「ドクターヘリパイロット」の仕事を聞く 1分1秒争い命守る現場 やりがい なり方は?

「ドクターヘリパイロット」の仕事を聞く 1分1秒争い命守る現場 やりがい なり方は?

日本医科大学千葉北総病院のヘリポートに待機するドクターヘリと、パイロットの宮田貴資さん(2019年11月5日、乗りものニュース編集部撮影)。

ドクターヘリのパイロットとは、どんな仕事なのでしょうか。取材中にも出動要請が入るなか、TVドラマの舞台にもなった病院で、業務内容や必要な資格、働き方などについて聞きました。多いときには1日10回から12回も飛ぶそうです。

ドクターヘリの機内は意外とコンパクト

 傷病者のもとへ、医師や看護師と共に駆けつけるドクターヘリ。そのパイロットとは、どのような仕事なのでしょうか。今回、話を聞いたのは、航空関係事業を手掛ける朝日航洋(東京都江東区)のヘリコプターパイロット(機長)、宮田貴資さんです。日本医科大学千葉北総病院(千葉県印西市)でドクターヘリパイロットとして待機中のところ、ヘリポートに駐機している機体とあわせて取材しました。

――ドクターヘリの機内を見るのは初めてですが、思った以上に狭いですね。

 これは中型サイズで、もうひとつ大きいものもありますが、治療に必要なもの全てに手が届く空間になっているのは同じですね。操縦席には操縦士と整備士が座り、後ろはドクターとナースと患者さん、そして場合によっては付き添いの方が乗ります。ドクターの足元に、専用ストレッチャーに乗った患者さんの頭が来るよう設計されています。ヘリコプターは普通の旅客機と違い、飛行中は何かあっても私たちは後ろの座席へ移動できない構造が多いので、有事の際には後席で対処してもらえるよう、医療クルーの方々には安全講習や緊急脱出の訓練を受けていただいています。

――荷物もコンパクトにまとまっているのですね。

 薬や治療用の器具などは、バッグにまとめられています。通常用、外傷用、小児用となっていて、現場で何か足りないものが出ないように、準備を終えたら封をしておきます。ヘリが着陸したら、医療クルーはこれを持って患者の元に向かいます。

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 と、ここで出動要請があり、インタビューは一時中断となりました。

ドクターヘリ ときには河原の自転車道に降りることも

――お疲れさまでした。出動要請の電話が鳴ってからエンジンスタートまで約50秒、その後、ドクターとナースが乗り込んで離陸まで2分32秒でした。こんなにスピーディに出動するのですね。

 そうですね。離陸するときは大体の着陸場所しかわかっていません。その後、CS室(CS〈コミュニケーションスペシャリスト〉のいる運航管理室。ドクターヘリの要請を受け、出動指示を出し、天候や場所、症状などの情報収集および提供など飛行のサポートも担当する)から指示をもらって、そこに向かいます。「ランデブーポイント」という、あらかじめ登録している着陸場所で救急車と落ち合うのが基本ですが、学校のグラウンドやテニスコート、場合によっては農道など、かなり狭い所に降りることもあります。河原の自転車道に降りたときは、ヘリの降着装置(スキッド〈そり〉)の幅ギリギリでした。操縦席から真下が見えるわけではないので、どんな状況でも降りられるように、ヘリポートに帰ってきて着陸するときには「H」の字の中心にぴったり降りる訓練をしています。今日は狙った着陸場所から5cm横にずれてしまいましたが。

――先ほどの出動は、高速道路での事故でした。ドクターヘリは、救急車が行けないような山間部やへき地、離島などに行くのかと思っていました。

 ドクターヘリは全国に配置されていますから、そういった場所に出動する事もありますが、ここ(日本医科大学千葉北総病院)は普段生活しているような場所、どこにでも出動します。

――救急車とドクターヘリの違いはなんでしょうか?

 医師と看護師が現場に駆け付けられ、すぐに治療を始められることですね。それから、移動に時間がかからないこと。200km/hから250km/hのスピードで飛びますし、渋滞も関係ありませんから、重篤な患者さんを病院間で搬送する際にも使われます。

 ドクターヘリへの要請としては、救急車が到着してからドクターヘリ要請が入る「現着後要請」と、119番通報があった時点で救急車とドクターヘリが同時に出動する「覚知要請」があります。「覚知要請」とは、119番通報の内容に、明らかに重症ないし重症である可能性が高いキーワードが含まれた場合、ドクターヘリも同時に要請するというシステムです。医療行為を受けられるまでの時間をできるだけ短縮することで、救命できる可能性を上げるためのものです。

ドクターヘリのパイロット 年間およそ180日間はホテル暮らし…なぜ?

――宮田さんはなぜドクターヘリのパイロットになろうと思ったのですか?

 大学在学中にヘリコプターの免許を取得し、「これで人の役に立てる仕事をしたい」と思い、朝日航洋に就職しました。ですが、ドクターヘリの操縦は業務のひとつであって、いまはドクターヘリ専属の業務に従事していますが、いつもこればかりをやっているのではないんですよ。

――そうなんですか! ずっと同じ病院に勤務するような感じなのだと思っていました。

 関東を中心にドクターヘリが待機する各病院へ、6日から8日スパンで勤務しています。それ以前は、電力会社の送電線巡視や、報道用ヘリの操縦、旅客の輸送なども従事していました。ドクターヘリの場合は、飛行できるのが要請受付時間から(通常午前8時30分。それ以前でも準備が整い次第、対応)日没までなので、自宅から就業開始時間に間に合わない病院の場合は、近くのホテルに滞在することになります。年間およそ180日間はホテル暮らしですね。

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 ここで宮田さんが見せてくれた資料によると、ヘリコプター免許の取得後、ドクターヘリを運航する会社に入社し、各種資格を取得しつつ機長として1000時間の飛行経験を積んだのちさらに訓練を重ね、審査に合格してようやくドクターヘリのパイロットになれるそうです。また、「ドクターヘリに使用する機体の免許」「無線の免許」といった資格が必要になり、「救急医療に関する研修」も必要になります。

ドクターヘリ 多いときは1日に10回から12回も

――ドクターヘリも報道のヘリも、同じ免許なのですか?

 用途というより、重量やエンジンの数などヘリの型式によって免許が違うので、極端な話、「乗るヘリごとに違う免許がいる」と思っていただけると分かりやすいかもしれません。そこが自動車免許と大きく違うところですね。さらに年に1度、規程に沿った審査もあります。出動の合間の時間は、勉強に当てていますね。

――出動は1日に何回くらいあるのでしょうか?

 資料によると、年間で1229回となっていますが、天候によってまったく飛べない日もあるのでまちまちですね。多いときは1日10回から12回くらいでしょうか。出動先から続けて次の場所に向かうこともあります。燃料は1時間半ぶんくらい入っています。

――出動した先で天候が悪くなることもありますよね?

 あります。全般的に、山間部は平野部に比べて難しいです。全ての季節で天候が変わりやすく、風が強い場合は乱気流があります。夏は雷雲、冬は雪雲や凍結の恐れがあるほか、送電線や索道(ロープウェイやリフト)など障害物も多く、しかも発見しづらいです。天候の実測値を確認し予想と経験も加えて判断しますが、地域によっては、天候変化には特に敏感になりますね。山間部から帰れなくなると困りますから。

農作物に被害を出さないよう判断が求められる場面も

――季節によって、出動回数の違いもありますか?

 気温が高すぎたり低すぎたりして、人が体調を崩しやすい時期や、新しいことを始めて慣れてなかったり、焦っていたりする時期に多く出動があります。気温が高い日は熱中症、気温が低い場合は脳血管の詰まりや出血といった内因性の症例がよく見られます。

 交通事故が多いのは4月やお盆、夏休みや年末年始などです。地域によっては、クマによる外傷や、稲刈りの時期など機械に挟まれるというケースもあります。稲刈りが終わった田んぼもしくはあぜ道に着陸する場合もあるのですが、田植え直後などは、ヘリの風圧で苗が倒れてしまい、農作物に大きな損害が出ることも考えられます。上空から「何がどのくらい植えられているのか」を見て、着陸するのに被害が出ない場所と角度を瞬時に判断することも求められます。

――操縦以外にも、予想もつかないような、いろいろなスキルが必要なのですね! この道を目指す人に、メッセージをお願いします。

 私たちは日々、消防の方々やヘリコプタースタッフも含め、「助けるんだ」という同じ目標で行動しています。こうした志の高い場所で働けていることがありがたいと感じています。日々勉強の積み重ねですが、それだけのやりがいがある仕事だと思います。

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 この後、また出動した宮田さん。そして帰還後、まだドクターたちがストレッチャーを下ろしている横で、すぐ燃料の補給を始めた姿に衝撃を受けました。常に次の患者を助けることへ目を向ける姿に、「ひとつでも多くの命を助けるんだ」という気概と使命感を感じて胸が熱くなりました。これまで最もやりがいを感じたフライトを聞くと、「傷病者の方が助かったフライト全てです」とのことでした。

●「ドクターヘリ操縦士」のお仕事:朝日航洋株式会社 宮田貴資さん
・切替能力:☆☆☆☆☆回転
・作物洞察指数:☆☆☆☆☆回転
・着陸技術:☆☆☆☆☆回転
・現場緊迫度:☆☆☆☆☆回転
・ヒーロー度:∞回転

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