座席回転、クーラー設置… 進化を続ける通勤電車 その歴史を変えた画期的な車両5選

座席回転、クーラー設置… 進化を続ける通勤電車 その歴史を変えた画期的な車両5選

103系電車(2017年9月、伊原 薫撮影)。

おもに都市圏で、通勤や通学用として走る通勤電車。車体の軽量化や省エネ化を図るなど進化を続けています。ほかにも乗客の快適性を追求し、クーラーやクロスシートを設置するなど、通勤電車史で外せない車両を5つ選んでみました。

最多の製造数を誇る国鉄103系電車

 鉄道にとって重要な任務のひとつが、通勤通学輸送です。特に都市部の鉄道は、毎日何十万人もの通勤通学客を乗せて走っています。安全性はもちろん、錆びないために、省エネ化のためになど、通勤電車は様々な工夫が取り入れられ、日々進化しています。

 そこで今回は、日本の通勤電車の歴史を変えた車両を、筆者の独断と偏見で5つ選んでみました。

 通勤電車と聞いて、1963(昭和38)年に登場した国鉄103系電車を思い浮かべた人は多いのではないでしょうか。1957(昭和32)年にデビューした101系電車がベースで、モーター車の比率を下げるなどの改良がなされました。これにより、編成当たりの製造コストや変電所の設備投資を下げることに貢献しました。

 103系電車は山手線に導入されたのを皮切りに、首都圏の路線へ次々と進出。さらに、京阪神地区や名古屋地区にも導入されました。1970(昭和45)年には営団(現:東京メトロ)千代田線への相互乗り入れ用に、前面を貫通形とした1000番台が登場。1974(昭和49)年からは運転台部分が高くなり、顔つきが少し変わったものの、1980年代に入っても大きな仕様変更をされることなく量産されました。最終的には3447両が製造されましたが、これは1形式の製造数としては日本一で、現在もその記録は破られていません。

 一時期は「通勤電車と言えば103系」という時代もありましたが、平成に入ると通勤輸送の第一線を“後輩”に譲り始めます。首都圏からは2006(平成18)年、仙台地区からは2009(平成21)年に撤退したことで、JR東日本では全車が引退。JR東海でも2001(平成13)年に全車が引退し、現在はJR九州の筑肥線と、JR西日本の奈良線や播但線などで、60両程度が残るのみとなりました。これらの103系電車も老朽化が進んでおり、引退の時は近いようです。

後のリニューアルを前提に生まれた209系電車

 国鉄時代は首都圏を席巻した103系電車ですが、国鉄末期には登場から20年を超え、その置き換えが課題となりました。201系電車や205系電車がデビューした後、国鉄の分割民営化によって生まれたJR各社は、次世代通勤車両を次々と開発していきます。その代表格と言えるのが、1992(平成4)年にデビューしたJR東日本の試作車両、901系電車です。

 901系電車のコンセプトは「コスト半分・重量半分・寿命半分」。車体を錆びないステンレス製とすることで、軽量化とともに塗装の手間を省き、車体だけでなく線路のメンテナンスにも寄与しました。また、VVVFインバータ制御などの最新技術を導入し、より一層の省エネ化も実現しました。

 そして、当時話題となったのが「寿命半分」です。それまでの鉄道車両は、30〜40年程度の使用を見込んで造られており、その間の大きな機器更新は考えられていませんでした。901系電車は10〜15年程度で機器更新や大規模リニューアルを行うことを前提とし、その際に新技術を導入することで、省エネ化やメンテナンス性の向上を目指しました。つまり、「寿命が来たら廃車」ではなく、「寿命が来たら更新工事」という意味合いの“寿命半分”なのです。

 901系電車は3編成が、それぞれ異なる構造や機器構成で製造され、様々な試験が行われました。この成果をもとに、1993(平成5)年に209系電車が誕生。京浜東北線や南武線、中央・総武緩行線などの103系電車を置き換えました。さらに、901系電車の設計思想はJR東日本だけでなく、全国の鉄道会社にも広く浸透するなど、日本の鉄道車両を大きく変えるきっかけとなりました。

ステンレス車体のパイオニア東急7000系電車

 この209系電車をはじめ、現在の鉄道車両の多くはステンレス車体です。鉄製車体では錆びないように表面を塗装したり、錆びることを見越して材料を分厚くしたりしていますが、ステンレスなど錆びない材料であればそれも不要となり、材料の節約や軽量化にもつながっています。

 こうしたステンレス車体を日本で初めて採用したのが、1962(昭和37)年に登場した東京急行電鉄(東急、現:東急電鉄)の7000系電車です。それまでも、車体にステンレスを用いた車両はありましたが、いずれも外側の板のみで、骨組みの部分は鉄製でした。東急7000系電車を開発した東急車輛製造は、アメリカの車両メーカーの技術を提供してもらうことで、骨組みも含めてステンレス製とすることに成功。側板や屋根の厚さを半分以下とし、塗装も省略するなど、その効果を最大限に発揮したのです。

 東急7000系電車は134両が製造され、田園都市線や東横線、さらには営団(現:東京メトロ)日比谷線にも乗り入れるなど、広範囲で活躍。さらに、1980年代からは車体を転用し、機器を最新のものとした7700系電車への改造が行われました。東急で廃車となった後は地方私鉄などに譲渡され、一部は現在も走っています。また、同時期に東急車輛製造で造られた南海6000系電車は、2019年まで1両も廃車されることなく活躍を続けており、錆びない車体の威力を発揮しています。

一般車両で初めてクーラーを設置した名鉄5500系電車

 1950年代後半、鉄道各社は輸送力を確保するため次々と新型車両を開発していきました。これらには様々な新技術が導入されましたが、そのひとつが冷房装置(クーラー)です。当時、特急列車には冷房車が登場しつつありましたが、特別料金が不要な一般車両にクーラーを初めて搭載したのは、名古屋鉄道(名鉄)の5500系電車です。

 基本的に定員制の有料特急列車と違い、一般車両はラッシュ時に超満員の乗客を乗せるため、それに見合う冷房能力が必要とされました。名鉄5500系電車は、各車両にクーラーを7〜8台搭載。屋根上には銀色の機械がずらりと並び、乗客にも一目で分かることから、ホームに同車が来ると喜びの声が上がったと言われています。

 名鉄5500系電車にはクロスシートが設置され、急行列車などで活躍。同社は豊橋〜名古屋〜岐阜間で国鉄と競合しており、乗客獲得に大きなアドバンテージとなりました。その後、クーラーはロングシートの通勤車両にも広まり、1970(昭和45)年には前述の103系電車にも搭載。今では鉄道車両の必須アイテムとなっています。

座席指定列車でおなじみデュアルシートは近鉄5800系電車から

 大都市の鉄道会社では、通勤ラッシュの混雑を見越して、一般車両にはロングシートが多く用いられています。一方で、昼間の比較的すいている時間帯や急行などの優等列車には、車窓を眺めやすいなど乗客サービスを向上させたクロスシートを投入したいところです。ただし2種類の車両を準備するには、費用や効率化など難しい面があります。

「それなら、ラッシュ時はロングシート、日中はクロスシートに変換できる車両にすればいいのではないか?」という考えで開発されたのが、近畿日本鉄道(近鉄)の5800系電車です。私鉄で日本一の路線長を誇る同社は、大都市の通勤輸送をこなす一方で長距離を走る列車も多く、なかには大阪や名古屋から2時間以上を走る列車もあります。そうした列車に座席変換車両を導入すれば、両方のニーズを満たすことができて一石二鳥です。

 近鉄5800系電車は1998(平成10)年に登場しました。ラッシュ時は、ドア間にある3脚の2人掛けクロスシートが90度回転。壁にぴったりとつくようスライドすることで、6人掛けのロングシートになります。この仕組みは一般的に「デュアルシート」と呼ばれますが、近鉄ではロングシート(Long seat)とクロスシート(Cross seat)の頭文字をとって「L/Cカー」という愛称が付けられています。座席の変換は乗務員室のスイッチで一斉に動作。乗客が個別に操作することはできず(クロスシート時は進行方向へ回転させることが可能)、また基本的に車庫内で行われるため、その様子は見られません。

 デュアルシートは、5800系電車とその後継である5820系電車に採用。また東武鉄道が東上線の座席指定列車「TJライナー」用として50090型電車に採用したほか、西武鉄道40000系電車、京王電鉄5000系電車、東急6020系電車などでデュアルシートを採用した車両が登場しており、座席指定列車や定員制列車の“必須アイテム”として普及しています。

 日本の経済を支えている通勤電車。その進化は今も続いています。この先どんな通勤電車が登場するのか、楽しみです。

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