方向転換を解消する西武「短絡線」計画 建設用地の確保から数十年、実現の可能性は?

方向転換を解消する西武「短絡線」計画 建設用地の確保から数十年、実現の可能性は?

列車の進行方向が変わる西武池袋線の飯能駅(2013年7月、草町義和撮影)。

東京と埼玉西部を結ぶ西武鉄道の池袋線・西武秩父線は、途中の飯能駅で線路の向きが変わり、両線を直通する列車も方向転換しなければなりません。この手間暇を解消するための計画は古くからありますが、実現の可能性はあるのでしょうか。

池袋線の延伸で方向転換が必要に

 東京から埼玉に延びる通勤路線のひとつ、西武鉄道の池袋線。その名の通り、東京の池袋駅から西へ延び、埼玉県飯能市の市街中心部にある飯能駅と、同市内の山間部にある吾野駅を結んでいます。吾野駅からは西武秩父線がさらに延びていて、池袋〜西武秩父間を直通する特急列車などが運転されています。

 直通列車は途中の飯能駅で列車の向きが変わります。これは飯能駅で線路の向き自体が変わるため。池袋駅から西へ進んできた池袋線は、飯能駅でいったん北東へ向きを変えるのです。この方向転換のため、列車の到着から出発までに3分程度の時間がかかります。

 これを解消するため、「短絡線」の計画が古くからあります。しかし、工事は休止状態になっていて、いまも実現のめどは立っていません。

 西武池袋線は1915(大正4)年に池袋〜飯能間が開業。その後、飯能駅から北西方向に延伸する計画が立てられましたが、飯能駅の東側を南北に通る国鉄(現在のJR東日本)八高線の建設が計画されたため、飯能駅で進行方向を変えて八高線の東飯能駅に立ち寄り、そこから北西方向に延伸するルートを採用することになりました。

 こうして1929(昭和4)年に飯能〜吾野間が開業しましたが、途中で進行方向が変わるため、運転士が編成の前後を移動しなければならず、手間と時間がかかります。特に貨物列車の場合、先頭の機関車を付け替える手間も加わるため、所要時間の短縮や輸送力の強化が難しいという課題を抱え続けることになったのです。

西武秩父線の計画を機に浮上

 このため、戦後に埼玉県の秩父方面へ延伸が計画されると、元加治駅(飯能駅の池袋寄りにある隣駅)と東飯能駅を直接結ぶ短絡線を同時に整備することも計画されました。短絡線は、行き止まりの飯能駅を通らないルートであるため、方向転換にかかる手間と時間が解消され、列車の所要時間を短くしたり、増発したりすることができます。特に貨物列車は機関車を付け替える手間もなくなるため、短絡線の整備は大きなメリットがあったのです。

 1969(昭和44)年、西武秩父線の吾野〜西武秩父間が開業。西武は5000系特急形電車「レッドアロー」などの新型車両を導入し、池袋〜西武秩父間を結ぶ特急列車の運転を始めました。国鉄の大型電気機関車と同等の性能を持つE851形電気機関車も導入され、沿線で生産されるセメントを運ぶ貨物列車が増強されています。

 しかし、西武秩父線に対して短絡線の計画は、なかなか進みませんでした。東京のベッドタウンとして発展し続けていた飯能市の市街中心部を通るルートだったため、全長わずか500mほどの距離ながら、用地買収交渉や都市計画との調整などで時間がかかったためといえます。それでも1980年代の後半には用地買収がほぼ完了し、複線の線路を敷くことができる建設用地が確保されました。

 しかし、そのあいだにセメント輸送がトラックなどに移ったこともあり、貨物列車の輸送量が減少。1996(平成8)年には貨物列車の運転が終了してしまいます。短絡線のメリットを最大限に生かせる列車がなくなったこともあり、西武は短絡線の計画を休止。せっかく確保した建設用地は数十年にわたり放置された状態になっています。

西武は「実施する段階でない」とするが…

 短絡線の計画再開を求める声は折に触れて浮上していますが、西武は積極的ではありません。たとえば、埼玉県は2009(平成21)年度に「短絡線の整備による所要時間の短縮」を西武に要望していますが、西武は「現在の池袋線の需要状況から、短絡線整備を実施する段階でないため、将来の輸送需要を踏まえながら検討を進めたいと考えている」と回答したといいます。

 実際、西武池袋線の飯能〜吾野間と西武秩父線の利用者は減少し続けていました。西武秩父駅の場合、1日平均乗降人員は2005(平成17)年度が8065人だったのに対し、2009(平成21)年度は約1割減の7194人で、2012(平成24)年度には6655人まで落ち込みました。建設用地が確保済みとはいえ、線路を敷くのには相当な費用がかかりますし、利用者が増加どころか減少し続けるのであれば、鉄道会社としても手が出せません。

 ただ、2013(平成25)年度以降は訪日外国人観光客の増加もあり、西武秩父駅の利用者も増え続けています。2017(平成29)年度は7418人で、2009(平成21)年度を上回りました。2016年に観光列車「西武 旅するレストラン 52席の至福」、2017年に着席指定列車「S-TRAIN(Sトレイン)」が運転を開始したことも、利用者の増加に寄与したと思われます。

 2019年3月には、池袋〜西武秩父間の特急列車に新型車両の001系電車「Laview(ラビュー)」が導入されました。こうした西武秩父線の活性化策により利用者が大幅に増え続けるようなら、「輸送需要を踏まえ」て短絡線の計画を再開する日が来るかもしれません。

【地図】どこを通る? 飯能「短絡線」のルート

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