F-35戦闘機に背を向ける西側の国々、それぞれの事情 買わない理由はどこにあるのか

F-35戦闘機に背を向ける西側の国々、それぞれの事情 買わない理由はどこにあるのか

2017年6月、「パリ国際航空ショー」に出展されたF-35A(竹内 修撮影)。

F-35戦闘機をめぐっては様々な声が聞かれますが、いわゆる西側諸国の中にも、導入決定を白紙撤回したり、そもそも検討すらしていない国もあったりします。彼らが購入しない理由はどこにあるのか、これまでの経緯を見ていきます。

ポーランドが買い、永世中立国も購入検討するなかで

 2019年5月28日、ポーランドのマリウシュ・プワシュチック国防大臣がアメリカ政府に対し、F-35戦闘機32機を売却するよう正式に要請したことを明らかにしました。

 F-35は2019年6月の時点で、アメリカ、イギリス、日本など13か国に採用されており、今回、売却要請を出したポーランドのほか、スイスやフィンランドでも新戦闘機の候補機となっています。

 F-35をすでに採用。または採用を検討している国々には、自由経済と民主主義を国是としているという共通点がありますが、その国是を持つ国であるにもかかわらず、F-35を導入していない国もあります。その代表格と言えるのがフランスです。

 フランスは1950年代後期に2種類のアメリカ製ジェット戦闘機、ノースアメリカンF-100「スーパーセイバー」、ヴォートF-8「クルセイダー」を導入したことがあります。この2機種と、イギリスと共同開発したSEPECAT「ジャギュア」、そしてノースアメリカンF-86D「セイバードッグ」とデハビラント「バンパイヤ」などのごく少数の導入事例を除くと、フランス空軍とフランス海軍は長年、国産ジェット戦闘機を主力として使用し続けています。

 フランスが国産戦闘機に固執している理由のひとつは、同国が航空防衛宇宙産業を主要産業と位置付けていることにあります。JETRO(日本貿易振興機構)の調査によれば、フランスの航空防衛宇宙産業は毎年約230億ユーロ(約2兆8167億円)を越える貿易黒字を計上する、フランス経済の屋台骨のひとつです。

 F-35は、開発パートナー国が出資額に応じて生産を分担する仕組みとなっており、仮にフランスがF-35の開発パートナー国となっていたとしても、フランス企業が国産戦闘機の開発・生産で得ていたのと同規模の仕事を得られる見込みはありませんでした。またフランスは、戦闘機を含めた防衛装備品の輸出を通じて、中東やアフリカ諸国への影響力を行使しており、アメリカ主導のF-35計画に参加すれば、影響力を行使する手段のひとつを失うことになります。これらはフランスにとって到底受け入れられるものではなく、同国がF-35に背を向けたのは当然と言えるでしょう。

独自路線貫くフランスと手を組むのは…

 フランス空軍と海軍は、戦闘機に戦術核兵器の運用能力を求めています。F-35にもB61核爆弾の搭載計画がありますが、運用開始は2020年代半ばが予定されており、これもフランスがF-35に背を向けた理由のひとつと考えられます。

 フランスは現在、ダッソー「ラファール」、ダッソー「ミラージュ2000」の、2種類の戦闘機を運用していますが、将来的にはドイツと共同開発する新戦闘機と、無人戦闘用航空機で、航空戦力を維持していく方針です。

 そのドイツは、フランスと共にEU(ヨーロッパ連合)の盟主として、ヨーロッパの自由経済と民主主義をリードしていますが、やはりF-35の開発計画に参加せず、導入もしていません。ただし同国はフランスとは異なり、F-35の導入を検討したことがあります。

 ドイツは現在、同国とイギリス、イタリア、スペインが共同開発したユーロファイター「タイフーン」と、やはりイギリス、イタリアと共同開発したパナヴィア「トーネードIDS」という2種類の戦闘機を運用しています。その「トーネード」は運用開始から40年以上が経過しており、イギリス空軍とイタリア空軍はその後継機として、F-35の導入を開始しました。

 ドイツは「トーネードIDS」後継機の国際共同開発を模索しましたが実現には至らず、既存の戦闘機の中から後継機を選定することとして、F-35の空軍型F-35AとボーイングのF/A-18E/F「スーパーホーネット」、ユーロファイターの追加導入という、3つの選択肢に絞ります。

 ドイツ空軍の上層部はこれら3つの選択肢の中で、F-35Aを最適な選択と考えていたといわれています。アメリカ国防総省もその希望に応えるべく、2017年6月にフランスのパリで開催された「パリ国際航空ショー」にF-35Aを派遣して、ドイツ空軍関係者の視察の便宜を図ると共に、メーカーのロッキード・マーチンと共同でドイツ空軍に対するF-35の説明会も実施。この時点で多くのメディアは、F-35Aが「トーネード」後継機の最有力候補だと報じていました。

 しかし「パリ国際航空ショー」の閉幕から1か月も経たない2017年7月13日、ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領が、ドイツ空軍の「タイフーン」とフランス空海軍の「ラファール」を後継する新戦闘機の共同開発に合意したことで、状況が一変します。

ドイツの選択、その背景

 前にも述べたように、F-35は開発パートナー国で製造が分担されています。日本やイタリアでは、機体の最終組み立ては認められていますが、導入国が部品の製造から最終組み立てまでを一貫して国内で行なう、いわゆるライセンス生産は認められていません。

 そして、前述のドイツとフランスが共同開発する新戦闘機は、2040年代の実用化を目標としています。つまり、ドイツが「トーネードIDS」の後継としてF-35Aを導入した場合、同国の航空防衛産業は、ユーロファイターの生産終了と同時に仕事を失い、新戦闘機の製造基盤を喪失してしまう可能性があるというわけです。新戦闘機を共同開発するフランスもそれを懸念していました。

 このためドイツ政府は、F-35Aの導入を強く希望していた空軍参謀総長を更迭して、同機を「トーネードIDS」後継機の候補から外し、日本への提案事例などからライセンス生産が認められる可能性が高いF/A-18E/Fと、ユーロファイターのいずれかを後継機として充てることになりました。

 ドイツとフランスの新戦闘機計画にはスペインも参加を決定しています。スペインもF-35計画に参加せず、現時点では導入もしていませんが、スペイン海軍の強襲揚陸艦「ファン・カルロス1世」に搭載されている垂直離着陸戦闘機AV-8B「ハリアーII」の後継機として、F-35Bを導入する可能性が浮上しています。

 これまで見てきたフランス、ドイツ、スペインはそもそもF-35の開発計画に参加していませんでしたが、開発計画参加国だったにも関わらず、いまだ導入を決定していないのがカナダです。

 カナダは2008(平成20)年、同国空軍が運用するF/A-18A/B「ホーネット」戦闘機の後継機として、65機のF-35Aを導入すると決定しましたが、2012(平成24)年4月にカナダの会計検査院が「最初からF-35Aの導入という結論ありきで機種選定が行われた」との指摘をしたことから、当時の保守党政権はこれを一旦保留としました。

カナダ衝撃の白紙撤回、その本当のところ

 結論ありきで機種選定をしたと指摘された保守党政権に対しては、カナダ国民からの批判が大きく、2015(平成27)年に行われた総選挙では、F/A-18A/Bの後継機種選定を最初からやり直すことを公約に掲げた自由党が勝利しました。同党の党首で総選挙後に首相へ就任したジャスティン・トルドー首相は、公約通りF-35Aの導入を白紙撤回し、そしてくだんの機種選定は改めて最初から行われることになりました。

 一方でカナダ政府は新戦闘機に関し、アメリカ企業が受注することを困難にする案を検討しているとも報じられました。これは、ボーイングがカナダの航空機メーカー、ボンバルディアに対し、カナダ政府からの補助金によって旅客機を不当に安く販売していると提訴したことを受けてのもので、カナダに不利益を与えた国の企業、すなわちアメリカ企業への対抗措置というわけです。

 しかし2019年5月上旬に、カナダの新聞「オタワ・シチズン」など複数のメディアは、カナダ政府が態度を軟化させたと報じており、F-35Aが新戦闘機に導入されるとの見方が強くなっています。

 ここまで述べてきたように、現時点でF-35を導入していない国の事情はすべて異なりますが、一部で聞かれるような「GAO(アメリカ会計検査院)が指摘しているF-35の問題点を重く見て導入しなかった」という理由によるものではない、という点においては共通しています。

 F-35に限らず、国内外のすべての防衛装備品は、程度の差こそあれ問題を抱えていますが、その詳細が明らかにされる事は多くありません。GAOは毎年、その時点でF-35を含めた主要な防衛装備品が抱えている問題点を発表していますが、この発表がなされているからこそ、納税者は前年度より問題が減少しているのか増加しているのか、どんな問題が残されているのかを知り、F-35の導入の是非を考えて議論することができます。

 税金を投じる防衛装備品の導入の是非を考えて議論するのは、民主主義国家にとって必要なことだと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思いますし、議論に必要な情報が開示されているという意味において、F-35は民主主義国家に適した戦闘機であるとも思います。

【写真】初飛行は1949年、フランス初のジェット戦闘機「ウーラガン」

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