異形の戦車「Sタンク」 砲塔など不要! スウェーデンの「未来戦車」は何を目指した?

異形の戦車「Sタンク」 砲塔など不要! スウェーデンの「未来戦車」は何を目指した?

スウェーデンの「Sタンク」こと、最初の量産型Strv.103A型。極端な前面傾斜装甲の車体に直接主砲が取り付けられて砲塔が無い(画像:月刊PANZER編集部)。

「戦車」はその黎明期こそ試行錯誤が見られたものの、WW2後はおおむね定番のスタイルに収束していきました。ところが1960年代、スウェーデンが完成させた通称「Sタンク」は、定番から外れる異形で、新機軸を盛り込んだものでした。

極限まで車高を低くしたらこうなった

「戦車」といえば、車体に回転する砲塔を載せているのが当たり前のように思えるかもしれません。戦車が実用化されたのは1915(大正4)年の第1次世界大戦ですが、1917(大正6)年には回転する砲塔付きのルノーFT17軽戦車が生まれ、以降、21世紀の現代までこの基本形は変わっていないように見えます。

 ところが1960年代に、この基本形を覆す新型異形戦車が登場します。スウェーデンの開発した「Strv.103(Stridsvagn〈ストリッツヴァグン〉103)」、通称「Sタンク」です。薄くとがった車体に直接、主砲を取り付けた独特の形状をしており、砲塔が無いぶん車高も低く、人間よりやや高い程度の2mちょっとしかありません。

 砲塔の無い形式はこれ以前にも、自走砲とか突撃砲などと呼ばれるものが登場しています。砲塔が無いぶん構造が簡単で安く、早く作れることもあり、第2次世界大戦では多用されていました。しかし、主砲をすぐに敵に向けられないなどの欠点もあり、戦後は「戦車といえば砲塔付き」が当たり前になります。

 しかし、スウェーデンは戦後になって「砲塔無し戦車」を新しく開発し、組み込まれた新機軸も相まって注目されました。

 まず砲弾を自動的に主砲に装てんする「自動装てん装置」です。実は、Sタンクがこんな形になったのは自動装てん装置を取り付けたかったのが最大の理由です。乗員が重い砲弾を狭い車内で扱うことなく、ボタン操作で弾を込めることができ装てん手(弾を込める乗員)が要らなくなるというメリットをスウェーデンは選択しました。1960年代では画期的な装置でしたが真っすぐに主砲とつなぐ必要があり、全体がとても縦長になってしまいました。それで砲塔に収まりきらず車体に完全に固定することにしたのです。「走る砲塔」と表現する人もいます。

 主砲の狙いをつけるためには車体ごと動かすことになり、それはそれで難しそうですが、左右の履帯(いわゆるキャタピラ)を逆向きに動かしてその場で旋回する「超信地旋回」を素早くできるよう、転輪(履帯内側の車輪状のもの)の数を最小限の4個にして接地面積をできるだけ小さくし、履帯が地面をこする摩擦を減らしました。また車体の傾斜角度を変えるため、油気圧式懸架装置で転輪の高さを個別に調節できるようにするなど、姿勢制御の精度は高く、射撃性能は砲塔付きの従来型と遜色なかったそうです。

斬新すぎた「未来戦車」

 Sタンクの乗員は3名で、車体右側に車長、左側に操縦手兼砲手、その後方背中合わせに通信手が配置されていますが、操縦することと主砲の狙いをつけることが同じ作業になるので、車長席と操縦手席どちらでも戦車の操縦と主砲を撃つことができました。通信手が後ろ向きに座っているのは、後進時の操縦手も兼ねているためです。通常の戦車ならば砲塔を旋回させるような、主砲を標的に向けつつ距離を取りたい場合などに操縦することが考えられます。後進スピードは前進スピードとほとんど変わりません。

 エンジンは車体右側にロールス・ロイス製K60ディーゼルエンジン(240馬力)、左側にボーイング502ガスタービンエンジン(300馬力)を搭載します。通常はディーゼルエンジンのみで走行し、高速走行時などの大出力が必要な状況でガスタービンエンジンを併用する仕組みです。2種類のエンジンを駆動力として併用するのは新機軸でしたが、戦車として実用された例は後にも先にも「Sタンク」のみでした。また水に浮く水陸両用車でもあります。

 その独特の形と新機軸で、「未来戦車」の原型になるかもしれないと、注目もされました。

「未来戦車」使ってみるとどうだったか

 1967(昭和42)年にノルウェーがドイツ製「レオパルド1」戦車と比較試験をした際には、ハッチが閉じた状態ではSタンクの方が先に目標を発見し、先に目標に命中弾を与えたそうです。1968(昭和43)年にはイギリスがボービントンにある陸軍戦車学校でテストし、砲塔無しの方が有利と報告しました。1973(昭和48)年にはイギリスの戦車乗員が操縦して、同国製チーフテン戦車と9日間の訓練を実施しましたが、可動率は90%以上を維持したそうです。1975(昭和50)年、アメリカのフォートノックスにある機甲センターで行われたテストでは、アメリカ製M60A1E3戦車よりも射撃精度は良いが、意外にも発射速度は、手動装てん式より平均で0.5秒遅いと報告されています。

 Sタンクは前述のように、車高が低くて見つかりにくく、守りの待ち伏せをしている時はよいのですが、移動しながら攻撃するような場合には使いがたかったようです。旋回しやすいよう履帯の接地面積を小さくしたため悪路に弱く、低い車高から伸びる長い砲身が地面の起伏に引っ掛かったりもしたそうです。

 平べったい傾斜した装甲は弾を弾きやすそうですが、装甲の厚さは車体前面でも60mm程度と薄く、APFSDS弾と呼ばれる槍のように細くとがった徹甲弾(運動エネルギー弾とも)は、傾斜装甲にも突き刺さるので、命中すれば貫通されてしまいます。

 このように、Sタンクは注目されたものの、実際に採用したのはスウェーデンだけでした。1967(昭和42)年から1971(昭和46)年までに290両が生産され、照準器や射撃管制システム、エンジンなどを換装し、防御力を増すために成形炸薬弾(HEAT弾、化学エネルギー弾とも)が車体に当たる前に炸裂させてしまう柵状装甲やサイドスカートが追加されるなど改修され、スウェーデン陸軍にて使われ続けましたが、それも1997(平成9)年に限界を迎えます。

 結局、「未来戦車」とまで称されたSタンクこと「Strv.103」も、21世紀を前に全車退役し、砲塔のあるスタンダードな形の、ドイツ製「レオパルド2」に交代しました。定番の形がやはり一番、使い勝手が良いようです。

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