「フェリー銀座」四国〜九州航路どう活用 物流の「働き方改革」追い風 役割も変化

「フェリー銀座」四国〜九州航路どう活用 物流の「働き方改革」追い風 役割も変化

宇和島運輸のフェリー「おおいた」(2015年1月、宮武和多哉撮影)。

高速道路網の進展でフェリー需要が減少するなか、愛媛県と九州のあいだでは複数の旅客フェリーが運航されています。本州〜九州間の観光や物流に、四国〜九州航路を組み込む動きもありますが、どのように活用されているのでしょうか。

本州〜九州を関門海峡経由から「四国ルート」へ切り替える動き

 1980年代から2000年代にかけ本四架橋3ルート(明石海峡大橋および大鳴門橋、瀬戸大橋、しまなみ海道)が開通し、本州〜四国間の交通体系はフェリー輸送から、これら連絡橋を利用した輸送へと移行しました。一方、四国〜九州間は航路の数こそ減ったものの、フェリーがまだまだ「メインの輸送機関」となっており、近年さらに状況が変化しています。

 2019年現在、四国〜九州航路は5つあり、徳島に寄港する東京〜北九州間のオーシャン東九フェリーを除き、すべて九州に近い愛媛県に発着しています。愛媛県発着の4航路は、それぞれどのような特徴があり、どう利用されているのでしょうか。

八幡浜〜臼杵航路

 愛媛県と九州を結ぶ航路のうち、特に存在感を増しているのが、愛媛県西部の八幡浜港と、大分県の臼杵(うすき)港、別府港を結ぶ2航路です。このうち、宇和島運輸と九四オレンジフェリーの2社が運航する八幡浜〜臼杵航路は、船体こそほかの航路より小さいものの、2社合計で1日14本と本数が多いのが特徴です。ビジネスや物流、観光などに幅広く利用されていますが、近年はとりわけ物流の比重が高まっています。

 八幡浜港は、愛媛県内を縦貫する松山道が2000年代に整備されたことで、県都の松山市、ひいては本州との距離がぐっと縮まりました。国の主導で物流ドライバーの働き方改革が叫ばれるなか、フェリーを利用することで法定の休息時間を確保できるため、たとえば大阪〜大分間など、本州と九州を結ぶ輸送を山陽道・関門海峡経由から、この航路を組み込んだ「四国ルート」に切り替える事例が増えているのです。大阪から大分や宮崎方面などは、こちらのほうが関門海峡経由より走行距離も少なくて済みます。トラック利用の増加もあってか、宇和島運輸はこの八幡浜〜臼杵航路へ2014年、2017年に相次いで新造船を投入し、利便性を向上させています。

 身ひとつで大阪と九州を移動する人にとっても、八幡浜からのフェリーを裏ルート的に活用することが可能です。大阪〜松山間のJR高速バス「松山エクスプレス」のうち夜行便が八幡浜港まで延長運行されており、大阪を23時ごろに出発し、フェリーに乗り換え最短で翌11時すぎに臼杵へたどり着くことができます。運賃は季節によって変動しますが、新幹線(新大阪〜小倉)と特急(小倉〜臼杵)の半額程度です。

観光メインの八幡浜〜別府航路、クルマ需要が好調な「国道」航路

 八幡浜港に発着するもうひとつの航路である別府航路は、観光利用がメインで、臼杵航路とは性格が異なります。

八幡浜〜別府航路

 宇和島運輸が単独で運航する八幡浜〜別府航路は、観光客の利用が全体の半分近くを占めます。また、別府側では接続する高速バスや鉄道の選択肢が豊富とあって、4航路のなかでも、ここから福岡や熊本に抜ける観光客が多いのが特徴です。もともと温泉街である別府への観光によく使われる航路でしたが、近年は広島県からしまなみ海道を経由する観光の回遊ルートとしても利用されており、2017年も利用者数が前年比5%ほどの伸びを示しています。

 なお、別府航路、臼杵航路とも所要時間は3時間ほど。いずれも船内レストランがあり、宇和島名物の「じゃこ天」を乗せたうどんがオススメです。

三崎〜佐賀関航路

 八幡浜のさらに西、佐多岬半島の西部に位置する三崎港(愛媛県伊方町)と、大分市の佐賀関港を結ぶ航路を、国道九四フェリーが運航しています。「国道」とは、この航路が高知県と大分県を結ぶ国道197号の一部(海上区間)に指定されていることに由来します。

 国道九四フェリーの本数は1日16往復と多く、愛媛県と九州を結ぶ4航路のなかで唯一、年間の利用者が20万人を超えています。ふたつの地域を隔てる豊後水道を最短距離(海上の距離は30km程度)で結ぶこの航路は、所要時間が1時間10分と他航路と比べても短く、全長5m以下の一般的な乗用車なら1万円を切る運賃(運転手1名ぶんの運賃含む)で利用できるのが強みです。

 そのぶん、三崎港から松山市内までは距離にして100kmほどあり、自家用車でも移動に2時間は見たほうがよいでしょう。八幡浜駅、松山駅から三崎港へ直通するバスもありますが、それぞれ約1時間、約3時間かかるうえ、本数も限られています。そのため、フェリーの利用者もほとんどが、クルマとともに移動する人です。

鉄道旅行に便利な松山〜小倉航路、しかし苦戦も

 愛媛県西部と九州を結ぶ航路が盛況のなか、県都である松山市に発着する航路は、苦戦が続いています。

松山〜小倉航路

 松山市内の北西部に位置する松山観光港と、北九州市の小倉港を結ぶ航路は、鉄道やバスを利用する人にとって特に使いやすいといえるでしょう。ターミナルである松山観光港からは、バス(港〜高浜駅)と鉄道(伊予鉄高浜線)で容易に松山市街地へ出ることができます。小倉港に至っては、動く歩道で数分移動すればJR小倉駅という立地で、港から福岡市の天神に直通する高速バスに接続することも可能です。フェリーはそれぞれの港を21時55分に出航し、5時ちょうどに到着する夜行1往復のみの運航ですが、時期によっては増発されます。

 その一方、松山観光港が高速道路のICから遠いこともあり、他航路で収益の柱となっている貨物需要は伸び悩んでいます。2013(平成25)年に「さんふらわあ」ブランドでこの航路を運航していた関西汽船(現・フェリーさんふらわあ)が撤退、石崎汽船(松山市)の子会社として発足した松山・小倉フェリーに受け継がれたのちも、設備の更新がやや遅れ気味です。就航している2隻は1987(昭和62)年製と建造から30年以上が経過しており、座席はほとんどが、いわゆる雑魚寝の大部屋となっています。

※ ※ ※

 四国〜九州航路はいまでこそ持ち直してきたとはいえ、1990年代と比べれば貨物・旅客とも大幅に減っており、決して安泰とはいえません。2018年10月には高知県西部の宿毛市と大分県佐伯市を結ぶ宿毛フェリーが運休、のちに再開断念を表明したため、宿毛市が新たな事業者を探している状況です。宿毛フェリーは2000代から苦戦が続いていましたが、高速道路網の進展により宿毛から本州へのアクセスが容易になったことも、フェリー需要の減少に追い打ちをかけました。地元の宿毛では、大阪や東京に得意先を見出す会社もあるなど、ビジネスの指向が対岸の九州よりも本州に向きつつあるのです。

高速船よりもフェリー? 「ならでは」の強みとは

 四国〜九州間にはかつて、松山観光港と門司港を結ぶ「シーマックス」、伊予港と大分港を結ぶ「スピーダー」など、複数の高速船も走っていましたが、運賃がやや高かったこともあり、いずれも短命に終わっています。前述したトラックドライバーの休憩需要なども考えれば、本記事で紹介したフェリー4航路においては、高速移動はそれほど求められていないのが現状です。

 2016年の熊本地震では、これらフェリーの強みが大きく発揮されました。高速道路網が寸断するなかで、フェリーは四国から九州へ作業車と人員を送り続けたのです。また、とある自動車メーカーは、愛媛県で製造された部品を航送し、大分県内で組み立てるというルートを確立させています。大分県側で人手の確保が難しくなっている事情もありますが、災害にも強く、安定した輸送が見込めるフェリーがあってこその施策といえるのではないでしょうか。

 その一方、観光面においては今後の課題があります。愛媛〜大分の各航路は両地域の観光に大きく貢献しているものの、たとえば愛媛県八幡浜市、大分県臼杵市には観光客があまり滞在しないというデータが出ています。港の背後にある観光地だけでなく、これら港のある街が持つ「八幡浜のちゃんぽん」や「臼杵石仏」といった素材を、どのように打ち出していくかが注目されます。

関連記事(外部サイト)