奈良〜関空直結の「リニア支線」現実性は? 奈良県が検討、その背景

奈良〜関空直結の「リニア支線」現実性は? 奈良県が検討、その背景

常電導方式のリニアモーターカーである中国の上海トランスラピッド(2018年1月、草町義和撮影)。

リニア中央新幹線の「奈良市附近」駅と関西空港を直結しようという「リニア支線」構想が浮上しました。奈良県五條市に設ける大規模広域防災拠点と表裏一体のこの構想、背景にはどんな事情があるのでしょうか。

奈良県が調査・検討費2500万円を計上

 奈良県は2019年度補正予算で、リニア中央新幹線の名古屋〜新大阪間開業時に開設予定の奈良県新駅から関西空港までをつなぐ「リニア支線」の調査・検討費として2500万円を計上しました。

 このリニア支線構想は4月の奈良県知事選で4選を果たした荒井正吾知事が公約に掲げていたものです。単線・常電導方式のリニア新幹線を建設し、リニア中央新幹線の奈良県新駅から、奈良県大和高田市、御所市、五條市、和歌山県橋本市を経由し、関西の玄関口である関西空港まで20〜30分で接続し、将来的には京都府京田辺市付近で北陸新幹線にもつなげたいとしています。

 2019年6月14日付の産経新聞によると、荒井知事は会見で「難しいチャレンジだが、需要や工事費を検討し実現可能性を探っていきたい」と意欲を示し、「リニア中央新幹線が品川−新大阪間で全線開通すると、関空からの結節点でもある新大阪への集中が過剰になる」として新ルートを整備する意義を強調していますが、関西空港から大阪、京都へ流れがちな外国人旅行客を奈良に呼び込みたいというのが本音でしょう。

 ただ、元運輸官僚である荒井知事の構想は壮大です。このリニア支線と表裏一体の関係にあるのが、南海トラフ地震に備えて県南部の五條市に2000m級の滑走路を併設した大規模広域防災拠点を整備する計画です。こちらも今回の補正予算で調査費が計上されています。

 この防災拠点は、リニア中央新幹線の建設工事で発生する排出土砂を、専用軌道を建設して奈良市から五條市まで運搬して土地の造成に活用し、さらに専用軌道の用地をリニア支線に転用するというのです。あまりにも壮大な計画の背景には一体どのような事情があるのでしょうか。

「奈良市附近」駅の位置とリニア支線構想をめぐる思惑

 要因のひとつに考えられるのは、リニア中央新幹線の名古屋〜新大阪間の整備をめぐる綱引きです。1973(昭和48)年に策定された中央新幹線の基本計画は、東京〜大阪間の主要な経過地を甲府市附近、名古屋市附近、奈良市附近と定めており、2011(平成23)年決定の整備計画もこれを踏襲したことから、奈良県はリニア中央新幹線が奈良を経由するのは決定事項であるとしています。

 ところが京都府は、この計画は鉄軌輪方式の従来型新幹線を前提としたもので、リニア方式にふさわしい新たなルートを検討すべきとして、リニア中央新幹線は京都・新大阪を経由して関西空港まで建設すべきという運動を行っています。

 訪日外国人旅行客の増加により、関西空港の重要性は増すばかりです。奈良県のリニア支線構想は、京都の構想を意識しつつ、空港利用者を奈良に直接引き込みたいという対抗意識があるのかもしれません。

 ただ奈良県側も一枚岩というわけではありません。「奈良市附近」とされているリニア新駅の設置位置をめぐり、奈良市、生駒市、大和郡山市が名乗りを上げて、決着がついていないのです。

 こうした状況を受けて、奈良県知事を会長に置き、奈良県と県内各市町村から構成される「リニア中央新幹線建設促進奈良県期成同盟会」は、5月30日開催の今年度総会で、リニア中央新幹線の「奈良市附近」の駅位置を早期に確定し、一日も早い全線開業に向けて一致協力していくことを決議しました。

 このなかで、「奈良市附近」の駅位置については「リニア効果が県南部さらには紀伊半島全体に及ぶよう交通結節性の高い位置とすること」としていることから、県内を縦断するリニア支線構想は、県内融和策としての性格もあるものと思われます。

ポイントは「法律」と「常電導」

 このリニア支線計画に現実性はあるのでしょうか。奈良市から大和高田市、御所市、五條市、和歌山県橋本市を経由して関西空港に至るルートは、直線的につないでも約80kmの距離があります。これを20分で走破するには表定速度240km/h、30分でも180km/hが必要で、最高速度が200km/hを超えることは確実ですから、全国新幹線鉄道整備法の規定に基づき「新幹線鉄道」に分類されます。しかし、基本計画に定めのない新線の位置付けになるため、まずは法律の壁が立ちはだかりそうです。

 次のポイントはリニア中央新幹線の超電導リニアとは異なる「常電導リニア」としている点です。一般的に常電導リニアといえば、ドイツが開発して、中国で実用化されている「トランスラピッド」を指すことがほとんどですが、超電導電磁石を使用していないことを示す以上の意味はなく、厳密な定義は存在しません。日本でも名古屋鉄道の主導で「HSST」という常電導リニアの開発が進められ、愛知高速交通東部丘陵線「リニモ」として開業しています。

 HSSTは原理上300km/hの高速運転が可能ですが、そのためには本格的な技術開発や走行試験が必要です。また、JR東海は超電導リニアを採用する理由として、磁力が強く浮上量を大きく確保できるため、地震に強いことを挙げています。リニア中央新幹線の支線が常電導リニアでは、リニア中央新幹線計画そのものの整合性が問われかねません。

 現時点では、実現可能性は別として、政治的駆け引きとして浮上した構想のように思えます。具体的な検証をするのは、調査結果の発表を待つしかないようです。

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