車窓に日本海の絶景 トンネル群が物語る難所の歴史 路線バスで旅する新潟・山形県境付近

車窓に日本海の絶景 トンネル群が物語る難所の歴史 路線バスで旅する新潟・山形県境付近

日本海沿いの国道345号をゆく新潟交通観光のバス(2016年8月、宮武和多哉撮影)。

新潟・山形県境付近、日本海沿いの景勝地「笹川流れ」を走る路線バスは、その景色だけでなく、山側に点在する風変りなトンネル群なども見どころです。並行するJR羽越本線の車窓とはひと味違った旅を楽しめます。

国道の「片側だけ」にあるトンネル、その正体は?

 2019年6月18日(火)に山形県沖で発生した地震により、新潟県北部の村上市では最大震度6強の揺れを観測しました。この付近の海沿いをゆくJRは、一部区間で地震発生から翌日にかけ運休し、並行する国道345号も一部に落石がありましたが、大きな被害はなく、路線バスや観光施設などは早々に通常営業を再開しています。

 村上市北部の海岸線は奇岩や絶壁が続き、「笹川流れ」として国の名勝に指定されています。これに沿うでは、車窓から日本海に沈む夕日を眺められますが、「日本海夕日ライン」との通称を持つ国道7号および345号を走る路線バスの車窓も、景色だけでなく、鉄道とは違った楽しみがあります。

 そのひとつが、沿線に点在する風変りなトンネル群です。海岸沿いの崖下を進む区間では、いくつものトンネルやロックシェッド(落石除け)を通りますが、一部、これらが山側(上り線)だけにあり、下り線側はひたすら海に面しているという区間があります。これらトンネル類の一部はもともと、のものでした。

 の村上駅から、山形県に入って最初の鼠ヶ関(ねずがせき)駅(山形県鶴岡市)までのあいだは、1924(大正13)年に開業しました。当時、この区間は険しく脆い崖が海岸スレスレまで張り出し、陸路での移動自体が困難だったこともあり、200m強のトンネルにも2年以上を費やすほどの難工事だったそうです。結果として村上〜鼠ヶ関間はでも最後の開業区間となりました。開業後も、笹川流れの北側に位置する越後寒川(かんがわ)〜勝木(がつぎ)間は落石が多かったようで、戦後にロックシェッドが追加で設置されています。

 国道の片側だけに連続するトンネルやロックシェッドは、この越後寒川〜勝木間の旧線です。同区間は山側へトンネルが新設される形で1968(昭和43)年に複線化(線路を1本から2本に増設)され、使われなくなった旧線がその後、トンネルやロックシェッドをそのまま残して国道の拡張に転用されたため、山側の上り線だけに構造物が残ることになりました。

 このようなの旧線跡は、国道以外にも海沿いのいたる所に残っており、集落の生活道路となっていたり、廃トンネルが農機具置き場になっていたりします。

わざわざ歩いてみたい「県境」

 バスから笹川流れの車窓を楽しむとすれば、夕陽が沈む時間帯がよいのですが、この区間を走る1日2往復(平日のみ運行)の新潟交通観光の路線バスは、残念ながらその時間に運行していません。笹川流れ名物の赤く大きい夕日を眺めるのであれば、列車を利用するのがよいでしょう。

 とはいえ、バスの車窓の見どころはほかにもあります。剥き出しの崖が連なる山側には、江戸時代に住民たちの手によって掘削された「大正浦隧道」などの廃トンネル、廃道が見えます。先人の苦労を思い起こしながら眺めてみるのもよいかもしれません。

 また、少し離れた山形県側のあつみ温泉駅(山形県鶴岡市)近辺では、状態の良い未使用のトンネルも山側に見えます。これも、国鉄時代にの複線化を目的として建設されたトンネルです。国鉄の財政難から1983(昭和58)年に工事が中断され、現在に至ります。

 新潟県の村上駅から山形県の鼠ヶ関駅、さらにその北のあつみ温泉駅までのあいだは、新潟交通観光と庄内交通が運行する計4路線のバスを乗り継いで移動できましたが、2019年3月、そのうち1路線が廃止されました。新潟交通観光が運行していた、府屋(ふや)駅前から県境部にあたる伊呉野(いぐれの)までの路線です。

 もともと4本の路線バスはつながっておらず、バスが走っていなかった区間もあったのですが、2008(平成20)年の市町村合併で村上市域となった山北町(さんぽくまち。笹川、府府屋を中心とする、かつての新潟県最北端の町)では、町内を通るの駅間が長く、大きな病院や商業施設が駅から離れており、そのあいだをつなぐ交通機関が求められていました。このため、村上市が新潟交通観光に補助金を出す形で2013(平成25)年に路線バスを延伸させたものの、府屋駅前〜伊呉野間は利用者が極めて少なく、予約に応じて運行する乗合タクシーに置き換えられました。

 乗合タクシーは路線バスと接続していないため、府屋〜鼠ヶ関間はを利用するのがよさそうですが、鼠ヶ関駅で降り、300mほど歩いて伊呉野集落に立ち寄ってみるのもいいでしょう。「伊呉野」は新潟県側の地名で、庄内交通の伊呉野バス停は山形県側にあるのですが、そこから県境をまたぎ100mほど離れた新潟県側に新潟交通観光の伊呉野バス停がありました。両県を隔てるのは舗装もされていない小さな路地で、民家のプロパンガスや家庭用エアコンの室外機などが並んでいるなど、ある意味「日本一さりげない県境」といえるかもしれません。

※一部修正しました(8月11日8時50分)

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