進む空港民営化、航空会社の参入はアリなのか 否定していた国が一転、その経緯と現状

進む空港民営化、航空会社の参入はアリなのか 否定していた国が一転、その経緯と現状

新千歳空港。2020年6月から民営化される(画像:Photock)。

地方空港の民営化が加速するなか、航空会社がその運営権の獲得に動くことについて、当初否定的だった国や地元の考えが一転しています。何が問題で、なぜ風向きが変わってきたのでしょうか。

空港民営化と航空会社の関係、風向きに変化

 国や自治体が管理する地方空港を民営化する動きが加速しています。経営の効率化、活用の最大化などが目的です。

 2016年4月の関西エアポート(日本のオリックスとフランスのヴァンシ・エアポートが設立した運営会社)による関西空港および伊丹空港の民営化を皮切りに、仙台(2016年7月)、高松(2018年4月)、神戸(2018年4月)、静岡(2019年4月)、福岡(同)が相次いで民間経営に移行しました。2019年7月には、北海道7空港(新千歳、函館、旭川、帯広、釧路、女満別、稚内)の運営権委託における優先交渉権者が、新千歳空港ターミナルビルを管理する北海道空港株式会社を筆頭企業とした17社もの大コンソーシアム(企業連合)に決定しました。オリンピックイヤーとなる2020年には、その北海道7空港と熊本が民営化されることで、一連の空港民営化は大きな山を越えていくことになります。

 2019年7月時点で民営化の方針が決定し、その事業者選定プロセスに入っているのは広島空港のみで、長崎、鹿児島なども民営化の話が浮上していますが、長崎については新幹線の「フル規格化問題」がひとつの壁になっています。この行方次第で、大阪から長崎までの新幹線の所要時間が4時間40分(一部在来線活用の場合)なのか、3時間15分(全線をフル規格の新線として整備した場合)なのかという「航空vs新幹線」の優劣を分ける差が生じることから、長崎空港民営化の応募者が手を上げるには不透明要素が大きく、民営化方針を決定するにはもうしばらく時間がかかりそうです。これ以外では北九州空港で民営化の話があるものの、後述するように事情がやや複雑です。

 それぞれの民営化プロセスでは、多様な企業がコンソーシアムを組み、運営権の獲得に向け競争を繰り広げてきました。もともとそれら空港においてターミナルビルの運営会社に参画していた航空会社も、主要空港での主導権を握るべく競争に関与していますが、そのあり方について当初、否定的な見方を示していた国や地元が、一転して航空会社を取り込む考えに変わってきています。空港民営化に航空会社が関与することの何が問題で、そしてなぜ風向きが変わってきたのでしょうか。

空港民営化から締め出された航空会社

 空港民営化が始まる以前の空港ターミナルビル運営会社と航空会社、すなわちJAL(日本航空)、ANA(全日空)の関係は、両社がビル会社に出資し取締役を派遣するケースがほとんで、多くはその関係を現在も継続しています。主要空港においてはチェックインカウンターの長さや施設配置などについて、大手2社間の取り合いやスペースの拡充といった問題でビル会社や航空会社間に争いはあったものの、ビル会社の役員ポストが航空会社の人事ローテーションの一環として機能していることもあり、ビル会社と航空会社はおしなべて「平穏な関係」にあったといえます。

 しかし空港運営が民営化されると、運営権者は航空管制以外の国や地方自治体が行っていた諸業務を引き継がねばならず、空港使用料(着陸料や停留料)や家賃、スペースなど多くの面で両者の利害が相反することになるため、空港と航空会社の関係はより緊張感を増します。

 その緊張が最初に高まったのが、仙台空港のコンセッション(施設所有権を公的機関に残したまま、運営権を民間事業者に売却する方式)です。当時、経営破綻からの再建途上にあったJALは、新たな戦略投資を制限する、いわゆる「8.11ペーパー」によって身動きが取れないなか、ANAは三菱地所を筆頭としたグループに入り運営権獲得に動きました。

 これに対し、国などからなる審査委員会より異論が出されました。「本来航空会社と空港運営会社は利益相反的関係にあり、運営側に航空会社が入ることで空港運営の競争環境確保に支障が出るのではないか」「大手航空会社間の競争は歓迎すべきだが、片方(ANA)だけが空港運営に携わることで競争阻害的な環境が生まれるのでは」との疑念が呈されたのです。最終的に東急電鉄を筆頭とするコンソーシアムが勝利するのですが、これは三菱地所を筆頭とするグループにANAが加わっていることへの否定的な評価が影響したと見られています。

 これを受け次の高松空港においては、もともとJAL、ANAが空港ビル会社の株主であり取締役を派遣していたにもかかわらず、運営主体の香川県が「航空会社のコンソーシアム参画を認めない」という強硬な方針を打ち出しました。この時点で、航空会社が空港民営化に参画することは難しいとの認識が広まったといえるでしょう。

JAL、ANAがタッグ! 福岡で風穴を開ける

 この流れを変える転機となったのが、2019年4月の福岡空港民営化です。福岡はJAL、ANAとも空港ビル会社の株主で取締役を派遣していたこともあり、一定の条件においてコンソーシアム参画が認められていました。そして両社は揃って、九州電力、西日本鉄道をはじめとする地元コンソーシアムに三菱商事などとともに参画します。し烈な運営権対価(公共施設の運営によって利用料金を収受する権利に対する対価)の競争を勝ち抜き、同コンソーシアムが出資し設立されたFIAC(福岡国際空港)が空港運営の事業主体となりました。

 福岡における事例の何が転機だったかというと、JAL、ANA両社がタッグを組んで地元と連携し、空港運営に参画するというスキーム(枠組み)の先駆けとなった点です。仙台の事例と異なり「一方の航空会社が空港経営に参画することで有利を得ることが航空会社間の競争を阻害する」という批判を避け、航空会社としての「主権」を共同で残す方向に舵を切ったわけです。

 その後のコンペにおいてもこの方式が踏襲され、熊本では三井不動産を筆頭とするグループにJAL、ANA両社が入り、九州電力、九州産業交通などの地元企業と組んで勝利します。前出のとおり北海道7空港のコンペでも、北海道空港や三菱地所、東急、日本政策投資銀行など17社からなるコンソーシアムに参画し、3連勝で運営権者に名を連ねることとなりました。

 仙台の事例から一転、航空会社が参画したコンソーシアムが立て続けに勝利を収めることができた背景には、コンペを審査する側の意識変化があり、そこには多分に、関空・伊丹における民営化後の経緯が影響しています。

国の考えを変えたきっかけは「関空の台風被害」

 関空・伊丹の運営主体であり、オリックスおよびヴァンシ・エアポートを母体とする関西エアポートに関しては、2016年の民営化直後から「運航実績などの情報を開示しない」「商業売上拡大を最優先とした空港会社の事情による施設拡充や改編が行われている」「航空会社とは、利害が対立するものとして対話をしない」といった不満の声が航空関連業界から聞かれました。また、空港オペレーションを熟知した元NKIAC(新関西空港株式会社。関西エアポート以前に関空・伊丹を運営)の人材とノウハウが流出しているともいわれました。

 これらの問題が、2018年9月の台風禍で噴出します。関空の大規模浸水、関空連絡橋の損傷といった大きな被害に際し、空港会社の復旧対策が後手に回り、国が全面介入したことで、「民営化が正しかったのか」「誰のための民営化か」などの疑問が航空関係者から多く聞かれました。

 このような環境のなか、空港の運営権者選定にあたっては、「国などが行っている空港オペレーションを踏襲するにあたり、運航会社側のノウハウを十分理解したうえで空港の危機管理を行うことが重要」「海外の航空会社の誘致や国内路線の再構築を図るうえでも本邦メガキャリア2社を敵に回すことは得策でない」といった点が、審査委員会および国土交通省航空局のあいだで認識されたのでしょう。コンソーシアムからの事業提案において有効性、蓋然性(ある程度確かな見込みがあること)を審査するうえで、JAL、ANAの参画が大きな意味を持つようになったことは明らかだと筆者(武藤康史:航空ビジネスアドバイザー)は考えます。

 その最たるものが、北海道7空港民営化に際して打ち出された、経営の難しい「地域航空ネットワークの充実・活性化」というテーマでしょう。北海道空港を筆頭とするコンソーシアムの提案には、JAL、ANAが九州の地域航空会社の経営問題に際し、航空会社の系列を超えて設立したLLP(有限責任事業組合)の手法を活用することが盛り込まれています。すなわち、現在道内に就航しているJALグループのHAC(北海道エアシステム)とANAグループのANAウイングスが事業統合を進めつつ、両社の路線において訪日客を念頭に、国際線へ接続する便のコードシェアをJAL、ANA双方が行う(ANAがHAC便と、JALがANAウイングス便とコードシェア)というものです。ただしこのことは、筆者が複数の本件関係者へ取材してわかったもので、当事者はこれを明確に認めてはいません。

「JAL、ANAを取り込めばコンペに勝利」の問題点

 過去の九州でのLLP活用策は、鹿児島の離島におけるJAC(日本エアコミューター)のネットワーク力を巡り、ANAがJAC便にコードシェアを行うことを「一方的な利益を得る」としてJALが反対するなど、両社の利害対立から形骸化せざるを得ませんでした。それを鑑みると、北海道での協業にはそのような片方の利権や利害の問題がなく、国土交通省航空局本来の地域航空維持策にも沿うものであって、一定の前進と評価され得るものでしょう。

 しかしそれが、北海道空港グループだけの地域活性化策として提案され、大きく評価されたことについて、筆者は問題と考えます。このような具体策は、JAL、ANA2社以外に提起することは不可能で、さらに今後の地方空港民営化においても「地域活性化策としてのネットワーク強化策」として横展開できるでしょう。いわば「JAL、ANAを取り込んで航空ネットワークを語らせればコンペに勝利する」という「ゲームチェンジャー」的役割を両社に与えてしまっているわけです。

 本来、公共交通の安定的成長を支える大手航空会社は、だれが勝とうがその地域で必要な航空網活性化策を考え実行する責務を負っており、特定コンソーシアムの提案としての得点源になるようなことはすべきでないと筆者は考えます。

 とはいえ、先述したように空港のオペレーション上は、航空会社が運営に参画するメリットが存在します。勝者が誰かによらず一定の航空会社参画枠を設定し、最終的に航空会社が空港の経営や運営に関与するなどのやり方は妥当だと思いますし、大手2社は常に「各応募者とは等距離」を前提に、公共交通の担い手として空港の繁栄を考えていくべきではないでしょうか。

 ただこの大手2社と違って悩ましいのは、「地元航空会社」が空港の民営化に関わるケースです。そして当面、その焦点となるのが、先に複雑な事情を抱えているとした北九州空港の事例です。

「微妙な雰囲気」の北九州

 これまで北九州は神戸空港のケースと同じように、最終的には福岡空港と一体化した運営になるものと見られていました。神戸空港は、関西エアポートの100%出資会社である関西エアポート神戸が運営者となりましたが、これは「コンペは行うものの近隣の大空港(神戸の場合は伊丹、関空)の運営者が包括して運営を行う」こととなった事例です。

 しかし、福岡空港の運営側(FIACの親会社)は想定以上に福岡の運営権対価に多くの支出を強いられたため「北九州に投資する余力はない」とのスタンスなのと、北九州側の地元経済界や自治体には、「福岡従属の空港になってしまうと独自の誘致活動に制約が課され、福岡の発着枠や運用時間制限のおこぼれを拾うだけの空港になってしまう」との危機感をにじませています。

 そこで地元では、「福岡空港との効果的な共存を図りつつ、北九州空港の発展を加速するような民間活力の導入」を目指すことが良いのではないか、との声が広がっています。このような事例に対し、北九州に拠点を置くスターフライヤーが地元企業からコンソーシアムの参加を要請された場合の対応は、JAL、ANAが主要空港での主導権をつかむという動機とは違い、悩ましいものがあるでしょう。

 同社をはじめ、宮崎に拠点を置くソラシドエア、北海道のAIRDO(エアドウ)、静岡のフジドリームエアラインズなど、地域に根ざし地域とともに発展する航空会社には、空港ビル会社の「座布団(役員ポスト)」を確保したり、空港での主導権を握ったりするといった政治的思惑はないながらも、空港運営者と一体となって航空ネットワークの拡充を図ることは必須です。地元連合が分裂でもしない限り、地元と地域航空会社が同じ利害のもとで空港を運営することは、大きな意義を持つことも事実だと思います。

 なお、現時点で民営化の事業者選定プロセスに入っている広島空港は、すでに募集要項が公示されていますが、現時点でJAL、ANAがどこと組むのかは決定されていないようです。

 空港民営化を最も公正かつ有効なものとするために、航空会社の参画はどうあるべきなのか、国土交通省航空局は北海道7空港の事例の是非を再度吟味したうえで、今後の案件について創造的な対処を行っていくべきだと筆者は考えます。

【地図】「民営化空港」一覧

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