震災被害の南相馬に東京行き高速バス復活 混乱期から「地元の足」支えたバス会社の軌跡

震災被害の南相馬に東京行き高速バス復活 混乱期から「地元の足」支えたバス会社の軌跡

東北アクセスの南相馬〜東京線に使われる車両。「相馬野馬追」のラッピングが施されている(画像:東北アクセス)。

東日本大震災で大きな被害を受けた福島県南相馬市と、東京を結ぶ高速バスが運行を開始しました。震災直後の混乱期から地元の足を支えた新興のバス会社が、満を持して打ち出す路線です。現地は復興が進み、新ステージを迎えつつあります。

富岡町からは、東京直通2路線に

 福島県南相馬市のバス事業者、東北アクセスが2019年7月18日(木)、高速バス「南相馬・双葉ライナー」の運行を開始しました。JR常磐線の原ノ町駅前を起点に、南相馬市役所、南相馬バスターミナル(以上、南相馬市)、常磐富岡インター(富岡町)を経由して、東京駅鍛冶橋駐車場まで1往復(金・土・日の南相馬発と土・日・月の東京発は各1便増便)の運行です。

 これに先立つ6月20日(木)には、新常磐交通(福島県いわき市)がいわき〜東京線のうち2往復を常磐富岡インターまで延伸しました。2011(平成23)年3月の東日本大震災以降、東京へ直通する交通手段がなかった相双地区(福島県双葉郡、南相馬市、相馬市)で、高速バスの開業が続いています。

 相双地区は東日本大震災において津波や原子力災害により大きな被害を受け、JR常磐線も長期間不通となりました。帰還困難区域や避難指示解除準備区域が2019年7月現在も未だ残りますが、常磐線は順次運行を再開し、不通区間は残すところ浪江〜富岡間のみとなるなど、復興も着実に進捗しています。

 南相馬市には、国などによる「福島イノベーション・コースト構想」に基づいて、無人航空機や災害対応ロボットなどの一大開発研究拠点「福島ロボットテストフィールド」が2019年度末に全面開所する予定です。国内外のICT技術者がこの地に集まるようになり、首都圏や海外との人の移動も活発になることが予測されます。

 高速バス南相馬〜東京線は、かつて前出の新常磐交通が同様の路線を運行していましたが、震災で営業所が被災して以降、運休しています。新常磐交通によるいわき〜東京線の常磐富岡インター延伸は、それが一部再開された形であり、常磐富岡インターから東京までは、東北アクセスの南相馬〜東京線とダブル・トラック(競合関係)です。両者の路線は、発着時間や予約方法、東京側での停留所に違いがありますが、富岡町から東京への足は利便性が格段に向上しました。

 一方、寸断されていたJR常磐線も、2019年度末までに全線で運行が再開されます。同時に東京〜仙台間を直通する特急の運転も発表されており、高速バスの大きなライバルとなるでしょう。高速バス事業者は、インターチェンジ周辺などに自家用車と高速バスを乗り換えるための無料パーク&ライド駐車場を設けていることもあり、地元の人の自宅から東京都心までトータルの所要時間で競争するともに、ニーズに合った運行ダイヤやお得な運賃をアピールするものと考えられます。

地元貸切バス会社にすぎなかった東北アクセスの大成長

 相双地区は、福島県にありながらも仙台の商圏に位置し交流も大きかったことから、大震災後はまず仙台への交通再開を望む声が大きく、東北アクセスが大震災直後に素早く乗合事業許可を得て、南相馬〜仙台線の運行を開始しました。なお同社は当時「はらまち旅行」という社名で(「はらまち(原町)」は南相馬市の旧市名)、旅行業と貸切バス事業が中心でした。

 その後、常磐道の全通(2015年)にともない東北アクセスは南相馬〜仙台線を高速道路経由に付け替えるとともに、南相馬〜福島線なども運行を開始し、一躍、中堅の高速バス事業者に成長しました。このたび運行を開始した東京線は、同社で初めてのトイレ付き車両による、座席指定(予約)制路線です。

 東北アクセスの遠藤竜太郎社長は、大震災直後に仙台線の運行を開始した際、「混乱のなか、まずは地元の足を確保したいと必死でした。高速バスの運行に際しては、仙台駅前に停留所を設置する許可を得るべく関係機関を走り回りました。特例の臨時運行扱いにすれば停留所は必ずしも必要なかったものの、あえて正式な許可を得たことで、その後の路線展開が実現しました」と、当時を振り返ります。

 今回の南相馬〜東京線も乗り入れる南相馬バスターミナルは、東北アクセスが2018年に新設したもので、南相馬ICの目の前に位置し、170台ぶんのパーク&ライド駐車場を備えます。すでに仙台線と福島線が乗り入れており、「地元の皆様には、南相馬の新しい玄関口をしてご認識いただいています」(遠藤社長)。東京線の運行開始により、遠藤社長は南相馬市のさらなる交流人口拡大に寄与したいと考えているとのことです。

「お客様から『早く東京線を』と何度もお声をいただきました。構想から5年かかってしまったものの、課題をひとつひとつ社員らが解決し、ようやくこの日を迎えました」(東北アクセス 遠藤社長)

 これに対し南相馬市の門馬和夫市長は、東京線の運行初日に行われた式典に参列し、「東京直通の交通手段を実現してくれ大変頼もしい。しかし、これも通過点に過ぎません」と、復興への思いを語りました。

 なお、東北アクセスが東京線用に用意した新車には、地元の有名な祭り「相馬野馬追」の絵がラッピングされています。さっそく運行開始の翌週、7月27日(土)から29日(月)に「相馬野馬追」が開催されます。首都圏などで暮らす南相馬出身者が、このラッピング車両で数多く帰省してくるはずです。

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