。最大でマイナス1.5G程度の耐G効果があるといわれています。

 加圧のタイミングは、機体へかかる負荷が2G程度になると、自動で作動する仕組みになっているといわれています。Gが強くかかるほど、耐Gスーツには多くの空気が送り込まれ、パイロットの下半身を圧迫します。その圧迫はかなり強いようで、話を聞いたアメリカ海軍のパイロットによると「最大圧近くまで圧迫されると足を曲げることができなくなる」とのことでした。

 このほか、実は機体そのものにも工夫が施されています。それが座席の背もたれ角度です。

 Gに耐える工夫として、脳と心臓の高さを極力同じにするという方法があります。脳と心臓が同じ高さにあれば、脳の血液が降下することも無いという理屈で、極端にいえば、コクピットに寝そべってしまえば良いというものです。しかし、そうなると周囲の状況確認や操縦することが困難になり、戦闘どころではないでしょう。過去には、うつ伏せで操縦する機体の開発も行われましたが、どれも実験機が登場しただけで、実用化されたものはありません。

 この背もたれの角度ですが、たとえば航空自衛隊F-2戦闘機の場合には約25度の傾斜が付けられていて、F-16戦闘機の場合は30度程度になっています。座席をこの角度まで傾けることによって得られる効果は、マイナス1G程度であるといわれていて、耐Gスーツと合わせると、おおむねマイナス3.5Gほどの効果があるといいます。

 こうして、パイロットにかかるGに対する様々な工夫が施されている戦闘機ですが、パイロット自身も普段から自分の体にGの負荷をかける訓練を行ったり、呼吸法などによって自分自身で血流をコントロールしたりしています。

 戦闘機パイロットは、与えられた作戦を遂行するために、目やレーダーで見えている敵のほかにも、目に見えないGとも常に戦っているのです。

【写真】酸素マスクも耐Gスーツもナシ アメリカ海軍「ブルーエンジェルス」

関連記事(外部サイト)