425km/hの新幹線高速試験電車952・953形「STAR21」 総合力を武器にしたその戦いの歴史

425km/hの新幹線高速試験電車952・953形「STAR21」 総合力を武器にしたその戦いの歴史

滋賀県の鉄道総合技術研究所風洞技術センターに保存されている「STAR21」の952形先頭車(2011年10月、恵 知仁撮影)。

新幹線の速度向上には環境対策は必要不可欠。静かに速く走るために、高速試験車のSTAR21には、どんな機構が組み込まれたのでしょうか。車両だけでなく、レールなどインフラの技術にも工夫がありました。

環境性能を維持しながら高速化へ

 日本の新幹線は住宅密集地を高速走行する関係で、厳しい騒音規制があります。そのため、単純にモーターをパワーアップして高速走行が可能になったとしても、騒音が大きければ営業運転はできません。したがって新幹線を高速化するならば、同時に騒音を抑制する技術も高めていく必要があります。

 JR東日本が1992(平成4)年に製造した低騒音高速試験電車952・953形は、環境性能を維持しつつ最高速度を高めるためのデータを収集する目的で製造されました。愛称は「STAR21」、「Superior Train for Advanced Railway toward the 21st century(21世紀の素晴らしい電車)」の頭文字をとったものでした。

 形式がふたつに分かれている理由は、2種類の走行装置を比較するためです。952形は、これまでの新幹線と同じひとつの車体にふたつの台車を装備したボギー構造、953形は小田急電鉄の50000形ロマンスカー「VSE」のように、車体と車体のあいだに台車を装備する連接構造が採用されました。乗り心地や静粛性を比較できるようになっています。

 STAR21は、以下の4つのコンセプトをもとにデザインされました。

・安定した高速走行を実現する車両。
・環境対策を確立する車両。
・軽量化を極限まで追求する車両。
・乗客に快適な空間を提供する車両。

 同時に、この4つのコンセプトをいかに融合するかも、設計上の大きなポイントでした。

騒音を減らすために凝らされた工夫

 まずSTAR21の試験目的は、「300km/hでの営業運転の実現」でした。そのためには、試験車両はその1〜2割増しの速度である350km/hを安定して出せる性能が求められました。さらに350km/hまでの到達時間もできるだけ短くする必要性から、高速域での加速性能を高め、目標とする最高速度は400km/hとされました。

 しかし400km/hも出すと、騒音が大きくなります。騒音には車輪がレール上を転がることで発生する転動音、パンタグラフが架線をこすることで生じる摺動音、空気を切り裂いて走行することで発生する空力音などがありますが、このなかでも速度の6乗に比例して大きくなる空力音の削減には、特に対策がなされました。

 車体には、たとえば車体と窓の段差、連結部分の段差、機器類の露出など多くの凸凹があります。STAR21ではこれらを徹底的に平滑化しました。窓ガラスと車体の段差を可能な限りなくし、連結面もカバーをつけて平らにしたほか、屋上機器はすべて床下か車内に収納。パンタグラフ以外は何も載せていません。なおパンタグラフには大きなカバーをつけ、空気の流れを阻害しないようにしています。

 先頭の形状はくさび状のスタイルとなり、前後のスタイルを若干変えて比較試験を行っています。ノーズ長は1号車の952形が7920mm、9号車の953形が6500mmとE5系の約半分で短いもの。これは当時の高速試験区間にはトンネルがなかったため、高速走行に伴いトンネルの出口などで発生する空気の圧力波対策よりも、空力音削減を考慮した先頭形状ととらえることができます。

新潟県内で達成した最高時速

 新幹線は乗客からの運賃をもとに利益を出す交通機関なので、経済性も疎かにはできません。そこでさまざまな軽量化対策を試みて、当時の主力車両であった200系新幹線電車8両編成(501.4t)の約半分となる編成重量265.6tを実現しています。車両が軽くなればそれだけ動かすエネルギーを削減でき、経済性を損ねることなく高速運転が可能になります。

 STAR21の高速度試験は1993(平成5)年11月〜12月に行われました。この際、電動車を1両追加して出力を1.5倍に向上。ギア比を高速寄りにセッティングして万全の態勢で臨みました。

 12月20日23時45分に浦佐駅(新潟県南魚沼市)を発車。長岡駅(同・長岡市)を通過したあたりから速度記録に向かって加速し、燕三条駅(同・三条市)を413km/hで通過したのち、半径10000mのカーブを速度を維持したまま通過。さらに加速し、日付が変わった12月21日0時1分、燕三条〜新潟間で425km/hを記録しました。小雨が混じるなか、車輪の空転を技術的に抑える場面もありましたが、無事に試験走行を終えました。

高速化を支えたインフラ技術

 この速度記録にはもちろん、STAR21が目論み通りの車両性能を発揮したということもありますが、STAR21を支えたインフラの役割も忘れてはなりません。レール表面の小さな凸凹は、「スペノ」と呼ばれるレール削正車両で削り、滑らかにされました。これによって予期せぬ振動を抑えられるほか、車輪が発生する転動音を抑えることもできました。

 STAR21に電気を供給する架線も、CSトロリー線・TAトロリー線という400km/h走行に耐えられるものに交換。さらに架線を引っ張る力を1.5tから2tに強化して、架線の振動を抑えています。

 こういったインフラ強化も功を奏し、425km/h走行でも振動は従来の半分程度に、線路にかかる負担も200系新幹線電車(240km/h走行)よりも低いという結果が出ました。乗り心地レベルや騒音レベルも、ほぼ基準内に収まったといいます。STAR21の速度記録は、新幹線はインフラと車両の総合力で性能が決まることを教えてくれたのです。

 STAR21は予定された試験を終え、1998(平成10)年2月17日付で廃車。952形は滋賀県の鉄道総合技術研究所風洞技術センターに、953形の一部は宮城県のJR東日本新幹線総合車両センターに保存されています。

 STAR21が残した数々のデータは、のちに登場するE2系新幹線電車などに反映されました。車両技術だけでなくインフラ技術も、東北新幹線の320km/h運転に受け継がれています。

 JR東日本は試験車両として、さらなる環境性能と高速性能の両立を目指し、2005(平成17)から006(平成18)年にかけてE954・E955形「FASTEC360」を製造。さらに現在は、IoTとAIを活用した試験車両であるE956形「アルファX」が、営業運転速度360km/h、最高速度400km/hを目指して試験を行っています。

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